日本 [青森] 「フレデリック・カッセル」フレデリック・カッセルさん
トップシェフが青森のお宝食材に出会う旅
2019.11.21
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「香りと味がしっかりしているね」とカッセルさんは前原さんの説明を聞きながら、一つ一つのハーブを丁寧に確認します。
深い森に囲まれたパリ郊外の古都「フォンテーヌブロー」に本店を構えるパティシエ・ショコラティエ フレデリック・カッセルさん。こだわり抜いた素材とフランス菓子の伝統的技術が紡ぎだす繊細なパティスリーは、世界中で多くの人々を魅了し、日本では銀座三越にショップがあります。日本の食材に対する興味関心が高く、自らのお菓子にも多く取り入れているフレデリック・カッセルさんが、青森には魅力的な食材がたくさんあると聞いて訪ねました。
青森のハーブ開拓者
大西ハーブ農園 ~六戸町~
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およそ30年前、まだハーブが料理に使われることが少なかったころに大西ハーブ農園を始めた当初から、完全無農薬、無化学肥料で栽培。駐車場から園内に続く歩道の脇にも様々なハーブが迎えてくれます。「おいしいだけでなく、人の身体によいかを大切にしている。食べたら身体が喜ぶハーブをつくりたい」故大西正雄さんの意思を継いで、スタッフ一丸となって健康なハーブつくりを続けています。
混栽されたハーブは、注文を受けてスタッフが丁寧に摘み取る
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「どこのハーブでもいいと言う方からの注文ではなく、大西ハーブ農園のハーブの味を知って、ここのハーブが欲しいと言って注文を頂いた時が一番嬉しく、やりがいを感じられるんです」と案内を下さった前原幸夫さんはカッセルさんに話します。
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「香りと味がしっかりしているね」とカッセルさんは前原さんの説明を聞きながら、一つ一つのハーブを丁寧に確認します。
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「このクオリティのハーブであれば、是非使うことを前向きに検討したいね」とカッセルさん。
◎ 大西ハーブ農園
青森県上北郡六戸町大字折茂前田3-2
☎ 0176-55-3459
栽培が難しく、面積当たりの収穫量も少ないけれど最高の和梨『かおり』
佐々木農園 佐々木松太郎さん ~南部町~
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1953年神奈川で誕生したものの、味が良いが落下しやすく日持ちが悪いということで1975年試験を中止。品種登録はされませんでした。1978年以降は中止が決定された試験品種は伐採をしなければならないと厳しく定められていますが、当時はその制限がなく、おいしい和梨だったため、生産者さんがつくり続けていました。その和梨は『かおり』『かおり梨』『香梨』などの名前で流通し、近年人気が出ています。
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佐々木さんの梨畑には、精米所から分けてもらった“もみがら”が敷き詰められていて、ふっかふか。
人よりも良いものをつくりたいと、今でも栽培の勉強を続ける佐々木さんの『かおり』は1玉 1kgを超える大玉も少なくありません。
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「青色で身が固いのがおいしいよ」瑞々しく甘い、豊潤な香りが特徴である『かおり』の見極め方を佐々木さんが伝授。カッセルさんは試食したおいしさは当然のことながら、その大きさに驚きを隠せません。
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「大きいね。フランスでは梨、リンゴ、桃と皆、手をかけず自然のままで収穫するから、野球の硬式ボールくらいの大きさが普通。高品質で大玉に仕立て上げる日本の生産者さんの努力と技術はすごい!」。
◎ 佐々木農園
3月中旬~12月の毎週日曜日に開催する「館鼻岸壁朝市」(青森県八戸市新湊)で旬の果物と野菜を販売
百年紅玉
山田農園 山田敏美さん ~三戸町~
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昼夜の温度差が大きい、盆地の青森県南部地方三戸町は、果樹栽培に適した地域の一つです。青森で“リンゴ”といえば津軽地方ですが、この県南、南部地方は少量多品種が特長のリンゴの産地で、古くから『紅玉』の里です。果樹の寿命は30年ほどと言われますが、山田農園には樹齢130年を超える『紅玉』が20本ほども存在します。これはひとえに、卓越した果樹生産技術の賜物です。
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酸味が優しい『紅玉』をガブリ。
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「面積は広くないけれど、昔ながらの品種を作り続けています」と話す山田さんに、カッセルさんは賞賛の目を向けていました。
蜜が入って人気のリンゴ『はるか』
丸末農業生産 船場敏さん ~三戸町~
