“ブッシュフード”を身近に。先住民のサステナブルな食文化をベーカリーで体験
Australia [Sydney]
2024.02.19
text by Akiko Ganivet
(写真)シドニー市内の「APベーカリー」と「ネイティブ・フードウェイズ」がコラボして焼き上げたサワードウのパン(12豪州ドル)は、抗酸化作用のある常緑低木ソルトブッシュの葉を乾燥させて砕いて生地に混ぜ、サワードウ特有のもちもち食感と酸味にほのかな塩気を加えた。
世界最古の生活文化を形成したと言われる豪州の先住民族、ファースト・ネーションズ・ピープル。数万年にわたり、彼らが食料としてきた肉や、薬として活用してきた自然の食材は「ブッシュフード(Bush Food)」と呼ばれ、ビタミンやミネラルが豊富で抗酸化作用があるものも多い。
90年代頃からこのネイティブ(在来)食材を取り入れようとするシェフがぽつぽつと出てきたが、誰も長くは続かない。たとえば豪州原産のタイムはミントの香りがして、ビタミンCなど栄養価も高いが、これを使うシェフは少ない。理由の一つに、ファースト・ネーションズのコミュニティや農園と繋がりがないと、食材を安く簡単に仕入れることができないからだ。ここに目を付けた「ネイティブ・フードウェイズ(Native Foodways)」が、2023年10月、シドニー中心部のフードコートにベーカリーをオープンした。
ネイティブ・フードウェイズは、2020年に設立したファースト・ネーションズ支援グループ。最初は農園からネイティブ食材を直接買い付けていたが、今では農家のコンサルティングの他、ケータリングや加工品をオンラインショップで販売するなど活動は多岐にわたる。
ベーカリーは金融エリアに近いオフィス街で、持ち帰りランチの人気は、牛肉より脂身が少なく獣臭が全く感じられない「カンガルー肉のサラミのベーグル」(16豪州ドル)や「カンガルー肉のパイ」(7.5豪州ドル)。小麦粉よりタンパク質が豊富なワトルシードで作られたマフィン(7.5豪州ドル)も、コーヒーとヘーゼルナッツやチョコレートの香ばしさが相まって人気商品だ。
ネイティブ・フードウェイズが取引するファースト・ネーションズのコミュニティ農園の多くはオーガニック農法で、再生可能な農業を目指している。だが先住民の農家は小規模であり、関係を築かないとなかなか仕入れられない。「もっといろんなシェフにファースト・ネーションズのコミュニティと意義ある関係を築いてほしい」と、創始者の1人ミッキー・コバリ氏は語る。
自生する植物を上手く生活に取り入れていた先住民の知恵は、現代人が今になって求めるサステナビリティそのもの。もっといろいろな人にブッシュフードを体験してほしいというオーナーたちの思いが強く感じられる、気軽に通えるベーカリーだ。
◎Native Foodways
Wintergarden, 1 O’Connell St, Sydney NSW 2000
7:00~14:00
土曜、日曜、祝日休
https://nativefoodways.com.au/
*1豪州ドル=96円(2024年2月時点)