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JOURNAL / 世界の食トレンド

インド系移民増加で空前のブーム。インド28州の料理やカクテルが楽しめる店

Germany [Berlin]

2025.06.05

インド系移民増加で空前のブーム。インド28州の料理やカクテルが楽しめる店

text by Hideko Kawachi / photographs by Gianni Plescia  
「ナビ」のランチメニューは安価でボリュームたっぷり。ペルシャ風の料理「サリー・チキン」(上右、14ユーロ)、ラム肉の「キーマ・パオ」(左、15ユーロ)にはバターをたっぷり塗った「パオ」がつく。春は体温を下げる効果のある「きゅうりのライタ」(3ユーロ)を添えるのがおすすめだそう。メニュー作りにはアーユルヴェーダの考え方も取り入れている。

ベルリンでは今、インド系の飲食店が大ブームを迎えている。その背景にあるのは、2014年から10年の間に、10倍以上に増えたというインド系の移民だ。これまでの移住先はかつての宗主国イギリスが多かったというが、ドイツの方が生活費も安く、特にIT分野で条件の良い仕事が多いことも理由に。同時に、多彩なインドの飲食店も次々と登場している。

中でも人気の「ナビ(Navi)」は、ヒンディー語で“新しい”という意味の店名を掲げる店だ。オーナーのリテッシュ・タラーニーさんは、妻でITエンジニアのヒーナ・マングラーニさんの転職をきっかけに、2019年にベルリンに移住。2024年10月に同店を開いた。

リテッシュさんヒーナさん
リテッシュさん(左)は、2021年から有名な南インド料理チェーン「サラヴァナバヴァン」のベルリン支店共同創業者、マネージングディレクターも務める。ヒーナさん(右)は、大学で引き続き情報科学を学んでもいる。

初めてドイツ、ベルリンにやってきた2人は、市内のインド料理店の多さに驚くも、メニューがどこも代わり映えのしない安価なカレーばかりなのを残念に思ったという。

「イタリアンや和食など、伝統的な味をおしゃれに提供する店は多いのに、インド料理ではまだない。インドは地方や宗教、言語ごとにコミュニティがいろいろあって、多彩な食文化が存在する。各地の料理を今風にしたレストランを開きたいと思うようになりました」とリテッシュさん。

肉や野菜などの素材はベルリンや近郊のものを使い、味の要となるスパイス類は現地から直輸入。世界各国で経験を積んだインド出身のシェフたちが、ヨーロッパの調理法も取り入れつつ、味と香りは伝統を生かして一皿に仕上げている。

例えば、シグニチャーメニューの一つである「オクラのズンカ」。リテッシュさんの出身地であるマハーラーシュトラ州の伝統料理「ズンカ」はヒヨコ豆の粉を使った煮込み料理で、通常は雑穀のフラットブレッド「バクリ」を添える。ナビでは、ズンカは野菜の形と食感を残して作り、薄くカリッと焼いた米粉のバクリをのせている。

オクラのズンカ
ヨーロッパの調理法や食感を取り入れるのがナビならでは。シグニチャーメニューの1つ、「オクラのズンカ」(10ユーロ)は、フランス菓子チュイールのように焼き上げた米粉のバクリを添えて。

ランチメニューに並ぶのは、ペルシャからインドに移り住んだゾロアスター教信者(パールシーと呼ばれる)の料理「サリー・チキン」。一見するとチキンカレーだが、ドライフルーツの甘さがアクセントになってご飯が進む。他にもポルトガル領だった時代の名残が感じられるブリオッシュのようなパン「パオ」で食べるラム肉のキーマカレーなど、どれも食べたことがあるようで未体験の味がなんとも楽しい。各地のドリンクから発想したカクテルもずらりと揃う。

食文化を通じて、楽しく、おいしく多文化共生への道が拓けていけそうだ。

ジャイプール
サフランシロップに自家製のスパイス入りアーモンドミルクを加えた、華やかな甘さの「ジャイプール」(12ユーロ)はオーナー2人も大好きなカクテル。
ゴア
コクムというインド原産の酸味のあるフルーツを、シロップに加工して加えた美しい色合いの「ゴア」(12ユーロ)。
店内写真
インテリアはあえてステレオタイプな“インド”の要素を排したが、インドらしい色を取り入れ、照明や家具もインドで特注している。

Navi New Indian
Graefestrasse 83, 10967 Berlin
11:30~23:00
月曜休
https://www.wearenavi.de/

*1ユーロ=163円(2025年6月時点)

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