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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】130年の歴史を紡ぐ酢酸菌のバトン

三重・津「山二造酢」

2023.04.24

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、地元の酒蔵の酒粕を主原料に、昔ながらの製法で酢を造る三重「山二造酢」を紹介します。

酒粕は熟成が進むと、味噌にも似た深い香りが漂う。高級酢には熟成が進んだ酒粕を使う。

酒粕を溶いた「粕汁」を袋に入れ、重石をのせて槽(ふね)搾り。


発酵槽は木の蓋をし、薦(こも)で覆って保温。天然素材は吸湿性に優れ、細かな温度調整が可能。

酢醪(すもろみ)の表面を覆う酢酸菌膜。次回仕込むもろみに移植することで、蔵の菌が受け継がれていく。 


菌の営みをそっと見守る。

三重県津市の旧街道沿い。木造の薄暗く静かな蔵では、昔ながらのほぼ手作業による粕酢造りが守られている。明治20年創業の「山二造酢」だ。

酢の原料は主に県内の酒蔵から仕入れた酒粕。数カ月~2、3年寝かせることで、アミノ酸が増え、色は濃くなり、芳しい熟成香が漂っている。これを水に溶き、何十枚もの布袋に流し入れ、槽(ふね)に並べる。雑味が出ないよう、40~50キロの重石をのせ、一昼夜かけて搾るという。

この搾り汁をアルコール、種酢と混ぜ合わせ、発酵槽に移す。発酵が終わった別の槽の表面から酢酸菌膜を移植したら発酵開始。種酢も酢酸菌も、こうして一つ前の仕込みを引き継ぐ形で、130年の歴史を紡いできた。蔵の歴史は菌の歴史、と言っても過言ではない。

発酵熱によって結露しないよう、発酵槽には木の蓋をし、薦(こも)で包み保温する。約1カ月かけて、酢醪(すもろみ)の表面ではアルコールが発酵して酢に変わり、沈殿し、全体が自然に循環する。人はその営みをそっと見守るだけ。触らず、ただ菌が活動しやすい環境を整えるのだ。

そうしてさらに1~2カ月熟成させて出来上がる酢は、黄金色で、角がなくまろやか。「搾るのも発酵も機械を使えば早い。でもそれじゃあ愛がない」と会長の岩橋弘善さん。「道具も蔵も古いけど、この景色がまたええ。ワシの代はこれでええんや」

(右)家庭用として人気の「醸造酢」330円/900ml(税込)。(左)熟成が進んだ酒粕を使った「高級酢」550円/900ml(税込)は、より優しい口当たり。共に塩と砂糖で調味済み。



◎山二造酢
三重県津市阿漕町津興2476
☎059-225-2321
https://www.yamani-vinegar.com/

(雑誌『料理通信』2019年1月号掲載)

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