日本の食 知る・楽しむ
鳥鍋「鳥つね」 since 1911
連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應
2016.05.01
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鳥ガラのだしは弱火で静かに煮出して、透明度の高いスープに。白菜、ネギ、しらたき、焼き豆腐、たたき(つくね)、モモ肉、心臓、レバー、雑炊が付いて1人前5800円(注文は2人前~)。鳥さしなどがつくコースは6900円~。
text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura
連載:世界に伝えたい日本の老舗
肌寒い季節になってくると、毎日でも食べたくなるのが鍋もの。立ち上る湯気に、誰もがほんわか幸せ気分になります。湯島天神の門前町にある「鳥つね」伝統の鳥鍋は、クリアーなスープで鶏肉やたたきを煮て、ポン酢で食べるあっさりタイプ。するすると、いくらでもいただけます。大正初期創業の湯島天神前本店に、3代目店主・山本晃彦さんを訪ねます。
ひとつの鍋で銘柄鶏を味比べ
元々は、祖父が大正元年に始めた鶏肉専門の肉屋でした。昔はそういうスタイルが多かったのかどうか、下で肉屋をやりつつ、2階で鳥鍋が食べられる、そんな店だったようです。出前で、親子丼なども出していたと聞いています。2代目の父の代で飲食店に転じ、今に至ります。
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本店は急な坂を上りきった湯島天神の目の前。外神田には支店の「自然洞店」がある。
11月は「湯島天神菊まつり」、さらに寒さがつのるにつれ、合格祈願にみえる受験生たちが少しずつ増え、天神さまはにぎわいを見せ始めます。お参りの帰りに寄られる方もいらっしゃいますが、ありがたいことに、わざわざ足をお運びくださる方も多いんですよ。
夏場のお客様は、ほとんどが親子丼目当て。お鍋は、やはり冬場ですね。鳥鍋に使っているのは、今日は名古屋コーチン、秋田の比内地鶏の2種類ですが、奥久慈シャモを加えて3種類の時もあります。この黄色いほうが比内地鶏。白っぽいほうがコーチン。鶏は丸を店でさばいていますが、お鍋に用いるのは、モモ肉、心臓、レバーです。
それから、たたきは、モモ肉を2度挽きしてから、さらにまな板の上で、丁寧に叩いて卵を加えたものです。澄んだスープは、鶏ガラだけを2時間煮てとったもの。余分なものは入れずに、火加減を調整しながら、じっくりと煮出します。
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本日のモモ肉は名古屋コーチン(手前)と比内地鶏(奥)。張りのある内臓を見れば鮮度は一目瞭然。濃い卵黄がトッピングされた「たたき」は、よく混ぜて鍋に落とすと、ほんのりオレンジ色の鶏団子に。
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刃のないたたき包丁はずっしり重い。これで挽き肉を叩くと、粒々感が舌に当たらず、ふんわりと柔らかな食感に仕上がる。
当店の支店「鳥つね自然洞」では、まず肉を煮て、ざく、たたき、と順にサービスしておりますが、こちらはもう、お客様のお好きなように、フリーな感じでお召し上がりいただいています。なにしろ、昔からのお客様が多く、みなさん、江戸っ子でせっかちな方が多いんです。
比内地鶏と名古屋コーチン、ちょっと食べ比べてみてください。いかがですか。食感も旨味も随分と違いますでしょう。実は、地鶏を使うようになったのは、平成2年からなんです。古くからお願いしていた鶏の仕入れ先が、店をたたむことになりまして。ならば、おいしい地鶏を使ってみようということになり、産地に出向き、直接取り寄せることにしたんです。
当時は他にやっているお店があまりなかったため、当店のお鍋が、こだわりの地鶏の鍋と言われるようになりました。ただ、親子丼には、歯応えがあり過ぎて、地鶏は不向き。大山鶏を使っています。こちらの、とろとろ卵の親子丼も、どうぞお試しくださいませ。
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名物の上親子丼1900 円。卵は、温まっているが固まっていない、絶妙のとろとろ加減。
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店で使用している卵は兵庫県から取り寄せているもの。1 パック1000 円でお客さんにも分けている。ふらりと卵を買いに立ち寄るお客さんも。
◎鳥つね 湯島天神本店 Toritsune
東京都文京区湯島3-29-3
☎3831-2380
11:30~13:30LO、17:00~20:45LO
日曜夜、祝日夜休
東京メトロ湯島駅5番出口より徒歩3~4分