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JOURNAL / 世界の食トレンド

発酵を介して農家とコラボ。日本で麹を学んだインド人シェフによる発酵レストラン

India [Pune]

2025.07.24

発酵を介して農家とコラボ。日本で麹を学んだインド人シェフによる発酵レストラン

text by Akemi Yoshi
オンラインショップ「ミソショップ(Miso Shop)」では、香り高いインドラーヤニー米で作った麹と、有機・自然栽培の豆や玄米を使って仕込んだ味噌などを常時販売している。使用する食材は地理的表示(GI)を取得したものなど、地元産にこだわっている。また味噌を使った様々なレシピを開発。マンゴーのような香りの黒豆カーラーゲーワダーで作った黒豆味噌を、マンゴースムージーに合わせるなど、自由な発想が楽しい。

インドでは、コンブチャやキムチなど、海外から入ってきた新しい発酵食品の人気が高まっているが、日本の麹もその一つだ。

インド西部のマハーラーシュトラ州プネーの「グラウンド・アップ(Ground Up)」は、麹に魅せられたシェフのガーヤトリー・デーサーイーさんが手がける発酵所&ルーフトップテストキッチンで、日々ユニークな発酵料理が生み出されている。

バンクーバーの料理学校で学んだガーヤトリーさんは、農家とコラボレーションするレストランポップアップをインドでも行いたいと活動をスタートさせた。同時に科学者の友人と共に麹菌の実験を開始し、ぬか漬けや味噌も作り始める。

ガーヤトリーさん
ガーヤトリーさんは、2020年にコンデナスト・トラベラー誌インド版の、40歳以下のシェフで最も注目すべき40人にも選ばれた実力派シェフだ。

発酵料理の盛んなインド北東部への旅で興味深い料理や食材と出会い、2019年、レストラングラウンド・アップをオープンする。だが1人で頑張り続ける限界を感じていったん店を閉め、発酵料理の修業と知見を深めるために日本に向かう。2023年のことだった。

3カ月間の滞在では日本各地で麹、醤油、酢、納豆、焼酎、豆腐など、様々な発酵食品の現場で学び、2024年6月に店を再開した。

新生グラウンド・アップは、一風変わった営業スタイルで知られる。毎日レストラン営業をするわけではないのだ。たとえば5月のディナーは、インド北東部ナガランド州のシェフとのコラボレーションディナー6日間のみだった。

コラボレーションしたシェフと共に
2025年5月のディナーは、コラボレーションしたシェフと共に、タイ北部やミャンマーを旅して発酵料理を学んだ経験が生かされている。

だが、レストラン営業の日以外も休んでいるわけではない。1万6千人のフォロワーがいるインスタグラムの投稿でガーヤトリーさんはこう語る。
「ディナーを提供していない時も、私たちは日々考え、試食し、次のメニューを計画し、旅に出かけて人々に会い、協力し、学んでいます」

シグニチャーディッシュの先住民が食する山菜「テールダー」
先住民が食する山菜「テールダー」を2種類のチーズ、アカテツ科のマフアーの木の花のシロップ、カカオニブ、チョコレートモルトとビスケットモルトをミックスした麦汁と合わせ、チャイブの花を添えた美しく味わい深い1品。発酵と地元の食材を知り尽くしたガーヤトリーさんならではの発想で、顧客からのリクエストが1番多いシグニチャーディッシュだ。

人気料理はあるものの、メニューは常に変わる。各地の農家との提携に力を入れており、そこから思いがけない新しい一品が生まれることもある。「発酵は調理法の一つ」と考える彼女は、発酵が生み出す複雑な風味を愛し、また様々な発酵方法を知っていることで、農家の人たちと自由に仕事ができるのも魅力だという。

今後も国内外で精力的にコラボイベントを行い、インド全土のレストラン、バー、家庭に発酵食品を届けたいと夢は広がっている。アイデアと行動力あふれるガーヤトリーさんとグラウンド・アップの“熟成”が楽しみだ。

筍のナイフスタンド
レストラン営業の予定はInstagramとWhatsAppグループで告知する。写真はキッチンにある筍のナイフスタンド。

ガーヤトリーさんの発酵レシピ

【白味噌サラダドレッシング】
日本で食べた味噌和えにヒントを得たサラダドレッシングは、ポテトと鶏肉のサラダにぴったりだという。
◉材料
白味噌 大さじ2/マスタードシード 小さじ4/パセリ 小さじ1/2/ハチミツ 小さじ1/2/オリーブ油 大さじ2/ピーチビネガー* 大さじ1+小さじ1/2 *手に入るもので可
◉作り方
マスタードシードは酢に一晩漬け、翌日、粗めのペースト状にする。白味噌、オリーブ油、ハチミツ、酢を加えて混ぜ、刻んだパセリと塩を少々加え、味を調える。


◎Ground Up
2025年7月より店内で味噌テイスティング(1800ルピー)をスタート。
以下の自家製味噌はオンラインショップで購入できる。
Brown rice miso 425ルピー/200g
Black bean miso 350ルピー/200g
White bean miso 350ルピー/200g
White miso 350ルピー/200g
Classic soybean miso 300ルピー/200g

Instagramアカウント:@groundup.in

*1ルピー=1.7円(2025年7月時点)

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