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JOURNAL / 世界の食トレンド

スモール・フードビジネスに特化したクラウドファンディング・サービスが登場

America [Boston]

2025.05.12

スモール・フードビジネスに特化したクラウドファンディング・サービスが登場

text by Kuniko Yasutake / photographs by NuMarket
ミニマルなデザインの「ニュマーケット(NuMarket)」のサイト。難解そうな「金融とマーケティング」について、シンプルで簡潔な文章を用いて説明している。毎月更新されるニュースレターや、新しいクラウドファンディング・プロジェクトが随時更新されるインスタグラムからは、今、どんなエリアのどんな飲食業者が、どういう開発を試みているのか、将来の食トレンドの青写真が見えてくる。

「ニュマーケット(NuMarket)」は、中小規模の飲食ビジネスを支援する新しいスタイルのクラウドファンディング・サービスだ。サービス開始から4年目となる2025年現在は、本拠地ボストンを中心にニュー・イングランド地方、ニューヨークや西海岸、中西部や南部にまで拡がりつつある。利用者は、レストラン、カフェ、バー、ベーカリーなどの飲食店に加え、食材店、農家、自家製食品販売者、醸造所、サブスク小売業者など多岐にわたる。

飲食物を取り扱う商売であれば、その事業規模、起業後の成長ステージを一切問わないことが、銀行などによる融資とは全く異なる点。新店舗オープン、設備投資や運転資金の調達など、希望金額とその用途を利用者が自由に設定できることも珍しい。これを可能にしているのは、消費者に投資援助をダイレクトに募り、支援した店で将来利用できるクレジットをリターンする独自のシステムである。

ニュマーケット代表/創業者、ロス・チャノウスキ氏とスタッフ
「傾聴する」と「自ら動いて答えを探す」がモットーのニュマーケット代表/創業者、ロス・チャノウスキ氏(写真左)とスタッフ。2021年2月に従業員4人で事業を開始した際は、中小企業全般を対象にした資金調達支援を試みた。最初にサポートしたプロジェクトがひと月で集めた投資総額は約2000万円(当時の為替レート)という好調なスタートを切るも、2022年7月に迅速な軌道修正を実行。利用者やコミュニティの声に耳を傾け、飲食関連の個人事業主のためのクラウドファンディング・サービスとして生まれ変わった。

クラウドファンディングと言えば、出資者に様々なリワード(お返しの品やサービス)を約束したり、ずばり寄付金をリクエストするのが一般的だ。一方、ニュマーケットの「消費者投資家」は、投資額を自由に選べ、その120%の額を6カ月に分割して受け取る。サポートを受けた店がニュマーケットに支払う手数料は、受け取り総額の12%という仕組みだ。

また、ニュマーケットのネットワークに加われば、SNSやE-mailを介したマーケティング活動をサポートしてもらえる特典もつく。こうした資金繰りと広報の両方を支援する体制で、新規顧客獲得、顧客の常連化、顧客と店とのビジネス共有意識も高まる。食ビジネスを囲むコミュニティ全体に与えるWin-Win効果は抜群だ。

2025年末までに、展開するクラウドファンディング・キャンペーン総数を400件に届かせようと奮闘中のニュマーケット。“小さくて強い店”づくりを応援する金融エコシステムを、将来的には海外でも紹介することにCEOは意欲を見せている。

エンパナーダの店「ブエナス(BUENAS)」
2021年6月に『料理通信』で紹介したエンパナーダの店「ブエナス(BUENAS)」。ニュマーケットを介しての2度の資金調達で、総額45,000ドルを入手することに成功した。共同オーナーのメリッサ・ステファニーニ氏(中央)はその経験について、「このサービスを利用できてとても光栄!店だけでなく顧客も満足できる全方向の事業支援が、新商品開発や店舗拡張などの夢を叶えてくれた」と語る。photo by Buenas

NuMarket
https://numarket.co/

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