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JOURNAL / JAPAN

1枚の昆布に隠された、23の手仕事 羅臼昆布

[北海道]未来に届けたい日本の食材 #44

2024.09.05

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

世界自然遺産の町、知床・羅臼へ。山が幾重にも重なりながら海の際まで迫る、豊かな自然が育むのが、世界に誇る羅臼昆布です。グルタミン酸をたっぷり含み、旨味と甘味が強いのが特徴。
他の昆布産地より格段に多い23もの工程を踏む昆布作りを学びに、羅臼天然昆布部会長・井田一昭さんを訪ねました。


羅臼天然昆布部会長の井田一昭さん。

昆布はまさに羅臼の自然の賜物。知床連峰から38河川、小さな川を入れるともっとだけど、その川によって、海には山の恵みが流れ込む。そして、海底からは湧き水もある。さらに、山からの強い吹きおろしによって、潮が巻かれて海中で対流が起こる。栄養素が海の中に行き渡るわけです。昆布はその豊かな恵みのおかげで大きく育っていきます。天然ものと養殖ものは半々。養殖ものは縄に種を植えつけ、水温を見ながら、その縄を上げ下げしながら大切に育てます。

昆布漁は7月中旬からの約1カ月半。2年もののみを刈り取るのですが、長いものは4メートルにもなります。箱メガネで海中を見ながら、昆布竿で巻き取っていくのですが、箱メガネを口でくわえるもんだから、昆布漁師はみんな歯が悪い。刈り取った昆布は、23の工程を踏んで、昆布の力を引き出していきます。

昆布は手をかけなければよいだしを生まない。昆布をしっかり巻いてバトンのようにすると、しわがのびるだけでなく、旨味が深まる。羅臼昆布にしか見られない手仕事のひとつ。
(写真左)重石をして最初の熟成段階の昆布。北海道では利尻、日高など8種合計1万7千トンが収穫されるが、羅臼産はわずか3百トン。(写真右)巻いた昆布は1日寝かせ、再び手で伸ばして、大きさを揃えて重ねていく。

まず、漁から帰ったら、玉砂利の上で日焼けしないように位置をずらしながら、干します。天候を見ながら、これを2、3度繰り返す。あるいは1日干したあとで機械干しをする。そして、2〜3日おいてから夜露に当てます。徐々に湿って柔らかくなったところで、しわを伸ばしながらしっかりと巻く。翌日、巻いたものをのばして、長さを揃えて重ね、シートでくるんで上から重石をします(この作業を「あんじょう」という)。あんじょうすることで熟成されて、旨味が出て来るんですね。

それから再び日に干して、昆布の旨味をさらに引き出す。再度、あんじょうをして、角(磯くささ)を取り、旨味を行き渡らせ、より深い味わいへと引き上げます。その後、昆布の様子を見ながら、両サイドのひらひらした部分(ヒレ)を1枚ずつハサミで切り取っていきます。この作業によって、濁らないクリアなおだしがとれるようになります。きれいに形を整えたら、3度目のあんじょうをし、製品となります。昆布は根っこから葉先、ヒレまで、すべて使い道がある、優秀な食品なんです。

昆布の白くなってるところ、あるでしょ。これが「昆布の花」。旨味が外に出てきた部分です。だから拭いたりしちゃダメ。干しイモと同じ。白いほうがおいしいの。

天然ものは硬めなのでだしを引くのに、養殖ものは柔らかいので、煮ものなど食べる昆布に。葉先は薄くて塩気があるので魚の昆布〆めに使いやすい。おすすめの食べ方かい? 白がゆを作って、仕上げに昆布をさっと通す。あと冷奴の下に羅臼昆布を1枚敷いてみてよ。旨いよ。

(写真左)濁りの原因になる昆布の両脇をカット。1枚1枚ハサミで切る、骨の折れる作業だ。(写真右)旨味に違いがあるのは、産地で製法が異なるから。干すだけで質の高い旨味は得られないことを改めて知る。
斜めに重ねて寝かせ3度目の熟成中。
粗挽き昆布は、さっとお湯を注ぐだけで極上のおすましに。


◎羅臼漁業協同組合直営店「海鮮工房」
北海道目梨郡羅臼町本町361
☎ 0120-530-370
www.jf-rausu.jp

(雑誌『料理通信』2014年11月号掲載)

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