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デジタルツールを活用した店づくり Vol.2 デジタルアートを自然な空間に―「ラ・ボンヌ・ターブル」 | 料理通信

Jan 01, 1970



日々刻々と進化しつづける、デジタルツールの数々。それらは、一般企業のみならず、飲食店の現場でも、店づくりのコンセプトと共にさまざまな形で導入されるようになってきました。 そこで、シェフやオーナーの店づくりにかける想いや考えを交えながら、新たなデジタルツールを活用した店づくりの事例を紹介していきます。 第2弾は、コレド室町にオープンした「ラ・ボンヌ・ターブル」。生産者と食べ手をつなぐ哲学とともに施された遊び心あふれる仕掛け。その新たな挑戦とは。


2014年3月に開業したコレド室町2に、西麻布「レフェルヴェソンス」が新業態としてオープンした「ラ・ボンヌ・ターブル(美しい食卓)」。生江史伸シェフが薫陶を受けたミシェル・ブラス氏から授けられたこの店名、フランスでは「シンプルにうまい店」をそう呼ぶのだそう。この“シンプルにうまい”という食の感動をお客様に体感してもらうための創意工夫が、店づくりの至る所に施されている。

まずは、「ラ・ボンヌ・ターブル」の店づくりにおいて基本となる3原則をご紹介。

①Farm to table(生産者から消費者へ、農園から食卓へ)
    食材やワインなどの生産者の現場、さらにその考えや人間性をできるだけ理解し、安心で安全な理想の食材を追求する。

②Whole food(丸ごとの食べ物、命の尊厳)
    食材に敬意を払い、高水準の技術を駆使して、余すところなく使う。

③Chefs to guests(料理人からお客様へ)
    最高のタイミングで、シェフが自信を持って提供し、できるだけ直接、お客様の声を聞く。

生産者との縁、つながりを大切にしながら、食材もワインも厳選。
「レフェルヴェソンス」もそれは同様だが、未知への新たな価値を構築していくというアプローチに軸を置いているのに対し、「ラ・ボンヌ・ターブル」は、私たちが立っている“今”を改めて俯瞰して捉え、自然と人間が共存していくという点でバランスがとれた食を、よりカジュアルなスタイルで提供する店。店のコンセプトについてさらに伺ったところ、生江シェフは次のような考えを語ってくれた。

「より良く生きていくために、人間は長い歴史のなかでさまざまな知恵と工夫を積み重ねてきました。食の分野においても、ある意味、人間の恣意や作為と言えるものがたくさんありますが、それはそれでとても重要なことなわけです。大切なのは、自然とのバランスがとれているか。特にこの店がある東京のような大都市では、作為的なものに偏りすぎ、自然から乖離してしまいがちです。夏の畑で、もぎたてのキュウリを丸かじりして、そのみずみずしい味に感動した子供の頃の体験。あの感覚を大事にしたい。だから、自然に寄り添った作りのものを提供したい。けっして“自然派主義”なのではなく、“結果、自然派と呼ばれるものを提供している”ということです」。


「ラ・ボンヌ・ターブル」で供されるパンは、大阪「ル・シュクレ・クール」の岩永氏によるもの。安定した液状天然酵母をじっくりと働かせて作る製法を生江シェフも体験している。



「炭で炙った鰹、サザエのドレッシングと三陸のワカメ、すり潰した焼き茄子、おかひじき、フルーツトマト、新倉ファームから届いたバジルレッドルビン」。この料理に合わせて供されたワインは、小布施ワイナリー(長野)の「ドメイヌソガ ピノ・ノワール」。ビオロジック栽培と独自に呼称する方法で育てられたブドウから造られた“身体に沁みいる味わい”のワイン。



人工的なものを否定するのではなく、自然とのバランスをいかに取っていくか。その絶妙な感覚は、「ラ・ボンヌ・ターブル」の内装においても生かされている。
日本橋室町の新たな施設にふさわしい、モダンなデザインの店内だが、梁には古材が使われ、オフホワイトの壁と相まって、居心地の良いナチュラルな雰囲気を醸し出している。

