そよ風のような甘さ、ハーバルな余韻 “沖縄黒糖”のポテンシャルを探る。
12/14(木)~沖縄黒糖®フェア開始!
2023.12.14
【PROMOTION】text by Rieko Seto / photographs by Shigehisa Uesugi, Ayumi Okubo
防空壕で生き延びた伊江島の伝統小麦「江島神力」
伊江島の魅力あふれる食材は、黒糖だけに止まらない。伊江島産の黒糖の魅力を引き立てる素材として、宮﨑シェフと訪ねたのは、伊江島ならではの小麦の生産や加工を手掛ける「いえじま家族」だ。
そもそも伊江島は小麦栽培に適した土壌と気候を持ち、琉球王朝時代から小麦の一大産地だったと伝えられる。戦後は一時的に減少したものの、その価値を再び見直そうと、2011年に農家が集って伊江島小麦生産事業組合が立ち上げられ、小麦生産を復活させるプロジェクトがスタート。そこに尽力したのが、現在のいえじま家族。主を務める玉城堅徳(たましろ・けんとく)さんだ。
「農薬も化学肥料も使わず小麦を育てたいと、まず、堆肥と枯れ葉を混ぜた腐葉土づくりから始めました。土を元気にして育てた小麦で、菓子や沖縄そば、パンなどを作り、島の特産物として販売したいと考えたのです」。農家が互いに協力して改良を重ね、3トンほどの収量から、2年目には約34トンまで収穫。以来、安定的な生産が行なわれている。
注目したいのが、伊江島で受け継がれてきた品種である「江島神力」だ。香り高く滋味豊かな風味と粘りが特徴で、戦前から伊江島では家庭での消費用として栽培されていた。「戦争の際に部落のおばあちゃんが防空壕にこの小麦を隠し、戦争が終わってから15年ほど後に探しに行ったところ、それが見つかって再び植え始めた、と聞きました」。江島神力は、粉としての販売数は少量ながら、料理人やパティシエからも高い評価を得ているという。
畑では昔ながらの麦踏みやEM菌散布が行われ、農薬は不使用。植え付けを終えたばかりの江島神力の畑を訪ねると、「この時期の麦は踏めば踏むほど株が出てよいと言われているので、どうぞ畑に入ってたくさん踏んでください」と、玉城さん。
続いて案内された製粉場では、「元気いっぱいに育った小麦なので、ミネラルや栄養が豊富なフスマを捨ててしまうのはもったいない。多くても15%までしか精麦の際に取り除かず、すべて全粒粉として製粉しています」と玉城さん。「製粉用の機械はもちろん、お菓子やパンを作るための機器が整った厨房も併設されていて、設備がすごいですね! フスマももったいないな。何かに使えそう」と、宮﨑シェフも感心した様子で玉城さんの言葉に耳を傾けていた。
◎いえじま家族
沖縄県国頭郡伊江村字川平200番地
☎0980-49-5980
https://iejimakazoku.jp/
新鮮なサトウキビの搾り汁で造る地酒「イエラム」
伊江島の若い力が生み出した新たな特産品が、伊江島で収穫されたサトウキビだけを原料としたラム酒、「イエラム サンタマリア」だ。
川がなく、昔から水不足に悩まされてきた伊江島は、多量の水を要する酒造りには適さない環境だが、ラム酒造りに使われるのは、サトウキビの搾り汁。そこで、2011年までこの島で行われていたバイオエタノールの実証実験事業が終わるのを機に、その跡地を利用したラム酒作りのプロジェクトがスタート。島の特産品であるサトウキビから造られる、本当の意味での地酒造りが始まった。
世界中で生産されているラム酒のほとんどは、サトウキビから砂糖をつくった後に残る糖蜜(モラセス)を原料としているが、ここで行われているのは、フレッシュなサトウキビの搾り汁をそのまま原料とする、贅沢なアグリコール製法を一歩進めた「ハイテストモラセス製法」。
「サトウキビの搾り汁はすぐに腐るか発酵してしまいますが、ここには濃縮して保存する技術と設備があったので、安定的なラム酒造りができています」と語るのは、伊江島物産センター 伊江島蒸留所の浅香真さん。モラセスでつくるラム酒に比べ、手間もコストもかかるが、あまり火にかけない分、サトウキビ本来の風味が楽しめるという。
製造工程に沿って浅香さんの説明を受けながら工場内を見学。まずは、濃縮還元したサトウキビの搾り汁に酵母を入れ、アルコール度数9%になるまでタンクに入れて発酵させる。そのもろみを蒸留機に入れ、ボイラーの蒸気を当てて沸騰させてから冷却機で冷やしてタンクへ。
「使用しているのは、ポットスチルと呼ばれる単式蒸留器です。無色透明ですが、原料由来の味や香りをアルコールが引っ張ってくるんです」。これを水で薄め、アルコール度数を調整してからステンレスタンクまたは木の樽に詰めて熟成させる。「さあ、どうぞ」と扉を開けた貯蔵庫の中に入ると、そこはラム酒の華やかな香りでいっぱい。
木樽は、ウイスキーやシェリー、ブランデー、ワインなどの熟成に使われていたもの。室内に空調は入れず、伊江島の自然な気候で熟成されていく。特別に4年ほど熟成させたラム酒(アルコール度数は60度以上)を樽から取り出して試飲させてもらい、「すごいアルコール感! でも後からふわーっと華やかな香りが広がります」と、宮﨑シェフ。
2~3年熟成するとアルコールのとげとげしさは消え、割り水やブレンドを経てアルコール度数は約37度に調整されて瓶に詰められる。「この島で造られるラム酒は、ちょっと塩味や磯っぽい香りがするんです」と、浅香さん。伊江島ならではの味わいが、造り手たちの情熱によって育まれていく。
◎伊江島蒸留所
沖縄県国頭郡伊江村東江前1627−3
0980-49-2885
https://ierum.ie-mono.com/
人生初の沖縄、そして伊江島への旅を終え、「島の伝統や暮らしを守り、子どものように愛情を注いで栽培や加工を手掛ける生産者の方々の思いが心に残りました」と語った、宮﨑シェフ。実際に料理して感じたのは、「素材自体に非常にポテンシャルがある」ということ。
「まだ広くは知られていないかもしれませんが、使い方次第でさらなる発見があると思います」。沖縄黒糖のポテンシャルが、さまざまな人の手によって豊かに花開いていく。これからが楽しみだ。