【ようこそ発酵蔵へ】真夏の炎天下につくる発酵茶「相生晩茶」
徳島・那賀 富田忠夫
2023.07.31
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text & photographs by Hiromi Nakao
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、徳島の山間部で、自生する茶葉を乳酸菌で発酵させた「相生(あいおい)晩茶」を作る富田忠夫さんを訪ねます。
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産地や生産者によって摘み方や製法も微妙に異なる。富田さんはすべて手摘みで収穫。
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茶葉を茹でる妻の幸恵さん。
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代々受け継がれてきた木樽で発酵。樽は隣町に住む若い樽職人が修繕を担う。
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発酵した茶葉を罇から取り出すと、辺りにぷうんと甘酸っぱい香りが漂う。
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早朝から家族総出で天日干し。
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茶葉を乾かす合間に茎と葉を選別。
真夏の炎天下につくる、発酵茶
ほんのり山吹色をしたお茶を口に含むと広がる、やさしい香りと爽やかな酸味。この酸味の正体は乳酸菌。四国徳島の山間部では、山に自生する茶葉を乳酸菌で発酵させた「晩茶」が古くから作られている。深い山あいを流れる那賀川流域にある那賀町相生地区も生産地のひとつ。
米寿を迎えた農家の富田忠夫さんは、晩茶づくりに携わって70年以上。毎年7月のうだるような暑さの中、大きく育った茶葉を摘み取ることから晩茶づくりは始まる。枝からしごくようにして摘み取った茶葉は、大釜でムラなく茹でる。「これは大事やけん捨てずに取っとくんじょ」と奥さんの幸恵さんは、茹で終わった汁を冷まして容器に移す。茹でた茶葉は揉捻機でしっかり揉み、葉に傷を付けることで発酵しやすくする。
そうしてやわらかくなった茶葉を大きな木樽に漬け込んでいく。下の方はしっかり踏み固め、上の方はゆったり漬けるのがポイント。茶葉で木樽がいっぱいになると、重石をのせる。2日くらいすると、ボコボコと泡を出して大きな音を立てはじめる。漬け方が悪いと発酵の勢いで重石が飛んでしまうこともあるそう。「この時は心配で夜もぐっすり眠れない」という。
茹で汁を注ぎ足しながら約2週間かけて発酵させた茶葉を、樽から出し乾燥させる。まだ山の稜線に太陽が昇り切らないうちから干す準備をはじめる。乾燥はすべて天日干し、お天道様頼りだ。ギラギラと照りつける太陽の下で手際よく茶葉を広げて乾かし、頃合いを見て揉みながらひっくり返す作業を繰り返す。「暑ければ暑いほどおいしいお茶ができるんよ」と、額に汗を滲ませながら富田さん夫妻さんは笑う。
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相生晩茶200g/1100円、500g/3250円。茶葉を干している間も「新茶の発売はいつ?」との問い合わせの電話が徳島県内はもとより全国各地から。全国発送可。
◎富田忠夫
徳島県那賀郡那賀町鮎川字
大國266
☎ 0884-62-0617
(雑誌『料理通信』2018年11月号掲載)
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