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FEATURE / MOVEMENT

「小島商店」 小島康成さん ×レストラン「カルネヤサノマンズ」 高山いさ己シェフ

肉のプロを魅了する「雪降り和牛尾花沢」

2016.12.06

text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe

32カ月以上、長期飼育された未経産の雌牛「雪降り和牛尾花沢」を2010年から販売する肉屋「小島商店」。
2016年2月、雪降り和牛尾花沢の故郷、山形県尾花沢市を訪れてから、店で使い続けている高山シェフ。
おいしさの秘密を遡ると、雪降り和牛尾花沢には肉のプロを魅了する理由がいくつもありました。


「小島商店」小島康成さん
1933年仔牛肉専門卸として創業した「小島商店」の取締役副社長。兄で社長の大道さんとともに、雪降り和牛尾花沢をはじめとするプレミアムビーフを世に送り出している。

「カルネヤサノマンズ」高山いさ己シェフ
ドライエージングビーフ専門卸「さの萬」とコラボしたステーキ専門店で牛肉のおいしさを伝える。料理人向けのセミナーで肉の調理に関する講師を務めることも。実家は焼肉店。


産地の伝統がそのまま規格に




高山:雪降り和牛尾花沢(以下、雪降り和牛)は「小島商店」さんの働きかけで誕生したんですよね。
小島:はい。弊社は、牛肉を専門に扱う小さな会社です。量では大手に勝てないので「質で闘える商品が欲しい」と考えた時、優れた産地として目を付けたのが山形だったんです。
高山:なぜ山形だったんですか。
小島:第一に伝統的に雌が多い産地だったからです。芝浦(東京中央卸売市場食肉市場)では1日に競りにかかる和牛の8割前後が去勢ですが、山形は9割が雌というほど。
高山:そんなに多いんですね。
小島:牛肉の世界では、去勢より雌のほうが肉の繊維が細かく、口溶けが良いといった特徴を備えているとされていますよね。さらに山形には、牛を長い時間をかけて飼育する習慣があった。雪降り和牛の条件として970日以上の飼育期間を定めていますが、尾花沢には元々「千日和牛の勉強会」という特別な会があったほど。
高山:長く飼育することがおいしい肉になるということを知っていて、実践し続けてきた産地なんですね。
小島:はい。ならば32カ月以上肥育した未経産の雌牛をブランド化しよう、と。ブランド牛を作ろうと一から始めるのではなく、元々あった産地の伝統をブランドの規格に当てはめたんです。
高山:簡単に「32カ月」と言ってしまいますが、飼育農家さんの仕事を考えたら大変なことですよね。
小島:そうなんですよ。近頃は飼料がいいので、27カ月あればA5の牛も育てられると言われます。1頭の牛を育てるのに、だいたい月数万円ほどの経費がかかりますから、経済性を優先すると、肥育期間は短いほうがいい。
高山:A5の肉にもおいしいものはたくさんありますが、「A5だからおいしい」わけでないことに、多くの人が気付き始めているのも事実ですよね。
小島:そう。だから近頃は長期肥育に取り組む生産者は全国的に見ても増えていますが、山形の場合はそういう理屈から離れたところで、言うなら「じっちゃんの頃からずっとそうだ」みたいな感じで(笑)、伝統が受け継がれているんですよね。



小島さんが山形に注目した3つのポイント

〜「雪降り和牛尾花沢」が生まれた背景〜
1 去勢牛よりも雌の出荷が昔から多かった
2 長期肥育で牛を育てる習慣がもともとあった
3 サシがあっても量が食べられる肉質だった