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11月下旬から12月に収穫するリンゴ『はるか』は、蜜の入るリンゴとして人気です。傷がつきやすいため、袋がけをするなど手間をかけて、大切に育てています。
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船場さんは『はるか』の他に、トマトやサクランボも育てています。
青森では作り続けられている黒ブドウ『キャンベルアーリー 』
中村安宏さん ~三戸町~
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『キャンベルアーリー』は、明治30年1897年頃に、アメリカから日本に渡ってきたと言われています。今では全国でほとんど栽培されていない品種ですが、ここ青森県南部地方では今もなお人気の品種です。中村さんの栽培する『キャンベルアーリー』は樹齢40年ほど。ハウスでは樹が弱ってしまうので、露地栽培だそうです。「樹齢60年の樹もあるけれど、根が横に伸びるので樹齢40年が限界かな。樹齢10年から15年が一番よくブドウができますね」
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適度に酸味のある『キャンベルアーリー』に、カッセルさんもお菓子に使えるか思案顔。
三戸町の生産者に関するお問い合わせ
◎ 株式会社SANNOWA
青森県三戸郡三戸町八日町48-3
☎ 0179-23-0305
www.sannowa.co.jp
スーパー生産者が育てる洋梨『ゼネラルレクラーク』
マルス果樹園 工藤正孝さん ~南部町~
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青森には『ゼネラルレクラーク』という洋梨があるのをご存知ですか?果汁が多く、きめ細やかで甘く、とろける食感の果肉は濃厚。その上爽やかな酸味が、美味しさをさらに引き立てます。
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『ゼネラルレクラーク』は樹が弱く、大きな実をつけるため、枝に負担をかけないようにV字に仕立てています。大きな『ゼネラルレクラーク』を見て、カッセルさんが「なぜこんなに大きな実にするのか」工藤さんに尋ねました。
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「EUに農業研修へ行った際に、大きな『ゼネラルレクラーク』を持っていたが、食べづらいと言われてショックでしたね」そして工藤さんは続けます。「日本では、贈答用では特に、大きな実が好まれます。有難みを感じるからでしょうか」。カッセルさんは、実を大きくする理由を聞いて、改めて日本の生産者さんの並々ならぬ努力と技術力に、心から尊敬の意を表していました。
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2人はゴルフが共通の趣味であることが発覚。ハンディもほぼ同じ。いつか青森で一緒にゴルフをしましょうと大盛り上がりの二人。
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工藤さんは青森県リンゴ立木品評会で10年連続最優秀技術賞に輝くスーパー生産者。若手の育成にも力を注いでいます。「例えば10aの畑に80~90本のリンゴの木が植えられる。1本に100個実をつけるとして80~90万の売上に対し手取り50万。畑が平均2haだとして1000万の収入というように、具体的に金額提示をすると、若者もやる気をもって生産者として生きていこうと思えるじゃないですか」と工藤さんは笑いました。
梅のようで、あんずのようで 『豊後』
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梅は温暖な気候を好むため、純粋な“梅”は青森県には存在しません。実生により繁殖する梅は、自然交配によりその地域に適合していくそうです。青森には、冷涼な気候を好むあんずと交配された『八助』『豊後』といった品種があります。工藤さんが育てる『豊後』は大分原産とされますが青森県独特の品種と言われています。
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『八助』や『豊後』を、この地域では実が青いうちに収穫し、カリカリとした食感を残した赤しそ漬けにします。工藤家は、木熟した『豊後』を使って、やわらかい赤しそ漬けを作ります。「お菓子に使うのであれば、木熟して甘く香りが高まった『豊後』がいいかもしれませんね。うちでは元々木熟させているので、ご興味があればお分けしますよ」と工藤さん。6月下旬から実をつける『豊後』に、カッセルさんは、来年試してみようかなと興味津々の様子でした。
◎ 〇ス(マルス)果樹園
青森県三戸郡南部町大向船場平36-2
☎ 0179-23-5643
fax 0179-22-2477
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◎ フレデリック・カッセル 三越銀座店
東京都中央区銀座4-6-16 「銀座三越」地下2F
お問い合わせ/ご予約
☎ 03-3535-1930
営業時間 10:00~20:00 (日曜・連休最終日は19:30閉店)
※銀座三越の営業時間に準ずる
http://www.frederic-cassel.jp/