モダンなデザインとナチュラルな風合いが調和している店内。



昼は街路からの陽光が差し込み、安らぐ雰囲気。



しかし、何と言っても特徴的なのは、壁に掛けられた3枚の絵画。クラシカルなフレームが施されたこの絵画は、実はデジタルディスプレイで、トリックアートの画像が映し出されている。

「初めに図面を見たときは、一瞬不安に思いましたよ。正直言うとね」と微笑む生江シェフ。「でも、お話ししたように、人工的なものを否定しているのではなく、大切なのは、この店らしくバランスがとれるかどうか。全幅の信頼をおいているデザイナーから、そこを理解したうえでの提案だったので、楽しみになりました」。

3枚のディスプレイを用いた「デジタル・トロンプルイユ(トリックアート)」。
そこに映し出されるアートは、食事をする客にちょっとした驚きと楽しみを与えてくれる。
絵画コンテンツは、いずれも歴史上のエポック・メイキングな象徴が題材。生産者へと想いを馳せ、自然の滋味溢れる食を味わいながら、脈々と繋がってきた歴史の題材にふれることで、その歴史の連続性の先にある“今”を感じさせられる。この店の哲学を反映している巧妙なギミックとして成立しているから、何とも不思議だ。

ひとつは、有名な「モナリザ」の肖像。これが30分ほどの時間をかけて、ゆっくり変化すると・・・。



シェービングクリームが塗られた「モナリザ」に。同じレオナルド・ダ・ヴィンチの題材では「最後の晩餐」のコンテンツがあるが、それは、中央のキリストがいつの間にか消えてしまうという仕掛け。



こちらは、徐々に真っ赤なルージュがひかれていく「マリリン・モンロー」。他には、モノクロからゆっくりと色を帯びていく「教会のステンドグラス」なども。



このトリックアートは、ゆっくりと変化する動画の絶妙な速度はもとより、デジタル画面の彩度や明度、店内の照明や外光とのバランスがすべて計算されているからこそ、成立している。ひとつでも、適切なバランスを欠くと、途端にデジタル感のあざとさが目立ってしまい、店の雰囲気を台無しにしてしまう。

このデジタル機器のサプライを担当した株式会社エヴァーフリーの代表である尾崎氏は、次のように語ってくれた。

「難題はいくつかありましたが、大きくは2つでした。ひとつは、一見デジタルだと分からない“絵画”に見せるということ。そのためには高精細のディスプレイをまず用意しなければなりませんでした。さらに、店内設置後、いかに自然に見えるかを追求。店舗スタッフのみなさんと一緒に確認しながら、細かく調光していきました。ふたつ目は、高価な機器やパソコンは使わずに、3つのデジタルディスプレイに映し出される画像を同時に変化させていくという命題。営業時間中はノンストップ、長時間再生に耐えうるプレイヤーがまず必要ですし、トリックアートを成立させるためには、ちょっとした再生のズレも許されません。そこで、シンプルな機器で同期をとりながらの再生ができる仕組みを構築しました」。


映像データが保存されたカード媒体を再生する3台のコンパクトな再生機器が積まれている。再生機器はLANケーブルでつながれ、さらにHDMIケーブルでそれぞれのデジタルディスプレイに接続。
再生ファイル内で設定された同期コマンドがシンクロし、3つのディスプレイでは同じタイミングで映像が流れるようになっている。詳細は、株式会社エヴァーフリーまで。



食は、自然からの恵み。そして、人間の創意工夫を経て、さらに分かち合う喜びが生まれる。

自然の中の一部としての自分、また、歴史という時間軸の通過点としてある“今”を意識しながら、バランスのとれたデジタルの遊びとともに、食の楽しみや感動を体感できる空間。
「ラ・ボンヌ・ターブル」は、都会における食のオアシスとして、その一歩を踏み出したようである。

◎ラ・ボンヌ・ターブル
住所 東京都中央区日本橋室町2-3-1 COREDO室町2 1F
☎ 03-3277-6055
11:30~15:00(L.O.13:30)/17:30~23:00(L.O.21:30)
無休
東京メトロ三越前駅から徒歩1分、日本橋駅から徒歩3分
http://labonnetable.jp


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