無駄にしない、季節のものを食べる。イタリア料理を無形文化遺産に導いた、あたりまえの哲学
Italy [Torino]
2026.02.19
text by Sayaka Miyamoto
「ミネストローネ」はイタリア料理の多様性を代表する料理とは言え、冷蔵技術や輸送技術が進んだ現代では、地方ごとの境界線は若干薄れつつある傾向にある。ただし北イタリアならキャベツや豆類、南イタリアならズッキーニやナス、トマトといったいわゆる夏野菜が多用されるなど、地域ごとの“らしさ”は人々の感覚の中に受け継がれているように見える。
2025年12月10日、イタリア料理がUNESCO(ユネスコ)の無形文化遺産として正式に登録された。イタリアの食文化としてはすでに、ナポリピッツァの職人技と文化が2017年に、トリュフの探索と抽出知識が2021年になど、いくつかの部門が登録されている。だがイタリア料理全体が無形文化財として認められることを目標に、イタリア料理雑誌の老舗的存在『ラ・クチーナ・イタリアーナ』が中心となり、マッシモ・ボットゥーラをはじめとする著名シェフたち、各機関が登録実現に奔走したという。
たとえばプロ養成学校として唯一「イタリアの卓越性」としてイタリア共和国から認定を受けている*「イフセ(IFSE)」(ピエモンテ州)は、イタリア国内外の若い料理人たちにイタリア料理の本質を伝えるため、様々な教育プログラムを実行、また世界各国でイタリア料理イベントを開催し、本物を伝えてきた。そんな各界の努力が実り、「持続可能性と生物文化多様性の間のイタリア料理」が人類の無形文化遺産として認められ、登録が実現した。
「食材を無駄にしない」「季節のものを食べる」「小規模農家や伝統的農業を支える」などの持続可能性、「地域ごとに異なる食習慣や技術、産物が今も受け継がれ愛されている」という多様性、そしてそれらが家族や地域社会の絆を深める「食文化」として存在している――そんなイタリア料理の側面が高く評価されたというわけだ。
生物多様性の保護、持続可能性の推進を創設以来訴えているスローフード・イタリアは、登録を受け発表した正式コメントの中で、「この登録は単に料理のおいしさやレシピを評価したものではなく、農民、生産者、料理人といった人々の技術・経験・創造性そのものを評価したものだ」 と強調した。
photograph by Saverio Pisano@IFSE Culinary Institute
photograph by Saverio Pisano@IFSE Culinary Institute
さて、そんな世界遺産に登録された持続可能性と生物多様性の間のイタリア料理って、実際には何なのだろう? と考えると、その代表例は、例えばミネストローネであり、パンツァネッラだと気づく。ミネストローネはイタリア全国で食べられているものの、各地、各家庭でそれぞれのレシピがある。北イタリアでは豆やキャベツ類を多用し、南イタリアならトマトやズッキーニなど、その土地、その季節の野菜を使う。トスカーナの名物料理として知られるパンツァネッラは、硬くなった古いパンがレシピの主役であるという、食材を無駄にしない精神の代表例と言えるし、暑い夏に食べるために火を使わずに調理できることなども評価されたのだ。
とてもシンプルなことだが、そのシンプルさこそが現代社会では忘れられがちであり、大切にしていくべきことだと、イタリア料理は身をもって示してくれているということかもしれない。
*「イタリアの卓越性」とは、メイド・イン・イタリーの最高品質を代表する製品、サービスなどをイタリア共和国が認定するもの。ファッション、デザイン、食品(DOP/IGP)、自動車、工芸品などの分野が含まれる。
◎Ministero dell’agricoltura.della sovranità alimentare e le foreste
https://www.masaf.gov.it/cucina-italiana-patrimonio-unesco