日本 [徳島] 暮らしに寄り添う生地作り
クロワッサンがふるさとの味になる。
1999.01.01
徳島県神山町で静かにパンの革新が進んでいます。高齢化が進む中山間地域ならではの生地づくりは、地元の暮らしを大切にしようとする分、都市部にもまして前進していくかのようです。
JOURNAL / JAPAN
「ないものを作る」が裏キーワード。
1月28日~2月4日、パン職人の塩見聡史さんは、徳島県神山町「かまパン&ストア」のキッチンでクロワッサン開発の総仕上げに取り組んでいた。
神山町は、中山間地域にある人口約5300人の小さな町。農業従事者の平均年齢71歳と高齢化が進み、担い手不足による耕作放棄地の増加や農環境の悪化による鳥獣害被害など課題が絶えない。農業の担い手を育てるべくフードハブ・プロジェクトが立ち上がったのが2016年。
翌17年、「地産地食」を軸に"神山で育て、神山で調理し、神山で食べる"循環の拠点として、食堂「かま屋」、パンと食材の「かまパン&ストア」がオープンした。塩見さんは、そのパン商品開発担当者だ。自家培養酵母で発酵させる「いつもの食パン」、お年寄りのために開発した「超やわ食パン」など、神山の食卓に欠かせないパンを送り出している。
フードハブ・プロジェクトの支配人・真鍋太一さんから塩見さんに指令が下ったのは昨年12月21日。今回は「熟成するクロワッサン」を開発してほしいとのオーダーだった。
神山町は、中山間地域にある人口約5300人の小さな町。農業従事者の平均年齢71歳と高齢化が進み、担い手不足による耕作放棄地の増加や農環境の悪化による鳥獣害被害など課題が絶えない。農業の担い手を育てるべくフードハブ・プロジェクトが立ち上がったのが2016年。
翌17年、「地産地食」を軸に"神山で育て、神山で調理し、神山で食べる"循環の拠点として、食堂「かま屋」、パンと食材の「かまパン&ストア」がオープンした。塩見さんは、そのパン商品開発担当者だ。自家培養酵母で発酵させる「いつもの食パン」、お年寄りのために開発した「超やわ食パン」など、神山の食卓に欠かせないパンを送り出している。
フードハブ・プロジェクトの支配人・真鍋太一さんから塩見さんに指令が下ったのは昨年12月21日。今回は「熟成するクロワッサン」を開発してほしいとのオーダーだった。
日常のパン、非日常のパン
「かまパン&ストア」の柱となるパンにはコードネームがある。
「いつもの食パン」は「ご飯のように食べられる食パン」。「超やわ食パン」は「飲める食パン」(パン呑みではありません!)。塩見さんはコードネームからイメージを膨らませて開発に挑む。確かに「いつもの食パン」のもちもち感はご飯のようで、納豆に合うともっぱらの評判だし、「超やわ食パン」は92~93%の超高加水、しかも牛乳を使うことで乳脂肪がもたらすしなやかさとミルキーさを併せ持ち、喉通りが良い。
そして「熟成するクロワッサン」だが、支配人の真鍋さんによれば、コードネームに込めた狙いは次の通り。「まず、なぜクロワッサンなのか? 実はこのミッションにはもう一つ、『(地元に)ないものを作る』という裏キーワードがある」。
「いつもの食パン」や「超やわ食パン」は日常のパンだ。「かまパン&ストア」がオープンして3年。そろそろ非日常のパンがあってもいいんじゃないか、と真鍋さんたちは考えた。スーパーやコンビニに袋入りのクロワッサンはあるけれど、焼きたては神山では手に入らない。非日常のパンとしてクロワッサンが並んだら、どんなに素敵だろう。
「ただし、神山で作る以上、神山小麦のクロワッサンにしたかった」
神山小麦とは、フードハブ・プロジェクトの農場長・白桃薫さんの家に代々継承されてきた小麦の種から栽培を広げていった在来の小麦である。
「東京で売られているようなバターたっぷり、ハラハラサクサクよりも、粉の味わいがしっかり感じ取れるクロワッサンが神山らしい」
クロワッサンという異文化に、土地の文化を併せ持たせようとしたわけだ。
もうひとつ、焼きたてを提供しつつも、焼きたてがベストという縛りを外したかった。それが熟成だ。全国に発送していることもあり、翌日、翌々日もおいしいクロワッサンを目指した。
約2カ月をかけて、塩見さんが作り上げたのは、神奈川県の製粉所「ミルパワージャパン」(湘南小麦で知られる)で挽いた神山小麦全粒粉100%を、自家培養酵母で発酵させるクロワッサン。 こんがり色付いた表面や端っこはザクザクの食感、中からは噛むごとに全粒粉の風味が立ち上る。「時間が経つと、酵母とバターが馴染むせいか、チーズのような奥行きのある風味になる」と塩見さん。
