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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】蔵付き酵母に任せて5年「豆味噌」

三重・鈴鹿「東海醸造」

2025.03.21

text by Miyuki Saka/photo Yutaka Matsubara

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。江戸時代から300年以上続く「東海醸造」の豆味噌は、5年の時間をかけて作る東海三県限定の味。

国産大豆と天然海塩を使い、5年熟成させることで塩カドがとれ、まろやかに。当地では赤だし味噌の名がポピュラー。熟成後もろみの表面や桶底に溜まった汁がたまり醤油。
仕込みは杉桶で。調湿性に優れ、外気の影響を受けにくいので発酵に適した環境を保ってくれる。
重石は一旦置いたら動かさない。
石出し作業。この時まで天地返しもしないので酸化せず、5年、10 年と寝かせておいても風味が劣化しない。

蔵付き酵母に任せて5年

ゴトッ、ゴトッ。大きな杉桶の中から醤油色に染まった重石が取り除かれていく。「石出し」と呼ばれる豆味噌ならではの作業だ。大豆と食塩だけを使い、長期熟成させる豆味噌は、東海三県限定の味。しょっぱそうな見た目に反して、まろやかな旨味が特徴だ。味噌カツ、味噌煮込みうどん、味噌おでんなどご当地料理には欠かせない。

「東海醸造」の創業は、元禄年間以前。三河地方から船で運ばれてくる物資と共に製法が伝えられた。「この地方の夏は高温多湿で酸敗がおこりやすい。そこで米麹や麦麹を使わずに、大豆に麹菌を直接生育させる『みそ玉製麹』の技法が確立されました」と醸造家の本地猛(もとじたけし)さん。

仕込みは寒期に。丸大豆を蒸し、種麹をまぶして味噌玉を作り、玉を潰さず杉桶の中へ入れて塩水を注入。空気を遮断するように詰めたら布で覆い、その上に1個10kg以上の重石を150個ほど積んだら、後は自然任せ。桶に棲み着く酵母や乳酸菌が大豆をゆっくりと分解するのをひたすら待つ。空調のない蔵の中で、酵母は夏はぷくぷく音を立て、冬は寒さを耐えしのぶ。

5年、寒暖のサイクルを経た味噌は、加熱処理をしないので微生物が生きたまま。煮込むほどにコクが増し、特に肉や魚介類を調理すると素材の旨みを強調する。ボロネーゼソースの隠し味に、チーズと合わせてピッツァやサラダに。ちょい足しから始めたい。

大豆のつぶつぶが残る「すずかの粒味噌」、メッシュで漉してなめらかに仕上げた「黄金味噌」の2種類がある。各500g入り747円。


◎東海醸造
三重県鈴鹿市西玉垣町1454
☎059-382-0001
www.tokaijozo.com

(雑誌『料理通信』2020年9月・10月合併号掲載)

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