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JOURNAL / JAPAN

豊かな自然を守りながら、常に新しいチャレンジを 新品種の米

[岐阜]未来に届けたい日本の食材 #35

2023.12.07

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

ある日、突然、米の新品種を発見する。そんな奇跡のようなことが起こって誕生した米が「龍の瞳」です。粒が大きく、香り、粘り、甘味が強く、食べ応えがある。でも栽培は難しい。そんな米を契約農家とともに作りながら、中山間地の豊かな田園風景の保護にも力を注ぐ、今井隆社長を岐阜県下呂市に訪ねました。

連載:未来に届けたい日本の食材

今井隆社長。自社の目の前の田んぼでは無肥料、無農薬で栽培している。

「龍の瞳」の発見はまさに奇跡でした。2000年の秋、家の前の棚田で十数本の背の高い稲を見つけたんです。農水省に勤めていたら知らない間に「米おたく」になっていたので、どこか違うとピンときて、種籾を取って翌年植えてみたんです。稲自体、葦のような野生味があり、米粒の大きさはコシヒカリの1.5倍。普通、玄米1000粒の重さは21〜23グラムなのですが、この玄米は32グラム。

炊いてみると、香ばしく粘りも甘味も強くツヤッツヤ。とんでもなくおいしいご飯でした。新品種だと確信しました。それでコツコツと試験栽培を始めました。同時に、遺伝子調査をしてもらったところ、コシヒカリの中から見つけたにもかかわらず、コシヒカリの遺伝子は入っておらず、親を特定できなかったんです。もしかしたらジャポニカ種ではなく、イタリアのリゾットなどにも使われるジャワニカ種ではないかと思いました。

2006年、新品種「いのちの壱」として認定されたため、2007年、長年勤務した農水省を51歳で退職。契約農家の方たちとともに、龍の瞳の普及と中山間地の活性化に努めることにしたのです。

一粒の大きさがコシヒカリの1.5 倍。龍の瞳は、粒が大きく、色は全体的に乳白色をしている。
(左写真)上がコシヒカリ、下が龍の瞳。比べると一目瞭然だ。販売価格はデパートで1kg1500円程度。高価だが、熱烈なファンによって支持されている。


龍の瞳は栽培が難しい上、手間がかかるんです。芽が揃って出なかったり、育苗の時に伸び過ぎたり。おまけに穂が出てから病気にかかりやすい。そのため、契約農家の方たちには作り方を指導し、厳格な栽培マニュアルに沿って栽培してもらっています。農薬は岐阜県の定める基準の3分の1程度に抑え、独自に開発した肥料に加えて、龍の瞳専用の有用微生物や毛細根を伸ばす資材を使って、食味を上げています。

また、収穫期の見極めが難しい米で、一般的に、稲穂ができてから35日ぐらいで刈り取るのですが、龍の瞳は45日ぐらいかかります。出穂36日目から2日おきに稲を刈って、食味や割れの分析試験をした結果です。大粒なので、精米にも神経を使います。「つやみがき米」という、表面を覆っているろう成分のみを取り去る、玄米に近い米も商品化しています。

今では、厳しい条件をクリアした契約農家が100軒を超えました。さらに、昨年(2016年)、わが社は生産工程管理の国際基準であるグローバルGAPを取得。今後は農薬や化学肥料を用いず、有機質肥料で栽培された有機JAS取得の龍の瞳を栽培する農家をもっと増やしていきたいですし、無農薬無施肥の龍の瞳も試験栽培しています。新品種の栽培が安定してきた今、これが僕の次なる目標です。

下里地区全体が有機に切り替える前、金子さんはヘリコプターによる農薬散布を中止する働きかけも続けていた。1年休んで病害虫が出なかったため、それ以降は中止に。

(左写真)契約栽培農家の米は、全量買い取る。写真は等級検査をしているところ。生産者の買い取り価格は、毎年1月に決まる。
(右写真)龍の瞳は背が高いのが特徴。葦のように野生味のある姿をしている。

 山深い下呂では収穫の頃を迎える9月下旬~10月上旬、深い緑と黄色い田んぼの見事なコントラストが美しい景観を作る。

(写真左)下呂の名所「巌立峡(がんだてきょう)」は名水の地としても知られ、豊かな自然を潤す。
(写真右)「 お粥米」や「雑穀米」、「発芽玄米」をはじめ、レトルトタイプの玄米ごはんも有機JASや雑穀入りなど3種を販売。



◎龍の瞳
岐阜県下呂市萩原町大ケ洞1068
☎0576-54-1801
https://www.ryunohitomi.co.jp/

(雑誌『料理通信』2017年12月号掲載)

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