健康への配慮と、環境への負荷軽減をレシピで唱える哲学書『アラン・デュカスのDNA』発刊
France [Paris]
2024.12.12
text by Sakurako Uozumi
(写真)レシピブック『ADN DUCASSE』のプレス発表会は、パリ10区 デュカスの野菜が中心の食堂風レストラン「サピド」にて行われた。左からジャン=フィリップ・ブロンデ、アモリー・ブウール、アラン・デュカス、エマニュエル・ピロン。
2024年11月、アラン・デュカスの10年間の歩みを集約したレシピ本『アラン・デュカスのDNA(ADN DUCASSE)』が出版された。
10年前、デュカスが打ち出したコンセプト「ナチュラリテ」は、当時の食通たちに衝撃を与えた。ナチュラリテとは、魚介類、野菜、雑穀を中心にしたヘルシーかつ自然への敬意を重んじる料理。当時、パラスホテル「プラザアテネ」のメインダイニングで、料理長ロマン・メデールのもとでスタートした時、「野菜と雑穀中心ではフランス料理は成立しない」と批判の声もあった。
だがこの理念は単なるトレンドではなく、私たちに食に対する根源的な問いを投げかけるものだった。地元が生んだ野菜や穀物を中心に、糖質、脂質、塩分を控えめにし、動物性タンパク質の使用を控える食事。発酵、濾過、抽出、燻製、搾汁、凝縮、焙煎、溶解(デグラサージュ)、マリネといった多岐にわたる技法を駆使し、素材の持ち味を最大限に引き出した調理法。健康への配慮はもちろんのこと、自然との調和、環境へ与える負荷の低減を唱える、新たな食の哲学だ。10年の歳月が流れ、人々の健康に対する意識は高まり、食に対する価値観は大きく変化した。
本書では、デュカスの3人の弟子がナチュラリテの哲学を受け継ぎ、それぞれの地域の特色を生かしたレシピを披露。モナコ「ル・ルイ・キャーンズ」のエマニュエル・ピロン、パリ「ル・ムーリス」のアモリー・ブウール、ロンドン「ザ・ドーチェスター」のジャン=フィリップ・ブロンデが、それぞれの視点から解釈して、さらに進化させた135品だ。
意外な組み合わせや、複雑な風味の調和など、革新的・独創的な味の世界が広がる。この1冊には、デュカスのモットーである「自分の経験を次の世代の料理人たちに継承し、広めていく」という理念が、凝縮されている。
◎『ADN Ducasse』
アラン・デュカス、ジャン=フィリップ・ブロンデ、アモリー・ブウール、エマニュエル・ピロン、マヤレン・ズビラガ 著
Ducasse Edition 刊
535ページ
69ユーロ
ISBN-13: 978-2-37945-090-7
*1ユーロ=157円(2024年12月時点)