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JOURNAL / 世界の食トレンド

Italy [Paestum] サラミもチーズもすべて野菜。シェフと植物学者が手掛ける革新的野菜料理

2022.09.12

text by Mika Hisatani / photograph by Ristorante Tre Olivi

古代神殿の遺跡で知られる南イタリア、パエストゥムにあるレストラン「トレ・オリーヴィ(Ristorante Tre Olivi)」。ビーチホテルの宿泊客向けレストランからグルメレストランへのリニューアルに伴い、エグゼクティブシェフにジョヴァンニ・ソローフラ、シェフパティシェにロベルタ・メッロリが任命されたのはコロナ禍前のことだ。

プライベートでもカップルである2人は、ローマの三ツ星「ラ・ペルゴラ」、シチリアの一ツ星「サン・ジョルジュ・レストラン・バイ・ハインツベック」と、合わせて12年間ハインツ・ベック氏の下で研鑽を積み、新境地でのチャレンジとなった。2021年末に発表された『ミシュラン・イタリア2022』では、ゼロから一気に二ツ星を獲得し、大いにスポットを浴びた。

名物は前菜で供される、野菜でできたサラミとチーズのワゴンだ。レストランはオーガニック農園を所有しており、28歳の植物学者エマヌエレ・ジョン・カヴァイオーロが畑の管理をするだけでなく、一部の料理についてはシェフの右腕となり共にメニュー開発を行なっている。

「野菜のワゴン」もチームで実現したもの。根セロリで作ったモルタデッラ(豚のハム)、ビーツのブレザオラ(牛肉のハム)、アーモンドミルクのリコッタチーズなど、約10種類が植物性の材料で作られている。中でも白眉の出来は、サルシッチャ(ソーセージ)。花、ペペロンチーノ、フィノッキオ、スパイスなどを混ぜ、数カ月熟成させて仕上げる。見た目、肉々しい食感、ワイルドな風味――これが花や野菜からできているとは驚嘆に値する。


「私たちはヴィーガン料理のレストランではありません。南イタリアを代表する農業地の野菜を生かした、地域アイデンティティのアプローチなのです。保存食材を作り、消費する、昔ながらの習慣も表現しています」と話すソローフラシェフ。

コース料理はパエストゥム地方に伝わる、人々の風習を叙述した料理で構成されており、最新のイノベーティブ料理を通じて伝統を知る、時空を超えるような体験ができる。

(写真トップ)「野菜のワゴン」は、遊び心とアート性の高いプレゼンテーションに、高度な保存食技術を掛け合わせた印象に残る前菜。ビーツの果汁とシナモン、クローブからできた“偽の赤ワイン”をマリアージュする。

(写真2枚目)「野菜のワゴン」より盛り合わせ。カッコ内は原材料。左上から右回りに、モルタデッラ(セルリアック)、コッピエッタ(ペペローネ)、サルシッチャ(花、ペペロンチーノ、フィノッキオ)、ロンザ(ナス)、ブレサオラ(ビーツ)、肉のグリル(キノコ)、燻製サーモン(カボチャ)、豚のラルド(ズッキーニ)。

コース料理より。南イタリアでは、野菜嫌いの子どもたちに野菜を食べさせるトリックとして、ミネストローネを「ワニのズッパ」と呼んで提供することも。「トレ・オリーヴィ」では、野菜や野草を細かく刻み、皿の中心にワニの姿に盛り付け、ブロードをかけて供している。



◎Ristorante Tre Olivi
Via Poseidonia, 41 Paestum Capaccio Salerno, Italy
☎+39-0828-720023
7皿 140ユーロ、10皿 180ユーロ
https://www.treolivi.com

*1ユーロ=137円(2022年8月時点)

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