日本[和歌山]
トップシェフが和歌山の食材に出会う旅
「BVLGARI IL RISTORANTE LUCA FANTIN」エグゼクティブ シェフ ルカ・ファンティンさん、「LA CIME」オーナーシェフ 高田裕介さん
2020.12.10
「見るからに旨そうなソーセージだね」と高田シェフ。
日本は東西に長く、海、山があり、そして四季の移ろいと多様な気候風土を有しています。人々はその土地の長所のみならず短所ですら知恵を用いて「食文化」を育んでいます。和歌山は、山と海からもたらされる食材の鮮度を重視して頂くという食文化が守り継がれてきました。ですから、和歌山に暮らす人々は、生産者であろうが、食べ手であろうが、食材の「鮮度」と「素材の味」をとことん追求します。日本の食材を自身の料理に活かし、機会があれば産地を訪問しているルカシェフが今回、大阪「LA CIME」オーナーシェフ高田裕介さんと共に訪ねたのは和歌山。どんな素敵な出会いとなったのでしょうか。
ジビエだって鮮度と味重視!猟師と連携
古座川ジビエ山の光工房(古座川町)
和歌山県内でも有数の清流「古座川」は、鮎、川エビ、天然ウナギとたくさんの恵みをもたらします。その古座川沿いに「山の光工房」はあります。現在100名ほどの猟師と連携をして、捕獲、放血してから2時間以内を厳守し「山の光工房」に運びこみ、処理。同施設内で加工、瞬間冷凍し鮮度と品質を保ちます。国内最高水準の食肉管理体制であると同時に、厳格なルールを設定。トレーサビリティの確立にも力を入れています。
「捕獲する際にストレスがかかると、肉は水っぽくなります。できれば撃たれたことに気がつかないくらいに一発で仕留めたいと猟師も思っています」と語ってくれたのは、古座川ジビエ山の光工房の森田裕三さん。「ストレスがかかってしまった場合は部位ごとに販売せず、ミンチや加工品にします」。森田さんは、なんとドイツ国家認定メッツガーマイスターの資格を有しています。ビールを飲みたかったからと軽い気持ちでドイツに渡り、様々な人のご縁とご自身の努力で4年半。とうとうマイスターの称号を手にしたという職人です。
また総合格闘家で藤子プロ黙認!?ファイター ジャイアン貴裕さんは、千葉からここ古座川町に移住して、同じく移住組のマイスター森田さんの指導の下、古座川ジビエ山の光工房で働いています。若い移住者たちが、人生の大先輩猟師さんと共に生き生きと活躍しているのも、古座川ジビエ山の光工房の魅力です。
アスリートのジャイアンさんも太鼓判、鹿肉を使ったアスリートのための食品も作っています。夜は猟師のみなさんに、猟師小屋にお招きいただいたシェフたち。ここでしか味わえない猟師料理に大満足。外に出ると天の川と満天の星が、雲一つない夜空に広がっていました。
◎古座川ジビエ山の光工房
https://kozagawa-gibier.jp/
古座川の恵み
天然ウナギ(古座川町)
翌日、一行は天然ウナギが獲れる古座川の河口へ向かいます。「こればかりは、何とも言えません。全く獲れないかもしれませんよ」と、天然ウナギの仕掛けに向かう車中で、案内をしてくれた古座川町役場の細井孝哲さん。
古座川の河口近く、鉄橋の下にその仕掛けはありました。川にも干満があるそうで、干潮の時刻を見計らって現場に到着。シェフたちはゴム長を履き颯爽と川を渡っていきます。
川のちょうど中ほどに、石を積み上げた仕掛けがあります。小さくない石を1つずつ取り除いていきます。
歓声と共に、シェフたちが右往左往。うなぎだって必死です。にょろにょろと逃げ惑うウナギを6人がかりで捕獲します。その日は、大漁!なんと7匹も天然ウナギを獲ることができました。「天然ウナギは、簡単に獲れないんですよ。今日は本当に特別です」と細井さん。ですよね、古座川の神さんが恵んでくれたのかもしれません。
養殖こそ和歌山の真髄がわかる
紀州梅まだい 岩谷水産(串本町)
和歌山の梅を養殖に活かしていると聞き、次に向かったのは本州最南端の町、串本町。ラムサール条約で保護された美しい海が眼前に広がります。
「自社独自で開発した梅酢エキス配合飼料を与えることで、抗生物質などの薬品を一切投与せずに育てることができています」と、紀州梅まだいの養殖に取り組む岩谷水産の岩谷耕三さんからの説明を受けます。
「養殖の真鯛は一年半程度で通常出荷されますが、岩谷水産では2年から2年半かけて育て上げます。和歌山県の衛生管理システムを導入しており、卵から成魚に至るまでの生産履歴を明確化しています。また、魚にストレスを与えないように、生け簀の中の収容数を調整しております。」
