鶏を明るく元気にする循環農法の堆肥「オーガニック卵」
[山梨]未来に届けたい日本の食材 #53
2025.06.06
![鶏を明るく元気にする循環農法の堆肥「オーガニック卵」[山梨]未来に届けたい日本の食材 #53](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/s-hattori_yukio_53_01.jpg)
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
3000m級の山懐に抱かれた黒富士農場は、日本で初めて有機JAS認証を受けた「リアルオーガニック卵」の故郷です。豊かな自然の中で、3万羽の鶏たちが平飼い放牧でのびのびと育てられ、元気な卵を産んでいます。30年以上前からオーガニック卵の生産に取り組んでこられた向山茂徳会長にお話を聞きました。

生き生きと育てられた
鶏が産む、健康的な卵
いいところでしょう。標高が1100mあります。冬は雪が積もって寒いのですが、夏は涼しく過ごしやすい。鶏たちにも、いい環境だと思っています。
この地に移って、黒富士農場を始めたのが1984年のこと。開拓地で天然湧水があり、空気も澄んでいる。ここから上には人家はないという最高の環境です。約16ヘクタールの地に18棟の鶏舎がありまして、現在15棟が平飼い放牧。そのうち1棟のみで生産しているのが、有機JAS認証を取得している「リアルオーガニック卵」です。





オーガニックに取り組んだのは農場を始めて5年後です。狭いケージに鶏を詰め込む飼育法がある日嫌になって、少しずつ平飼いを始めてみたら、鶏がとてもかわいかったんですね。鶏も人間と同じ生きものなんだ。鶏に幸せになってもらうことが、それを食べる人間の幸せにもつながると気付いたんです。
それからオーガニックの勉強を始めたのですが、異端児扱いされました。海外の有機機関にレクチャーを受けに行ったり、国内でも勉強会を開くうちに仲間ができて、無農薬の穀物を共同で購入する大切なパートナーもできました。
コストを抑えようと共同購入しているのですが、それでも、普通の平飼いに比べるとエサ代が3倍かかるため、卵は1個100円前後に。受注生産で出荷しています。
鶏舎の扉を朝8時に開けると、鶏たちは一斉に外に出て走り回ったり草を食べたり。平飼いは鶏が土と常に接しているのでいろんな病気のリスクがある。だから土や微生物、菌の勉強も大事です。
この鶏舎、匂わないでしょう。普通、平飼いだと鶏舎内のフンの処理が大変なのですが、完熟させたサラサラの堆肥を土代わりにしているため、独特の匂いがしないんです。フンもすぐに土に還ってくれる。BMW(B = バクテリア、M = ミネラル、W = ウォーター)技術といって、岩石と腐葉土と水の力で自然浄化する循環農法で作った堆肥です。特別な菌を投入するのではなく、元々ある微生物の力を活性化し、農産物や家畜の内部から健康にしていくもの。
現在、150軒の仲間がいます。「自分たちは畜産のプロなんだから、薬を使わない飼育法で育てよう」という志を持つ仲間たちです。ただ、研究は農家だけではできません。大学や企業とチームを組み、エビデンスを取りながら活動しています。世界から20年遅れている日本の有機畜産。遅れを取り戻すため、息子たちも頑張ってくれています



◎黒富士農場
山梨県甲斐市上芹沢1316
☎055-277-0211 9:00 ~ 17:00 日曜休
kurofuji.com
(雑誌『料理通信』2016年7月号掲載)
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