あなたが食べている食品の“真実の価格”は?スーパーが値上げで「見える化」作戦
Germany [Berlin]
2023.09.11
text & photographs by Hideko Kawachi
ドイツのディスカウントスーパーマーケットチェーン「ペニー(PENNY)」が、「真実の価格(Wahre Kosten)」と銘打ち、2023年7月31日~8月5日、ドイツ国内2150店舗で商品の値上げを敢行した。わずか1週間のアクションではあるが、国内外で大きな話題を呼んだ。
値上げをしたのは自社ブランドの肉・乳製品、それぞれオーガニックやヴィーガン対応の品を含む9つの商品だ。例えば、ウィンナーソーセージは通常3.19ユーロのところが6.01ユーロに(+88%)。スライスチーズも2.49ユーロが4.84ユーロ(+94%)、ヨーグルトも同じく倍近い値段になった。ただでさえ今、ドイツの消費者は約14%の食品インフレに苦しんでいる。その中、わざわざ値上げを宣言する理由は何だろうか。
「お客様の多くが、食品価格の値上げに苦しんでいることは理解しています。それでもやはり、食品の価格が環境問題に関わるコストを反映していないという、厄介なメッセージを発信しなくてはならない。そのため、“真実の価格”というキャンペーンを通じて意識を高めたいと考えました」と、ペニーのCOOステファン・ゲルゲンスはプレス発表で説明した。
値上げ価格の計算を担当したのは大学の資源経済学者や経済工学者で、サステナビリティの研究者たち。「気候」「水」「土壌」「健康」と問題を4つの項目に分けて、追加する価格を可視化した。
例えば、農業により排出されるメタンやCO2など温室効果ガスの問題は「気候」。
肥料から流れ出す窒素や毒性のある農薬が、地下水に与える影響は「水」。
自然が大規模農業の農地として利用されることで、土壌の質が損なわれる場合は「土壌」。
農薬などが健康に与える害は「健康」といった具合だ。
このアクションには賛否両論、様々な意見が集まった。
「普段は農家に対してフェアな価格設定には興味がないくせに、グリーンウォッシングだ」と厳しい声を寄せたのは、ドイツ農家団体だ。消費者保護団体「フードウォッチ」も、「わずか9商品の本当の価格を提示したところで、同時に、気候や環境に悪影響のある食品を格安にしている」と、このアクションがただのPRだと批判した。
一方で、国際環境NGO「グリーンピース」の農業エキスパートは、「多くの食品が、環境や気候に全く配慮せずに作られていることを可視化したアクション」だと評価。ただ、これはあくまでも最初の一歩であり、政府と同じくスーパーマーケットにも、根本的な対策を講じる義務があると促す。
食品価格について議論を起こすきっかけ作りという、ペニーのアイデアはひとまず成功といったところだろうか。売り上げの差額は、南ドイツで家族経営の小さな農業を保護するプロジェクトに寄付される予定だ。
(写真トップ)「真実の価格とは何なのか? それでどうやって環境に貢献できるのか? お店に入ってその答えを見つけてください!」と誘うポスターが店頭に。
◎PENNY wahre Kosten
https://www.penny.de/aktionen/wahrekosten
*1ユーロ=157円(2023年8月時点)
関連リンク