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JOURNAL / JAPAN

日本 [青森]

未熟リンゴの有効活用から生まれた洗練の味

未来に届けたい日本の食材 #09シードル

Oct 11, 2021

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

弘前は日本のリンゴ栽培発祥の地。100 年以上続くリンゴ農家「もりやま園」4代目の森山聡彦さんは、自然災害のリスクを避け、栽培の効率化が図れないものかと模索する中、摘果リンゴでシードルを作り、「ジャパン・シードル・アワード2019」日本部門の大賞を受賞しました。森山さんを農園に訪ねます。


「摘果は次の年に実をつける花芽に栄養を分けるためにも、必要な作業なんです」と、もりやま園の森山聡彦さん。

品名は「テキカカシードル」。テキカカとは摘果果、摘果リンゴの意味です。生食用リンゴは一枝にたくさん実らせると養分を奪い合って小玉になるため、大きくて形がよいものを選んで、あとは全部摘み取ります。これが摘果です。樹に残るのは1割。

人生賭けて仕事をしているのに、9割捨てるなんて報われない。その上、台風やヒョウなど自然災害のリスクもある。何とか効率よく働き方を見直せないか、ずっと考えていました。

摘果、つまり捨てる作業にかかる手間が年間労働時間のほぼ3割。ならば、その摘果を有効活用できないものか。シードル好きの妻ともう20年前からうちのリンゴでシードルを造ろうと計画はしていましたが、未熟リンゴで作ることには、すぐに結びつきませんでした。そんな時、視察に行ったフランスで、まさに摘果リンゴと同じサイズの酸っぱくて渋いリンゴでシードルが作られていることを知り、これならできる、と思ったんです。


未熟リンゴを廃棄物ではなく原料に。摘果は6月上旬~7月下旬にかけて行われる。未熟リンゴは、これまで廃棄の道を辿っていたが、もりやま園では、果汁を搾って冷凍保存し、シードルの原料としてキープ。弘前は大学が多く、近隣の大学生たちがアルバイトに汗を流していた。

摘果前はたわわに実をつけているが、1枝に実るおよそ10個のうち、選抜して1個だけを生食用として残す。

それから試行錯誤が始まりました。摘果は6〜7月、虫の動きが活発な時期と重なります。特別栽培で農薬を減らし、昆虫フェロモンを利用した害虫防除で、殺虫剤を使わない工夫など、様々なトライアルを重ねました。さらに、樹木1本1本にQRコードをつけ、すべての作業内容を記録、管理できるアプリも共同開発。成熟期より2〜3カ月早く摘果を収穫しても、農薬の安全基準をクリアしているかを確認できるシステムを調え、今後、一般農家からの摘果リンゴの買い取りを開始できる環境も整備してきました。

シードル製造は、青森県産業技術センター弘前地域研究所の指導と、シードル酵母の研究を続けている強力な助っ人、青山富士子さんの力を得て3年かけて商品化に成功しました。提携先の加工施設で摘果リンゴを丸ごと搾汁して冷凍保存。必要量だけ解凍し、摘果果汁7割に対して、成熟リンゴ果汁を3割ブレンドして発酵段階へ進みます。

シードルは、後からガスを注入したり、砂糖を加えて瓶内二次発酵するものが主流ですが、うちでは砂糖も炭酸ガスの吹き込みもしていません。解放サーマルタンクで一次発酵を進め、滓を引いて二次発酵用の密閉タンクに移し、成熟果汁を3割足して密閉し、ガス圧を上昇させます。ガス圧が高くなりすぎたら、ちょうどいいところまで抜いて瓶詰めします。濾過しない濁り系ですが、泡はきめが細かく、舌に当たるタッチもやわらか。味わいもやさしい。食中にも楽しめますよ。


(写真左)ビール酵母で醸したシードルはポップなラベルも印象的(ボトルは記事冒頭写真)。
(写真右)自然酵母で醸した「彩香」はほんのりピンク。泡立ちがきめ細かく、味わいもナチュラル。ドラフト用のタンクでも卸している。

タンクに残った滓をバケツに溜めていたら、数分もしないうちにムクムクと元気な泡が。

ジュースも製造。小瓶はアップルソーダ、大瓶はノンフィルタージュース。


醸造を担当する青山富士子さん。洗練された味わいは、着々と新しいシードルファンを増やしている。

◎もりやま園
青森県弘前市緑ケ丘1-10-4
☎0172-78-3395
https://moriyamaen.jp/

Instagram: @moriyamaenjp
Facebook:もりやま園

(雑誌『料理通信』2019年11月号掲載)

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