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FEATURE / MOVEMENT

フォーシーズンズホテル丸の内 東京「MOTIF RESTAURANT & BAR」vol.2

1970.01.01

photographs by Masahiro Goda text by Kei Sasaki



レポート

中村孝則(なかむら・たかのり)
1964年生まれ。神奈川県葉山町出身。ファッションからカルチャー、旅、ホテル、ガストロノミーからワイン、シガーまで、ラグジュアリーライフをテーマに、執筆活動を行なう。テレビ番組の企画や出演、トークイベントも積極的に展開。The World’s 50 Best Restaurantsの日本におけるチェアマンを務めている。

浅野裕之(あさの・ひろゆき)
1975年生まれ。岐阜県各務原市出身。大学卒業後、地元信用金庫から飲食業界に転じシェフの道を目指す。愛知県一宮市のビストロでの下積みを経て東京・青山のフランス料理レストランに12年在籍、総料理長として7店舗を統括。2013年5月フォーシーズンズホテル丸の内 東京のヘッドシェフに就任。レストラン、ルームサービス、婚礼宴会等ホテルのすべての料理を手がける。

日本屈指の食材の宝庫「北海道」との縁を生かして。

中村

今はこのどんな地域の食材を多く使っているのですか?

浅野

中道シェフがカリナリーアドバイザーに就任して、北海道の食材を使うことが多くなりました。料理の核となる食材を中心に、全体の3~4割は北海道産を使っています。

中村

たとえば、どんなものを?

浅野

まずは魚介ですね。ホタテは3~5年物です。稚貝を浜に撒き、海の中で成長させて漁獲する「地まき漁」で獲ったものです。泳きながら育つので、身がしっかり締まっていて、火を入れるとサクッとした噛み応えがあるんです。

中村

すごい、これは立派ですね。

浅野

ホッキ貝も見てください。このクオリティは築地でも相当探さなければ見つかりません。そもそも築地を経由すると厨房に届くまでに1~2日かかりますし。

中村

鮮度が違うというわけですね。

浅野

はい。ユリネやカボチャなどの野菜、キノコ類も北海道産です。シイタケは大分や岩手などの産地が有名ですが、北海道でも驚くほど良い品が栽培されているんですよ。





北海道産の食材のグレード感に驚く中村さん。ホタテを手に取ってみると、大きいものは中村さんの手を広げたくらいのサイズがある。中村さんは、ホタテの産地を訪れた経験があるだけに興味津々、漁の方法から調理法までを細かく尋ねる。

広大な砂浜を有する北海道では、ホタテの地まき漁を生育年数ごとに区分けして行ない、等級を付けて出荷する。「MOTIF」で使用するのは3~5年物。貝柱は大きく厚く、海を泳いで育ったホタテならではの引きしまった身質で弾力がある。

「納得しないと送らない」生産者たち。

中村

食材を選ぶ時、大切にする基準は何ですか?

浅野

第一に味が良いこと。これはひとえに食材が「どんなふうに育まれたか」にかかっているんですよね。メインの牛は主に香川県産のオリーブ牛を使っているのですが、牧場を訪ねた時に、大げさでなく牛たちがおいしそうに餌を食べていると感じたんです。

中村

何を食べて育ったかなどのトレーサビリティには、海外のゲストがより敏感なんじゃないでしょうか。

浅野

そうかもしれませんね。あとはありきたりですが、生産者さんの人柄も大事です。僕らは頻繁に生産の現場に行くことができないので、最後は生産者や業者の方を信頼するしかないんですよね。どんなにお願いしても「納得する品質でなければ送らないよ」という頑固な方々とお付き合いをしています。食材が届かなくて困ることもあるけれど、結局はそういう彼らの姿勢が食材のクオリティを守り、ひいてはここの料理を守るんです。





北海道、東北ではカスベと呼ばれるエイ。軟骨も食べられるヒレ部分が美味で、1枚800g~1kg前後の巨大なものが届く。足が早くアンモニア臭が出やすい魚として知られるが、これは臭みがなく張りもあり、鮮度の良さが伝わる。シンプルにムニエルで提供する。

カスベのムニエルは中道シェフのスペシャリテのひとつ。その真髄は浅野シェフへもしっかり受け継がれている。カスベの表面に軽く小麦粉を打ち、ムース状に熱したバターをかけ続けることで全体に香ばしく火を入れていく。