「いつもの食パン」は「ご飯のように食べられる食パン」。「超やわ食パン」は「飲める食パン」(パン呑みではありません!)。塩見さんはコードネームからイメージを膨らませて開発に挑む。確かに「いつもの食パン」のもちもち感はご飯のようで、納豆に合うともっぱらの評判だし、「超やわ食パン」は92~93%の超高加水、しかも牛乳を使うことで乳脂肪がもたらすしなやかさとミルキーさを併せ持ち、喉通りが良い。
そして「熟成するクロワッサン」だが、支配人の真鍋さんによれば、コードネームに込めた狙いは次の通り。「まず、なぜクロワッサンなのか? 実はこのミッションにはもう一つ、『(地元に)ないものを作る』という裏キーワードがある」。
「いつもの食パン」や「超やわ食パン」は日常のパンだ。「かまパン&ストア」がオープンして3年。そろそろ非日常のパンがあってもいいんじゃないか、と真鍋さんたちは考えた。スーパーやコンビニに袋入りのクロワッサンはあるけれど、焼きたては神山では手に入らない。非日常のパンとしてクロワッサンが並んだら、どんなに素敵だろう。
「ただし、神山で作る以上、神山小麦のクロワッサンにしたかった」
神山小麦とは、フードハブ・プロジェクトの農場長・白桃薫さんの家に代々継承されてきた小麦の種から栽培を広げていった在来の小麦である。
「東京で売られているようなバターたっぷり、ハラハラサクサクよりも、粉の味わいがしっかり感じ取れるクロワッサンが神山らしい」
クロワッサンという異文化に、土地の文化を併せ持たせようとしたわけだ。
もうひとつ、焼きたてを提供しつつも、焼きたてがベストという縛りを外したかった。それが熟成だ。全国に発送していることもあり、翌日、翌々日もおいしいクロワッサンを目指した。
約2カ月をかけて、塩見さんが作り上げたのは、神奈川県の製粉所「ミルパワージャパン」(湘南小麦で知られる)で挽いた神山小麦全粒粉100%を、自家培養酵母で発酵させるクロワッサン。 こんがり色付いた表面や端っこはザクザクの食感、中からは噛むごとに全粒粉の風味が立ち上る。「時間が経つと、酵母とバターが馴染むせいか、チーズのような奥行きのある風味になる」と塩見さん。
現場で磨き上げられていく
「かまパン&ストア」は、開発と現場の役割分担がなされている。塩見さんが開発したパンを、日々現場で焼き上げるのは、パン製造責任者の笹川大輔さん。塩見さんが生みの親なら、笹川さんは育ての親と言っていい。「いつもの食パン」も「超やわ食パン」も笹川さんが神山の人々の暮らしに寄り添わせてきた。
塩見さんに生みの苦しみがあるように、笹川さんには育ての苦しみがある。
「いつもの食パンが自分のものになるのに2年かかったんですよね」
それは継子を育てる苦しみかもしれないし、暮らしの実態に寄り添わせる苦労かもしれない。しかし、クロワッサンは「すぐに自分のものになった」そうだ。
「僕の親父もパン職人で、東京の紀ノ国屋で働いた。そこでクロワッサンを初めて食べて、『こんな食べ物があったのか!』と衝撃を受けたらしい。ある時、出身地の新潟に持ち帰って、地元の人々に食べさせた。そんな親父とクロワッサンの出会いに思いを馳せると、『ないものを作る』意味、それがもたらす喜びが手に取るように理解できた」
クロワッサンが「かまパン&ストア」に並び始めたのが3月。評判は上々だ。
こうして、パンは日本人の暮らしに寄り添いながら発展していく。
塩見さんに生みの苦しみがあるように、笹川さんには育ての苦しみがある。
「いつもの食パンが自分のものになるのに2年かかったんですよね」
それは継子を育てる苦しみかもしれないし、暮らしの実態に寄り添わせる苦労かもしれない。しかし、クロワッサンは「すぐに自分のものになった」そうだ。
「僕の親父もパン職人で、東京の紀ノ国屋で働いた。そこでクロワッサンを初めて食べて、『こんな食べ物があったのか!』と衝撃を受けたらしい。ある時、出身地の新潟に持ち帰って、地元の人々に食べさせた。そんな親父とクロワッサンの出会いに思いを馳せると、『ないものを作る』意味、それがもたらす喜びが手に取るように理解できた」
クロワッサンが「かまパン&ストア」に並び始めたのが3月。評判は上々だ。
こうして、パンは日本人の暮らしに寄り添いながら発展していく。