私がこの店を「分煙」にした理由。 ――人気店主が語る「分煙」ホスピタリティ―― VOL.2 「カフェ・バッハ」の分煙 “寛ぐ人”と“味わう人”が共存するために。
1970.01.01
photographs by Hide Urabe
「ゆっくり一服していってください」の気持ち。
東京・南千住にある「カフェ・バッハ」は1968年創業。半世紀近くにわたって、日本のコーヒー界を牽引してきた。「カフェブリュ」が日本ワインの聖地なら、「カフェ・バッハ」は日本におけるコーヒーの聖地だ。
しかも、聖地としての歴史は遥かに長い。店主である田口護さんは、開業当時からコーヒー豆の生産国を回り、生産者たちと向き合いながら豆の品質向上に努めてきた。近年では『田口護のスペシャルティコーヒー大全』を上梓するなど、著書を通してコーヒーの知識を伝えることにもエネルギーを注ぐ。
そんな「カフェ・バッハ」が見てきた約半世紀のコーヒーの変遷の傍らには、日本人のたばことの付き合い方の変遷がある。
「喫茶店が寛ぎの空間である以上、たばこが吸えることは当然のことでした。テーブルには必ず砂糖と灰皿を置いておく。豪華なインテリアはないけれど、どうぞお砂糖はご自由にお使いください、ゆっくり一服していってください、というもてなしの気持ちのシンボルだったんですね」と語るのは、護さんの奥様である文子さん。
スペシャルティコーヒーの普及と共に分煙化。
今もその考え方は変わらない。が、たばこを吸わない人が増えた社会情勢を受けて、2010年から分煙化を図った。「スペシャルティコーヒーが普及して、コーヒーの香りをピュアに堪能し、マニアックに味わう人が増えた。」。
奥のカウンター席とその横のテーブル席を禁煙とし、入り口の戸外に灰皿を置いて、入り口横には空気清浄機を設置した。仕切りは設けていないが、元々、33席の店内に8機の換気扇が備え付けられているほど、換気は徹底している。問題なく分煙が成立しているという。
「エリアを分けることも大切ですが、それ以前に、私たち店の側が気遣うことが大切だと思っています。たばこは煙のみならず吸殻の匂いも気になる原因のひとつ。スタッフには『灰皿に吸殻が2本溜まったら換えるように』と指導しています。その分、灰皿の数をたくさん用意しているんですよ。たばこの匂いが染み付かないよう、専門の業者による店内のクリーニングもこまめに行なっています」
禁止するのではなく、働きかける。
半世紀近く前と言えば、トイレでたばこを吸う人もいた時代だ。「喫茶店はたばこが吸えて当然」と考える田口さんだが、目の届かない場所で吸われることだけは避けようと、オープン当初から「トイレ内禁煙」を徹底してきた。「内装の焼き焦げなどが生じないよう、未然に防ぐのが店の務めであり、サービスのあるべき姿だと思うのです」。但し、トイレに入るからと言って、吸っている最中のたばこを消させてしまっては申し訳ない。そこで、「喫煙中のお客様がたばこを持ったままトイレに入ろうとすると、後ろから追いかけていって、たばこをいったんお預りして、出てきたら、お返しして(笑)」を繰り返したという。
「今は、たばこを吸いながら来店されるお客様も、入口の灰皿で消してから中へ入られます。吸う方のマナーは隔世の感があるくらい向上しましたね」と文子さん。
それはきっと、たばこを吸う人々と誠心誠意向き合ってきたからこそに違いない。
◎カフェ・バッハ
東京都台東区 日本堤1-23-9
☎ 03-3875-2669
8:30~20:00
金曜休
【実践編】 吸う人も吸わない人も快適な環境に。
ここまでご紹介してきたように、「分煙」か「禁煙」かは、現代の店づくりにおける重要なテーマのひとつです。「分煙」を体系的に知り、吸う人も吸わない人も共に快適に過ごせる環境づくりについて考えてみませんか?
◎分煙に関するお問い合わせ
日本たばこ産業株式会社