バターをまとい、黄金色に輝くカスベ。火が入ってキュッと締まった身が、質の高さと新鮮さを物語る。滑らかな中に心地良い弾力があり、軟骨もサクッとナイフで切れる仕上がり。バターが包み込むカスベの品の良い旨味は「クセになる危険なおいしさ」と中村さん。

小さな厨房だからできること。

中村

日本のホテルダイニングでここまでできる、やっているところは確かに稀かもしれませんね。

浅野

客室数57室の小規模なホテルだからできたことだと思います。「料理のクオリティを見直す」となった時に食材から一新できた。

中村

確かに。直営、テナントと飲食店が複数ある大規模ホテルではなかなか難しいかもしれません。

浅野

うちはルームサービス含めここしかないですから。中道シェフも話されていた通り、大きな家の台所のようなものです。スタッフは全員顔が見える関係、いわば家族です。何かやろうと思ったときに一丸になれる。これは小さいがゆえの強みですね。





素材の力をストレートに皿の上にのせることに注力する浅野シェフの料理は、工程に無駄がない。調理中のシェフにぴたりと付いて、工程ひとつひとつを確かめながら「本当にシンプルですね」と中村さん。以前、ペナン島を訪れた際に食べたカスベ料理の話を浅野シェフに伝える一幕も。

あえて「未完成」を目指す。

中村

調理する際に心がけていることはありますか?

浅野

とにかくシンプルに。料理人としてお出しするからには「あとちょっと手をかけないと申し訳ない」と思うのが常ですが、あえてその一歩手前で止める。

中村

具体的に教えていただけますか?

浅野

ホッキ貝はさっと10秒、ソテーするだけ。貝殻を器にしてリゾットと盛り付けるのですが、これがお客様にとても評判がいいんです。

中村

確かにシンプルですね。

浅野

ちょっと驚かれるかもしれませんが、中道シェフからは「ひとつひとつ未完成なものにしろ」と言われます。誤解を恐れずに言えば、肉はただ肉として皿に置かれているのが理想、と。もちろんフレンチなので、ソースは添えますが、塩だけで召し上がりたいお客様には、そうしていただけるように、と。料理人のエゴで料理してはいけない。食材とお客様との最高の出会いをもたらすのが料理人の役目であると。11皿召し上がっていただいて、トータルでご満足いただけるようにと考えています。





食材選びからそれを生かす調理法、コースとして構成する際の考えなど、中村さんの質問は止まらない。ひとつひとつ丁寧に回答しながら「後で必ず召し上がって、味を確かめてくださいね」と浅野シェフ。

傘の大きさが15cmはあろうかというシイタケは北海道美瑛産、マイタケは北海道千歳の泉郷産。「大きいからいいのではなく、味がいいんです」と浅野シェフ。シイタケは傘の部分をオリーブオイルでひたひたにしてジューシーにソテーし、逆に舞茸は薄めに割いてカリカリに仕上げる。

なかなかお目にかかれない巨大なホッキ貝。こちらもサイズだけでなく、鮮度、身質、風味と三拍子揃った逸品。立派な貝殻はそのまま器に。「お客様はこの貝殻の器をとても喜ばれる。産地や自然をより近くに感じていただけているのかもしれませんね」

日本オリーブ栽培発祥の地として知られる香川県小豆島で、オリーブ搾油後の果実を飼料に育つオリーブ牛(写真はヒレ)。産地を訪ねた浅野シェフ、「牛たちは、普通の餌だけを出している時はとりあえず食べてるって感じでしたが、その餌にオリーブの搾りかすを入れたとたん、みんな寄ってきておいしそうに食べていたのがとても印象的でした。」脂がさらりと柔らかく、赤身の風味も強い。

フレンチで日本の食材の醍醐味を伝えていく。

中村

本当に「素材ありき」を徹底されている。

浅野

そうですね。料理人が前に出過ぎないように。一方で、中道シェフは、メニューに産地や生産者を細かく記載することを嫌うんです。

中村

牛肉は牛肉、ホタテはホタテでいい、と。中道シェフは茶道にも通じておられると伺いましたが、茶人の心意気を感じますね。

浅野

私もそれでいいと思っています。でもたまにお客様のほうから「この牛肉は何か違うわね?」と尋ねてくださったりすると、うれしいですね。

中村

食への関心が高いお客様が多いでしょうから。

浅野

現在、使用する食材の8割は国産。海外からのゲストも多い環境下で「日本の食材を使ったフレンチ」を打ち出すのも私たちの役目だと考えます。素材の前に出ず、素材を謳い文句にせず。今の環境ならば、やっていけると思っています。



