HOME 〉

JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】「自然生え」の伝統製法を守り続けて。「ねさし味噌」

徳島・阿波「三浦醸造所」

2024.12.26

text and photographs by Hiromi Nakao

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は幕末の頃から味噌作りを生業とする徳島・阿波「三浦醸造所」へ。米味噌の食文化圏である徳島にありながら、「ねさし味噌」と呼ばれる豆味噌が地域の味となっています。

ねさし味噌の製法は江戸時代初期に尾張の出身の阿波藩主、蜂須賀(はちすか)公の家臣達が伝えたと言われている。
大豆は「こしき」と呼ばれる大きな蒸篭で蒸し、手早く「なまこ」と呼ばれる棒状に成形。
菌の寝床となる筵(むしろ)も手に入りづらくなっている。
青カビなどの雑菌が生えていないか丹念に確認、「変わらぬ味を、変わらぬやり方で、心をこめて」と「三浦醸造所」5代目杜氏・三浦誠司さん。

「自然生え」の伝統製法を守り続けて。

徳島は米味噌の食文化圏。けれども県内を東西に流れる吉野川中流域では「ねさし味噌」と呼ばれる豆味噌が古くから作られ、地域の味となっている。

三浦醸造所は幕末の頃から味噌作りを生業とし、5代目杜氏の三浦誠司さんがその製法を実直に守り続けている。ねさし味噌の材料は大豆と塩だけ。種麹は一切用いず、築約170年の蔵に棲む麹菌の働きを活かして仕込む「自然生え」と呼ばれる製法だ。仕込みは雑菌が繁殖しにくい冬に行われる。

まず浸水させた大豆を大きな蒸篭に入れ、薪焚きでじっくりと蒸す。蒸しあがった大豆は冷めないうちに細かく挽き、「なまこ」と呼ばれる棒状に成形して冷ます。翌日なまこを製麹蔵へ運び込み、2cm程の厚みの輪切りにし、稲藁の筵(むしろ)の上に並べていく。筵に眠る野生の菌は大豆に含まれる湿気と養分で目を覚まし、繁殖を始める。

しばらく暖かい日が続いた数週間後、蔵を訪れると菌が発酵する甘酸っぱい香りが立ち込めていた。筵の上では白いふわふわとした菌糸が大豆を覆っている。暖冬は味噌造りにも影響し、通常よりも早く繁殖が進んだとのこと。

誠司さんは「仕事はお天気任せ。自分は味噌ができる条件を整えているだけ」と穏やかに話す。輪切りの大豆の両面に菌糸が生えたら塩と水で撹拌。3年かけてじっくり熟成させ、濃厚な熟成したチーズのような香りの味噌が完成する。

ねさし味噌は「生味噌」「常温小箱入り」、そして濃厚な独特の香りとダークチョコレートをほうふつとさせる味わいの「20年もの」がある。いずれも天然醸造長期熟成で醸している。


◎三浦醸造所
徳島県阿波市市場町市場字町筋468
☎0883-36-4119
www.miura-jozo.com

(雑誌『料理通信』2020年7・8月合併号掲載)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。