脂を活かす火入れ術




高山:近頃「黒毛和牛は重くて量が食べられない」とよく聞くんですが、それって誤解だと思うんですよ。
小島:おっしゃる通り、脂の質の問題です。一般的な黒毛和牛と雪降り和牛のステーキを皿に載せて経過を観察すると、前者は次第に肉から出た脂が白く固まってくるのですが、雪降りはいつまでも透き通った液体状のまま。
高山:脂の融点が低いからですよね。
小島:はい。だからあっさり食べられる。でも味が薄いわけではない。これが雪降り和牛の大きな特徴ですね。
高山:加えて、噛んだ時の躍動感がある。脂より先に、まず肉そのものの味がダイレクトにくるんです。とくにイチボは繊維が強く噛み応えのある赤身とサシのバランスが絶妙で、もう「このままハンバーグにしてくれ」と肉が言っているかのような(笑)。だから今日はイチボでビトックを作りました。
小島:すばらしくおいしかったですね。
高山:ありがとうございます。
小島:高山シェフは今年2月に尾花沢を訪れて以来、雪降り和牛を使ってくださっているんですよね。
高山:はい。やはりどんな肉でも年間を通じて使ってみないとわからないですから。雪降り和牛は、基本、品質的に安定していますが、やはり寒い地域で育つ牛だからか、冬のほうが本領を発揮する気がします。焼いていて勢いや色っぽさを感じるんですよね。
小島:興味深いです。雪降り和牛ならではの調理のコツはあるのでしょうか。
高山:ステーキで考えると、雪降り和牛に限らず、黒毛和牛は焼くのが難しいんです。脂が多いので、焼く際の脂の酸化が食後感の重さ、先ほどの「黒毛は量が食べられない」発言につながるんですよね。
小島:どうすればいいのでしょうか。
高山:「白く焼く」こと。いたずらに焦げ目を付けないことが大事です。それから脂は赤身に比べて火が入りにくいですよね。うちはステーキに特化した店なので、大きければ700グラムくらいの塊を、バイ・オーダーで提供しなければなりません。常温に戻す時間はないので、焼きながら脂の温度を上げていかないと、火が入っても脂は溶けてない状態に仕上がってしまう。
小島:扱う料理人の側にも正しい知識と技術が必要ということなんですね。
高山:はい。上手く焼ければ、赤身の弾力と脂のさらりとした甘味を併せ持つ、極上の味が引き出せます。
小島:何かコツはありますか。
高山:今日のスカロッピーナもそうなのですが、バターとオリーブ油を半々で焼くと、油脂の温度が上がりすぎず、「温めながら火を入れる」のが上手くいきやすいです。
小島:それは試してみたくなりますね。

イチボ
モモの一部で一頭からわずか3〜4キロしか取れない稀少部位。サシは細やかで、噛み応えと柔らかさのバランスが良く、風味も濃い人気の部位。「火を入れても肉の香りがしっかり残るのが魅力」と、高山シェフ。

雪降り和牛イチボのビトック
「ロシア風ハンバーグ」と呼ばれるフランスの古典料理。粗く切ったイチボを焦げ目がつかないよう優しく火を入れて、甘さと香りを引き立てた。サワークリームのソースを添えて。

部位ごとの良さを見極める




小島:ステーキ専門店ということで、ランプやイチボをお使いいただいていますが、ほかに興味がある部位はありますか。
高山:全部ありますよ! いちど雪降り和牛のスネ肉でコンソメをつくったことがあるんですが、灰汁が出なくて驚いたのを覚えています。
小島:ありがとうございます。
高山:いい肉は煮込んで旨いですから。スネの煮込み、最高だと思いますよ。
小島:求められる部位も時代とともに変わってきているんですよね。今はサーロインやリブロースより、ステーキによし、ローストビーフによし、というモモのほうが需要が高い。
高山:なるほど。
小島:逆に20キロ前後と大きくて、場所によって肉質が変わる肩ロースは、扱いが難しいようで動きにくい。
高山:僕は焼肉ならザブトン(肩ロースの一部で高級稀少部位)が一番好きですけどね(笑)。
小島:そうなんですよね。すき焼き、ステーキ、焼肉、いろいろ使える部位ではあるのですが……。高山シェフの「焼き」に通じる話ですが、扱う側の経験、知識が問われる部位です。
高山:A5信仰の揺らぎとともに「黒毛は重い」みたいな風潮が高まっているけれど、そんなに単純なものじゃないですよね。同様にモモが最高、サーロインは脂が……というのも違う。とくに雪降り和牛のようなプレミアムビーフには、雪降り和牛にしかないおいしさがどの部位にもありますから。僕らはそれを伝えていきたいですね。



ランプ
腰から尻にかけての大きな赤身で、赤身の中でも肉質がきめ細やかで、ステーキのほかすき焼きやしゃぶしゃぶにも使える。高山シェフいわく「無理に焼き色を付けず、温めるように火を入れると、風味が立つ」とのこと。

雪降り和牛ランプのスカロッピーナ
バターとオリーブ油を温めたフライパンに「置いておく」ようにして加熱し、ランプならではの甘味、風味をそのまま皿に。葛でとろみを付けた鰹だしと西洋わさびのソースで。




◎小島商店
東京都葛飾区青戸8-26-25
☎ 03-5629-1631
www.kojima-shoten.com/
※三越銀座店地下3Fの和牛・国産子牛専門店「片葉三」は小島商店の直営店で、雪降り和牛も販売。




◎カルネヤサノマンズ
東京都港区西麻布3-17-25 KHK西麻布ビル
☎ 03-6447-4829
11:30〜14:00LO、18:00〜21:30LO(最終予約受付は20:30) 無休
東京メトロ広尾駅より徒歩5分




[お問い合わせ先]
尾花沢産牛振興協議会

☎ 0237-22-1111
HPアドレス: http://www.yukifuri-obanazawa.jp/
facebook:https://www.facebook.com/yukifuri.wagyu.obanazawa/



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