ようこそ発酵蔵へ【味噌 Miso】
神奈川・小田原「加藤兵太郎商店」
2022.04.25
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text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は酒蔵から譲り受け、90年以上大事に使い続ける木桶で仕込む味噌蔵をご紹介します。
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蒸し大豆、米麹、塩を混ぜた味噌種。白味噌、赤味噌共に塩分は12%。麹歩合は7~10割。
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味噌種を木桶に仕込み、線路の上を移動させる。木桶は90年程前に酒蔵から譲り受けたもの。
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発酵により発生するガスで味噌が膨れないよう、重石で押さえる。
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昭和30年代から使う木造の冷暖房室。冷房は仕込み水と同じ地下水で水冷。
木桶仕込みの名脇役
「いいちみそ」の名で小田原の人々の食卓に根付き、箱根などの老舗旅館からも長く贔屓にされてきた、1850 年創業の「加藤兵太郎商店」。まったりとした口当たりの白味噌も、地元では馴染みの味だ。昭和元年に建てられた木造の蔵に、60年以上使われているという機械の数々。タイムスリップしたかのような蔵の中でも特に目を引くのは、仕込み場から発酵・熟成場へと繋がる線路だ。
「おそらく味噌屋ではうちだけです」と七代目の加藤篤さん。仕込みを終え、2人がかりで押していく先には、常温管理されている木桶と、木製の扉がついた室が並ぶ。木桶が前後に2つ入り、部屋ごとに切り替え可能な冷暖房室だ。「よく“寒仕込み”と言いますが、気温が低い方が麹を管理しやすいんです。でも発酵を促すには、最初の1カ月は温度がある程度高い方がいい」
そこで、夏場は常温で、冬場は約30℃の温室で発酵を開始。逆に、出荷前に熟成の進みを抑えたり、白味噌を淡い色に止めたりするために、暑い時期は冷蔵室に木桶を移す。温度管理によって菌の活動をコントロールする味噌屋の技だ。
継承されてきた道具や製法を大切にしつつも、改善の余地を探り、新しい味噌造りの可能性も模索している。たとえば、発酵温度としては低い18℃で16カ月。さて、その味は?――「長期熟成」*をお試しあれ。
(*編集部注:現在、「長期熟成」は、発酵期間を24カ月に延ばし、商品名を「つづくみそ」に変更)
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5カ月熟成の「白みそ」と8~12カ月熟成の「赤みそ」。新しい試みで誕生した「長期熟成」*(左手前)、神奈川県産の米と大豆で仕込んだ「神奈川ブレンド」(左奥)も人気。
(*編集部注:「つづくみそ」に変更して販売中)
◎加藤兵太郎商店
神奈川県小田原市扇町5-15-6
☎0465-34-7188
(雑誌『料理通信』2017年11月号掲載)
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