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FEATURE / MOVEMENT

畑を「福畑」と命名。福永麻子さんの畑仕事2年生

2023.05.15

畑を「福畑」と命名。福永麻子さんの畑仕事2年生

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

連載:世界のアーバン・ファーミング事情

都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。

泥とも虫とも縁のない都会暮らしをしてきた福永麻子さんが、生まれて初めて鍬をもち、東京・世田谷の区民農園を耕すようになって知ったこと、つながった人たち、トライ&エラーな畑の1年を振り返ります。

福永麻子さん

福永麻子さん
渋谷・恵比寿・原宿に畑や田んぼを作り、都市に農を伝える活動を行う「アーバンファーマーズクラブ」をきっかけに畑活動を始めた福永さん。世田谷区の区民農園を借りて、ゼロからの野菜作りにチャレンジ。「畑づくりでお世話になった近所の農家さんをよく訪ねます。お話を聞くたびに、蓄積された知恵に圧倒されます」


発見と感動の連続。知らないことが多すぎる!

これまで「ちゃんと土を触ったこともなかった」という福永麻子さんの野菜作りは、この春(2019年当時)2年目を迎えた。週1~2日畑に通い、慣れない農作業に勤しんだこの1年。「本の通りにはいかないことを学びました」と楽しそうに話す。

渋谷で育ち、二子玉川に住んで15年。変わっていく町の風景に、「世田谷という場所につながるきっかけが欲しかった」と福永さん。桜の手入れをするボランティアなどにも参加したが、どこかフィットしない。そんな折、知人の紹介で出会った「アーバンファーマーズクラブ(UFC)」代表理事である小倉崇さんに案内され、UFCの畑で初めて土からニンジンを収穫。「これだ!と思いました」。同じくして区の広報で見つけた15平米の区民農園の募集に高倍率を潜り抜け見事当選。「何かに背中を押されるように畑にたどり着いた」と振り返る。

「何でも形から入る性質なので」と、まず畑に名前をつけて、地元のはんこアーティストにゴムはんこを作ってもらった。その名も「福畑」。初めて畑に立った日は、「とりあえず、土を掘ってみました。そして、塩を盛って畑の神様にご挨拶」。買ったネギがおいしかったから、その根っこを植えてみた。「するとちゃんと生えてきたんです」

こうして始まった福永さんの畑生活は、発見と感動の連続だった。小松菜から菜の花が咲いた、「そうか菜の花って、菜っ葉の花なんだ」。「空豆の茎は四角い」、「豆の種は豆なのね」。そして、「たった一粒の種から食べ物ができること」も、「毎日歩くアスファルトの下にだって土があること」も、「野菜売場に並ぶまでには、時間や工数という単位では測れない手間と愛情がかかっていること」も畑に立って初めて気づいた。

菜の花

(写真左)左側で伸びているのは空豆の茎。茎が四角いことを初めて知った。黄色い花は抜き忘れていた小松菜。「菜の花って“菜”に咲く花なんだ」と驚く。
(写真右)「芽キャベツってこんな風に生るのね」という発見も。

サヤエンドウ

(写真左)サヤエンドウ。2勝11敗で生き残った2株。
(写真右)「豆の種は豆」と畑を自分でやってみることで知った。

「土の熟成、種の成熟・・・クリックしたら明日欲しいものが手に入る暮らしの中で、“待つこと”も学んでいます」。畑に興味を持ったことで知り合った世田谷の有機農家からも、野菜作りの知識だけでなく、味噌づくりや草を撚って紐を作る技など、失われつつある知恵や大切なことをたくさん教わった。「知らなかったことが多すぎて、その驚きと喜びを伝えたい」と、ブログやフェイスブックで発信したり、ワークショップを開いたり。福永さんにとって畑は、「ハッピーの種をまき育てる場」なのだ。


福永さんの畑道具

はんこアーティストに作ってもらったゴムはんこ。季節によってインクの色を変えたり、Tシャツを作ったり、ロゴがあるといろいろアイデアが湧き、気分もアガる。

はんこアーティストに作ってもらったゴムはんこ。季節によってインクの色を変えたり、Tシャツを作ったり、ロゴがあるといろいろアイデアが湧き、気分もアガる。

畑仕事の七つ道具

(写真左)畑仕事の七つ道具。ハンドクリームを塗ってから布手袋をしてグローブを重ねる。「手荒れが防げるし、マニュキュアも剥げない」。日焼け止めもアウトドア仕様をデコルテまで3度塗り。
(写真右)慣れない手つき腰つきで鍬を使っていたら畑の先輩が教えてくれた「つちおこくん」。体重をかけて踏み込みテコの原理で掘り返せば、軽い力で耕せる。「体幹が鍛えられる!」

畑での出来事や発見を記録するためカメラを常備。畑仕事に必要なグッズを入れるバッグは布選びからオリジナルで作ってもらった。

畑での出来事や発見を記録するためカメラを常備。畑仕事に必要なグッズを入れるバッグは布選びからオリジナルで作ってもらった。

初心者向けの有機栽培の本

(写真左)畑を始めた当初、野菜を育てることについての知識はゼロ。「自然に近いスタイルでやりたい」と、手始めに初心者向けの有機栽培の本を何冊か買って勉強した。
(写真右)自家採取した種、人から譲り受けた種、ジャケ買いした種などをファイリングして持ち歩く。「次は何を植えようか」と楽しみが膨らむ。「種のつき方や形も畑を始めるまで知りませんでした」。

福永さんの「福畑」

福永さんの「福畑」。15平米の畑に植えるのは「自分が食べたい野菜や、手間がかからず楽しいペースを維持できる野菜。頻繁に通えないから成長スピードの速い作物はやめました。キュウリは誰かにもらいます(笑)」。①空豆の花、②芽キャベツが奮闘中、③風除けの燕麦、④越冬したタマネギ、⑤ジャガイモの発芽待ち、⑥サヤエンドウがやっと根付いた! ⑦次は何を植えようか・・・。


キッチンでマイクログリーンを収穫! ペットボトルファームの作り方

キッチンでマイクログリーンを収穫! ペットボトルファームの作り方

【準備するもの】
・ペットボトル、紙コップ、牛乳パックなどの空き容器
・軽石
・赤玉土
・培養土
・ミックスレタスなどの葉野菜の種

【作り方】
空き容器に軽石、赤玉土、培養土を順に敷き詰める。割合はおおよそ1:3:3だが、「ビジュアルで決めることも」。指でうっすらと溝を作り、種をまいて土をかぶせる。日なたに置き、表面が乾いたら底にたまらない程度に水をやる。1週間程で芽が出る。スプラウトの要領で新芽の状態で摘み、サラダやサンドイッチに。栄養価も高い。

牛乳カップや紙コップでも作れます。

牛乳カップや紙コップでも作れます。


(雑誌『料理通信』2019年6月号掲載)

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