「さらに平成26年からは梅酢に加え備長炭も飼料に配合し、漁場の水質保全にも取り組んでいます。黒潮が流れる串本の海は水質がよく、養殖に適した国内有数の漁場です。この美しい海を保全し、未来へつなぐ養殖業を実践しています」。
◎岩谷水産
http://www.iwatani-suisan.jp/
香り高いクラフトビール
ボイジャーブルーイング(田辺市)
熊野古道や熊野本宮大社を有する田辺市にある、鉄工所跡をリノベーションしたクラフトビール醸造所ボイジャーブルーイングを二人のシェフが訪ねました。
ボイジャーブルーイングのクラフトビールは4種類。コパ―は柑橘系ホップの苦み、香りのバランスがいい。ゴールドはふくよかな麦芽の風味の淡色系ビール。アイピーエーはホップの苦み香りの強い濃色系。スラスターはシトラスを連想させる香りが特長です。
「ジビエに添えるようなしっかりしたソースや栗のはちみつなどを、このアイピーエーに合わせてみたい」とはルカ・ファンティンシェフ。高田裕介シェフは「ふわっふわに揚げた太刀魚にタルタルソースをかけ、スラスターと合わせたら最高でしょう」。脳内マリアージュは最高潮に。食中酒として楽しめるクラフトビールっていうことですね。
◎ボイジャーブルーイング株式会社
https://voyagerbrewing.co.jp/
ボイジャーブルーイングにトップシェフがいらっしゃると聞いて、当日箕島漁港で水揚げされたばかりの太刀魚をもって駆けつけてくれたのは、美山物産株式会社の木島貴子さんと奥村彩乃さんです。木島さんたちは、箕島漁港で水揚げされる新鮮な魚を使って新たな販路を開拓したいと、地元の業者と共同で商品の企画開発をしています。まずは質の良い魚が揚がることを知って欲しいとシェフたちに説明します。
先人の知恵を取り戻した
紀州備長炭(みなべ町)
田辺市からさらに北上し、みなべ町へ。紀州備長炭を知らない料理人はいないといっても過言ではないでしょう。二人のシェフたちも知ってはいるけれど、生産現場に足を運ぶのは初めてでした。お話を伺ったのは、和歌山県木炭協同組合代表理事の原正昭さんです。伺った日は炭焼き小屋からモクモクと煙が上がっていました。「甘い香りがするでしょう。煙の香りでいい炭かどうかわかります」。
炭焼きは「木つくり3年、炭焼き窯つくり10年、炭焼き一生」と言われます。大ベテランの原さんすら、炭焼き技術はお父さんにはまだまだ到底敵わないのだそう。
「昭和30年代にエネルギー革命があり、熱源がガスや電気に変わり炭焼きが衰退。また、この産地では、原木林から太い幹を選び伐採し、細い幹を残す「択伐」が継承されてきましたが、伐採する幹の見極めや、切り出しに高い技術を要するため、ここ30年くらい前から製炭効率が追求されるあまり、幹を選ばず全て伐採する「皆伐」が主流に。不適切な伐採は山のサイクルを狂わせ、原木の枯渇につながってしまいました。そこで現在は和歌山県と私たち和歌山県木炭協同組合が『やまづくり塾』をはじめ、択伐技術の普及に取り組んでいます。炭焼きを始める若者も多いが学ぶすべがなかったため、何年たってもなかなか目指しているような炭にならない。『やまづくり塾』には一から炭焼きを学びたいという人が参加しています」。
「そして私たちは植林をしません。『1haで一年分の炭がつくれる』と昔は言われました。15年ほどで択伐で残した幹が成長し、それをまた伐採できるので、15~20ha の山をうまく循環利用すれば、一生炭を焼いて暮らせるというくらい、択伐は有効な技術なのです」。
山を上手に作るコツは何ですか、とシェフたち。
「山を上手に作るコツ?簡単です。いらん木を切って、欲しい木を残す。次の世代に残すという精神、悠久の時間感覚でしょうね」。
◎(参考)紀州備長炭記念公園
https://www.binchotan.jp/
◎BVLGARI IL RISTORANTE LUCA FANTIN イル・リストランテ ルカ・ファンティン
https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo-osaka-restaurants/tokyo/il-ristorante
東京都中央区銀座2-7-12
☎ 03-6362-0555
ランチ 12:00~13:30(L.O.)
ディナー 17:30~19:00(L.O.)
定休日 日曜、月曜
◎LA CIME ラ・シーム
http://www.la-cime.com/
大阪市中央区瓦町 3-2-15
瓦町ウサミビル1F
☎06-6222-2010
ランチ 12:00~13:00(L.O.)
ディナー 18:30~20:00(L.O.)
定休日 日曜(その他月1日、年末年始、夏季休暇)