10~12月が旬のユリネだが、「中道シェフは年明けまで熟成させたものしか使わない、というほど思い入れを持っている」と浅野シェフ。傷が付きやすく傷から変色するため、おがくずに埋められて届いてくる。ホクホクとした食感と甘みを活かした調理法で。

~1月のディナーメニューから~

ユリネのロティ 柚子
Roasted Lily Bulb with Yuzu

無塩バターと塩と一緒にココットに入れ、極弱火で10〜15分蒸し煮に。鼈甲のように透き通った飴色は甘味が引き出された証拠。仕上げにフランス・ブルターニュ産バターの名品「ボルディエ」のバターをのせて、柚子皮を削る。ホクホクとした甘みと柚子皮の爽やかな香りとバターのコクが重なり合う味わいは、どこか菓子を連想させる。

ホタテのフリット 大葉
Breadcrumbed Scallop with Oba

塩とコショウで下味を付けてから卵白にくぐらせ、刻んだ大葉を混ぜたパン粉を付けて焼く。「手でつまんで食べていただきたい」と浅野シェフ。ザクッと割った断面に走る繊維からも、身質の締まり具合が見て取れる。皮を外した小さなスダチの実やワサビと一緒に味わう。

ホッキ貝のソテー ウドのリゾット
Sautéed Surf Clam with Udo Risotto

ホッキ貝はさっと10秒、オリーブオイルでソテーするだけ。半生に近い火入れ加減で、強い甘味と凝縮したミネラル感を引き出す。中にはリゾットが潜んでいて、ホッキ貝と絡めて食べるのだが、口いっぱいに旨味が広がって、陶然となる味わい。

牛フィレの炭火焼 茸 山葵 ソースボルドレーズ
Char-grilled Beef Tenderloin with Mushroom, Wasabi and Red Wine Sauce

繊細な肉質に由来する柔らかな食感を壊さないよう、グリルとオーブンを使って、やさしく火入れ。肉自体の味わいを存分に感じられるよう、王道のボルドレーズソースは彩り程度に留め、旨味の強いクリスマス島の塩とホースラディッシュを添えて。







――食材の産地から――

「越冬じゃがいも」の越冬のさせ方を見せていただきました。わらで包んで土に埋めます。

むしろと土をかぶせて、呼吸できるように、わらづとを刺して。

畑に立ち並ぶわらづと。北海道ならではの光景です。

鮮度の良さ、身質のよさもさることながら、北の海の豊かさを映し出して、魚種が豊富。

アンコウを手に取って見せてくれました。生きの良いまま、「MOTIF」の厨房へ送られます。

エゾアワビは、中道さんがカリナリーアドバイザー就任以来、使い続けている食材のひとつ。










The Social Salon(メインダイニング)





SHOP DATA
◎フォーシーズンズホテル丸の内 東京 MOTIF RESTAURANT & BAR
東京都千代田区丸の内1-11-1
パシフィックセンチュリープレイス7階
☎ 03-5222-5810(直通)

■The Social Salon(メインダイニング)
・営業時間
朝食 6:30~11:00(10:30LO)
ランチ 11:30~14:00(13:30LO / コースの場合13:00LO)
アフタヌーンティー 14:30~17:00(16:30LO)
ディナー 17:30~23:00(22:00LO / コースの場合21:00LO)
・価格
ブレックファストブッフェ 4100円、和朝食 4100円
ランチコース 4500円、5500円、6500円
ディナーコース 9000円、12000円、15000円
アラカルトメニューあり

■The Living Room(バーラウンジ)
・営業時間
日・月・火・水・土 10:00~24:00(閉店30分前LO)
木・金 10:00~25:00(閉店30分前LO)
ランチコースならびにアペタイザー・デザートブッフェ 11:30~14:00(13:00LO)
・価格
ランチコース 4000円、4500円
アラカルトメニューあり

*消費税、サービス料15%別
*内容・価格等変更される場合があります。

MOTIF RESTAURANT & BAR
03-5222-5810(直通)





フォーシーズンズホテル丸の内 東京「MOTIF RESTAURANT & BAR」 ──────────────────────────
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