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JOURNAL / 世界の食トレンド

地産地消レストランのキッチンを席巻する調味料“ヴェルジュ”ってなんだ?

Germany[Berlin]

2024.07.11

地産地消レストランのキッチンを席巻する調味料“ヴェルジュ”ってなんだ?

text by Hideko Kawachi / photographs by Avaa Verjus
(写真)ヴェルジュ・ロゼ(右:22.90ユーロ/500ml)には、ほんのりとお酒のような発酵香が。ヴェルジュ・オリジナル(左:16.90ユーロ/500ml)は、リンゴや草原を思わせる香りがある。爽やかなジントニックのアレンジにも使える。

ドイツで流行中の地産地消レストラン。ジャガイモ以外の野菜や果物の大半を輸入に頼っている寒冷な気候のドイツで、その土地で取れる旬の食材のみを使って料理することはかなりの制限がある。しかし、シェフたちはその困難を新たな食材や調理法を発見する楽しみに変えているようだ。

中でも2015年に“情け容赦なくローカル”を謳って開店し、大きな話題を呼んだレストラン「ノーベルハート&シュムッツィッヒ(Nobelhart & Schmutzig)」のシェフ、ミシャ・シェーファーは先駆者的な存在だ。レモンやオリーブ油、チョコレート、コショウすら使わない徹底的な地産地消主義を貫く。彼が再発見し、レモン代わりに使える酸味として一気に流行らせたのが「VERJUS(ヴェルジュ)」である。

ヴェルジュとは中世フランス語で“緑の汁”の意。熟していないブドウの実の搾り汁のことで、ワイン造りの際に取り除かれる未熟な実を使った副産物として、中世からヨーロッパ中で作られていたという。種がないのでそのまま搾っても苦味は出ないが、甘味はほとんどなく、強い酸味がある。古代ギリシャでは消化を助ける薬として使われていた。しかし地中海を中心に食材としてのレモン栽培が広まるにつれ、ヴェルジュの存在は忘れられていく。

それが今、レモンやビネガーとも違う新たな調味料として、注目の存在となったのだ。


本来はワインの品質向上のために間引いた、未熟なブドウから作られた副産物だった。
(写真)本来はワインの品質向上のために間引いた、未熟なブドウから作られた副産物だった。
種が形成される前なので、そのまま圧搾機に入れて搾汁する。鮮烈な香りだ。
(写真)種が形成される前なので、そのまま圧搾機に入れて搾汁する。鮮烈な香りだ。

白ワインのような透き通った液体は、ビネガーのようなツンとした香りはないが、きゅんと酸っぱい。一口飲んでみると、口の中にはほんのりとマスカットのような華やかな後味が広がる。いつもならレモン・・・という時に、ちょっと加えてみるといい。

オーガニックのヴェルジュを販売する「アヴァー(Avaa)」は、華やかな香りを生かしたアルコールフリーのカクテルも提案している。
「ソーダで割ると香りがたちます。クリーミーなベリーの香りがするロゼは、食前酒に最適。定番のものはほのかな苦味もあって、ドレッシングやマリネ、ソース、何にでも使えますよ」と、オーナーの1人、ヤコブ・カルテンベルク。彼はヴェルジュで作った自家製マヨネーズが大好物なのだそうだ。

ドイツの地産地消ガストロノミーのキッチンでは、必ずと言っていいほど見かけるこのヴェルジュ。レモンがわりに、試してみてはいかが?



*1ユーロ=170円(2024年6月時点)

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