フォーシーズンズホテル丸の内 東京「MOTIF RESTAURANT & BAR」vol.2
1970.01.01
photographs by Masahiro Goda text by Kei Sasaki
レポート
日本屈指の食材の宝庫「北海道」との縁を生かして。
中村
今はこのどんな地域の食材を多く使っているのですか?
浅野
中道シェフがカリナリーアドバイザーに就任して、北海道の食材を使うことが多くなりました。料理の核となる食材を中心に、全体の3~4割は北海道産を使っています。
中村
たとえば、どんなものを?
浅野
まずは魚介ですね。ホタテは3~5年物です。稚貝を浜に撒き、海の中で成長させて漁獲する「地まき漁」で獲ったものです。泳きながら育つので、身がしっかり締まっていて、火を入れるとサクッとした噛み応えがあるんです。
中村
すごい、これは立派ですね。
浅野
ホッキ貝も見てください。このクオリティは築地でも相当探さなければ見つかりません。そもそも築地を経由すると厨房に届くまでに1~2日かかりますし。
中村
鮮度が違うというわけですね。
浅野
はい。ユリネやカボチャなどの野菜、キノコ類も北海道産です。シイタケは大分や岩手などの産地が有名ですが、北海道でも驚くほど良い品が栽培されているんですよ。
「納得しないと送らない」生産者たち。
中村
食材を選ぶ時、大切にする基準は何ですか?
浅野
第一に味が良いこと。これはひとえに食材が「どんなふうに育まれたか」にかかっているんですよね。メインの牛は主に香川県産のオリーブ牛を使っているのですが、牧場を訪ねた時に、大げさでなく牛たちがおいしそうに餌を食べていると感じたんです。
中村
何を食べて育ったかなどのトレーサビリティには、海外のゲストがより敏感なんじゃないでしょうか。
浅野
そうかもしれませんね。あとはありきたりですが、生産者さんの人柄も大事です。僕らは頻繁に生産の現場に行くことができないので、最後は生産者や業者の方を信頼するしかないんですよね。どんなにお願いしても「納得する品質でなければ送らないよ」という頑固な方々とお付き合いをしています。食材が届かなくて困ることもあるけれど、結局はそういう彼らの姿勢が食材のクオリティを守り、ひいてはここの料理を守るんです。
小さな厨房だからできること。
中村
日本のホテルダイニングでここまでできる、やっているところは確かに稀かもしれませんね。
浅野
客室数57室の小規模なホテルだからできたことだと思います。「料理のクオリティを見直す」となった時に食材から一新できた。
中村
確かに。直営、テナントと飲食店が複数ある大規模ホテルではなかなか難しいかもしれません。
浅野
うちはルームサービス含めここしかないですから。中道シェフも話されていた通り、大きな家の台所のようなものです。スタッフは全員顔が見える関係、いわば家族です。何かやろうと思ったときに一丸になれる。これは小さいがゆえの強みですね。
あえて「未完成」を目指す。
中村
調理する際に心がけていることはありますか?
浅野
とにかくシンプルに。料理人としてお出しするからには「あとちょっと手をかけないと申し訳ない」と思うのが常ですが、あえてその一歩手前で止める。
中村
具体的に教えていただけますか?
浅野
ホッキ貝はさっと10秒、ソテーするだけ。貝殻を器にしてリゾットと盛り付けるのですが、これがお客様にとても評判がいいんです。
中村
確かにシンプルですね。
浅野
ちょっと驚かれるかもしれませんが、中道シェフからは「ひとつひとつ未完成なものにしろ」と言われます。誤解を恐れずに言えば、肉はただ肉として皿に置かれているのが理想、と。もちろんフレンチなので、ソースは添えますが、塩だけで召し上がりたいお客様には、そうしていただけるように、と。料理人のエゴで料理してはいけない。食材とお客様との最高の出会いをもたらすのが料理人の役目であると。11皿召し上がっていただいて、トータルでご満足いただけるようにと考えています。
フレンチで日本の食材の醍醐味を伝えていく。
中村
本当に「素材ありき」を徹底されている。
浅野
そうですね。料理人が前に出過ぎないように。一方で、中道シェフは、メニューに産地や生産者を細かく記載することを嫌うんです。
中村
牛肉は牛肉、ホタテはホタテでいい、と。中道シェフは茶道にも通じておられると伺いましたが、茶人の心意気を感じますね。
浅野
私もそれでいいと思っています。でもたまにお客様のほうから「この牛肉は何か違うわね?」と尋ねてくださったりすると、うれしいですね。
中村
食への関心が高いお客様が多いでしょうから。
浅野
現在、使用する食材の8割は国産。海外からのゲストも多い環境下で「日本の食材を使ったフレンチ」を打ち出すのも私たちの役目だと考えます。素材の前に出ず、素材を謳い文句にせず。今の環境ならば、やっていけると思っています。
~1月のディナーメニューから~
――食材の産地から――
The Social Salon(メインダイニング)
SHOP DATA
◎フォーシーズンズホテル丸の内 東京 MOTIF RESTAURANT & BAR
東京都千代田区丸の内1-11-1
パシフィックセンチュリープレイス7階
☎ 03-5222-5810(直通)
■The Social Salon(メインダイニング)
・営業時間
朝食 6:30~11:00(10:30LO)
ランチ 11:30~14:00(13:30LO / コースの場合13:00LO)
アフタヌーンティー 14:30~17:00(16:30LO)
ディナー 17:30~23:00(22:00LO / コースの場合21:00LO)
・価格
ブレックファストブッフェ 4100円、和朝食 4100円
ランチコース 4500円、5500円、6500円
ディナーコース 9000円、12000円、15000円
アラカルトメニューあり
■The Living Room(バーラウンジ)
・営業時間
日・月・火・水・土 10:00~24:00(閉店30分前LO)
木・金 10:00~25:00(閉店30分前LO)
ランチコースならびにアペタイザー・デザートブッフェ 11:30~14:00(13:00LO)
・価格
ランチコース 4000円、4500円
アラカルトメニューあり
*消費税、サービス料15%別
*内容・価格等変更される場合があります。