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JOURNAL / JAPAN

オリジナルの野菜も夢ではない 西洋野菜

[長野]未来に届けたい日本の食材 #45

2024.10.07

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

2024年10月4日、服部幸應様がご逝去されました。長きにわたり、本連載の案内役を務めていただき、多大なるご尽力をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。ここに謹んでお悔やみ申し上げます。料理通信社 一同

連載:未来に届けたい日本の食材

北に雪を頂くアルプスの山々、南に八ヶ岳を臨む長野県東御市で、農薬を使わず、有機肥料で、西洋野菜や米、きのこなどを育てる「アグロノーム」。少量ながらワインも卸すといいます。
東京のレストランのシェフからも信頼の篤い農場主・宮野雄介さんを寒風吹く畑に訪ねました。


宮野雄介さんは、湘南で生まれ育ち、農業高校へ進学、農業一筋20年以上になる。

このあたりで、標高800メートル。ほとんど雪はないのですが、冷え込むと土の中が凍るため、根菜類は12月中旬には全部抜いて、天然冷蔵庫状態の倉庫で凍らず成長もせずという状態で保存します。外で野菜の採れない1、2月は、この根菜と温室でサラダ用の葉野菜を育て、サラダミックスとして出荷しています。

このケール、甘いでしょ。凍結から身を護るため、この時期は自力で糖度を高めるんです。野菜の一部が紫色に変わっているものも、糖度が高くなっている印。

取引先はほとんどがレストランです。アグロノームを始めて9年目。その前に9年間、「ヴィラデストワイナリー」でブドウと野菜の栽培に携わってきました。農業を始めてみて、野菜の値段は生産者や消費者ではなく、間に入る流通業者によって決められ、さらに流通させるために規格に合うサイズにしなければ扱ってもらえないことに気付き、独立にあたっても中間業者に頼らない道を選びました。

ふつうの野菜では、大きな生産地との価格競争になるので、西洋野菜を少量多品種育てることに。毎年初めての野菜に挑戦して、1年目、2年目と畑との相性を見ながら育てています。

畑写真はイタリアの葉野菜、カーボロネッロ。近づいて見ると、葉の表面がコブのように隆起している。オブジェのような珍しい姿の野菜も多く、アグロノームの野菜畑にいると、植物園にいるような面白さがある。

(写真左)手前は緑のケール、その奥にはパープルのケールも。苦味は穏やかでほのかな甘味が後から立ち上がる。(写真右)カーボロネッロの株はヤシの木のような佇まい。葉を下からカットして出荷する。

西洋野菜は色も形も個性的で、サイズもいろいろ。珍しい植物図鑑を見ているように農作業も飽きません。カブだけで8種類、ニンジンは白、黄色、紫、ケールは緑と紫、イタリア野菜のラディッキオやカーボロネッロなど葉野菜も20種類を超えます。

日本の品種改良は、味もさることながら、流通重視。箱にきちんと収まるよう同じ形、同じサイズで採れるようにできています。そして、翌年も農家に種を買ってもらえるよう収穫は1回限り。そのため、採種して撒いてもうまく育たない。

外国の種は採種したものを植えても育ちますし、こぼれ種が野生化したり、勝手に交配したりして、突然、変わった野菜ができる。それを採種して翌年植えて同じものができたら、うちのオリジナルになる。これもまた楽しいんです。

畑には農薬も化成肥料も使わず、液肥や牛糞を発酵させた有機肥料を入れています。化成肥料はひゅっと早く育ちますが傷みも早い。その上、土がどんどんやせる。有機肥料だと野菜はゆっくり育つ分もちがいい。うちの野菜も傷みにくくて、おいしい状態が持続すると、シェフの皆さんに評価をいただいています。

西洋野菜を手掛ける人も増えてきました。今後は逆に、日本的な野菜に挑戦しようか、と考えているところです。

畑の凍結前に引き抜かれた根菜類は、土を洗い落すと、さらに鮮やかな姿を現す。右は紅芯ダイコン。そのすぐ左上は紫ダイコン。下の鮮やかな紅色のカブは桃太郎。

(写真左)シイタケの菌床は落葉やヨーグルト、納豆などを混ぜて土に。善玉菌が増え、微生物が育つ環境を整える。(写真右)結球し始めたばかりのラディッキオ。
大きく育ったナスタチウムの葉は器としてレストランで使われることも。
畑からの風景。右にアルプス、左に八ヶ岳を臨む。


◎アグロノーム
長野県東御市和7819-1
☎0268-55-9927
https://agronaume.com/

(雑誌『料理通信』2017年2月号掲載)

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