2024年は国際ラクダ年。ラクダミルクが栄養価の高いスマートフードとして注目!
India[Bikaner]
2024.05.16
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text by Akemi Yoshii
(写真)近年注目を集めるラクダのミルク。遊牧民ラーイーカー族は、家畜の飼料を求めて長旅に出る時にラクダのミルクを飲む。通常は生乳を飲むが、紅茶や、ラーブと呼ばれる雑穀粥を作るのにも使う。
国際連合食糧農業機関(FAO)は、2024年を国際ラクダ年に指定した。インドでは、ラクダのミルクやチーズが、栄養価の高い「スマートフード」として注目を集めている。
遊牧民ラーイーカー族は、インド北部ラージャスターン州のタール砂漠で長年ラクダと共に生活してきた。しかし、近代化と共にラクダの需要も数も減り、またラクダのミルクを神からの授かりものとして売ることを禁じてきたため、彼らの生活は非常に苦しいものになっていた。
大学でコミュニケーションを学んだアークリティ・シュリーヴァースタヴァさんは、卒業した2017年に、映画製作プロジェクトのためタール砂漠を訪れる。乏しい資源を使って常に環境に最適なものを作り出すラーイーカー族に心を動かされる一方で、伝統的な牧畜や農業が、気候変動でも大きく変化していることを知り、コミュニティが抱える課題を解決するために動き始める。
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(写真)ラクダミルクとチーズの相性は「まるで天国で作られたように」すばらしいと話す設立者のアークリティさん。現在ラクダチーズは3種類だけだが、今後も種類を増やしていく予定で、チーズを使ったイベントにも対応する。
2022年、彼女は遊牧民による乳製品ブランド「バフラー・ナチュラルズ(Bahula Naturals)」を設立する。バフラーのエコシステムへの参加者は4000人に上った。
「バフラーの理念は、個人やグループの強力なネットワークを構築し、伝統的なコミュニティが、確固たるアイデンティティを確立して、持続可能な生計を立てられるような道を作ることです」と、アークリティさんは説明する。
ラクダのミルクは、牛乳に比べて脂肪分が少なく、乳糖不耐性がある人が飲んでもお腹を壊さないという。ビタミンCや鉄分が豊富なことも知られている。また、ほのかに独特の塩味と風味があり、それを活かしてチーズを作ることを思いつく。試行錯誤の末、2021年に国内で初めて製品化に成功した。現在、フェタ、ハロウミ、熟成チェシャーの3種を扱う。大都市だけでなく小さな地方都市からも注文があり、ホテルやレストランからの評判も上々だ。
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(写真)インド初の低温殺菌ラクダミルク。ラクダは人里離れた地域に生息しているため、これまで大手乳業会社でも、栄養成分を最大限に保つ低温殺菌ミルクの生産・流通化は難しかった。
さらに2024年3月には、ラージャスターン州政府運営の酪農協同組合と共に低温殺菌ラクダミルクの販売をスタートした。国内初の試みで、徐々に販売地域を増やしていく計画だ。
豊かな資源に恵まれない土地で生まれる栄養価の高い食品(=スマートフード)に取り組むバフラーのビジョンは、今、インド北部の砂漠地帯ラダックや、アフリカの乾燥地帯など、世界各地で広がりを見せている。土地やコミュニティを定義し、伝統と現代性と結びつける、強くたくましい食品づくりを念頭に置き、アークリティさんと仲間達は、今日も様々なアイデアを出し、各地で行動を起こしている。
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(写真)チーズ工房は、パキスタンとの国境に近い小さな村にある。製造責任者のグラーブ・シン・ソーダ氏(左)は過去25年間、NGOを通じて砂漠地帯のコミュニティ問題に取り組んできた。
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(写真)バフラーは、ネットゼロ・エミッション(CO2排出力ゼロ)のコールドチェーン(低温流通体系)と加工設備を含めたバリューチェーンの構築に力を入れてきた。現在、1日あたり約120Lのラクダミルクを生産している。
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(写真)バフラーでは、ラクダのミルクやチーズなどの加工品だけでなく、A2ミルクやその加工品をはじめ、様々な農産品を扱っている。バフラーに関わるラーイーカー族の収入は15%増しに。以前はラクダの放牧だけを行ってきたが、ラクダミルクを新たな生活の糧とし、ラクダを購入する人まで現れているという。
◎Bahula Naturals
101 Kailashpuri,Bikaner,Rajasthan 334001,India
Camel Milk Halloumi Cheese 500ルピー/200g
Camel Milk Feta Cheese 500ルピー/200g
Camel Milk Cheshire (aged) Cheese 899ルピー/200g
Pasteurised Camel Milk 20ルピー/200ml
https://bahulanaturals.com/
*1ルピー=1.91円(2024年4月時点)
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