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JOURNAL / 世界の食トレンド

ビールの泡、ラングスティーヌの爪・・・副産物に命を与える料理人の発酵調味料ブランド

Norway [Oslo]

2025.09.25

ビールの泡、ラングスティーヌの爪・・・副産物に命を与える料理人の発酵調味料ブランド

text by Asaki Abumi
欧米で料理経験を積んだウィル・モファットさん。発酵を一言で表すなら「エンドレスなインスピレーションと好奇心」。世界各地の発酵文化から学び、無限の可能性を探求する姿勢が原動力だ。日本の食文化を「知的でシンプル、北欧の料理哲学とも親和性が高い」と評価している。photograph by Asaki Abumi

北欧ではここ数年、発酵文化に注目が集まっている。麹や発酵調味料を扱うレストランが増え、家庭でも発酵に挑戦する人が増加している。

ノルウェー・オスロ発の「ビー・カルチャー(b.culture)」は、食品加工の副産物や余剰素材を調味料へと生まれ変わらせる発酵メーカー。2020年11月、シェフのウィル・モファットさんと、ミシュラン二ツ星レストラン「コントラスト(Kontrast)」オーナーシェフのミケル・スヴェンソンさんが共同で設立した。

社名の“b.”はバクテリアカルチャー(微生物培養)の頭文字であると同時に、レコードのB面の意味も込められている。A面がレストランの華やかな世界なら、B面は副産物や多様な素材を使った実験的な発酵プロジェクトの場だ。

米国出身のモファットさんは、米国・中米・北欧で料理経験を重ねる中で、持続可能性や食品ロス、発酵の知識を磨いた。新北欧料理を代表するコントラストのスヴェンソンさんから副産物活用の提案を受け、共同事業を開始。厨房を借り、醤油やガルムを試作した。コロナ禍にはロックダウンによって約半年間厨房を独占することができ、牡蠣の殻やコーヒーの残液といった廃棄予定素材を白みそなどに変える開発が加速した。

ラングスティーヌ
ラングスティーヌは通常、尾の部分のみを料理に使い、爪は外してスープや他の調理法で活用する。頭と爪から出る副産物が非常に多いため、ガルムを作ってみたところ人気商品に。以来、尾を取り扱っているシーフードサプライヤーから頭と爪を仕入れている。photograph by Will Moffat

ビー・カルチャーの核は「廃棄されるはずの食材に新たな命を与える」こと。ビールの泡を沈殿させて酢に加工するなど、水産業や飲食業から寄せられる多様な副産物を活用する。
「飢えている人がいる一方で食べ物を捨てることは倫理的に許されない」と語るモファットさん。事業拡大に伴い「この余った食材で何かできないか」と相談されることも増えたという。

現在の定番商品は、コーヒーやマッシュルームの醤油、燻製ニシンやラングスティーヌ、ビーフのガルム、ビール酢、エンドウ豆味噌など。創業以来70種以上を開発し、ノルウェー国内のレストランやデリ、スウェーデン・ドイツにも出荷している。手作業の品質を保ちながら、将来的には欧州・中東、日本への販路拡大を目指している。副産物から生まれたノルウェー発の発酵調味料が、世界の食卓に届く日もそう遠くないかもしれない。

ビー・カルチャーの商品
ビー・カルチャー独自の発酵プロジェクトから生まれた旨味の宝庫。スペシャルティコーヒーの旗手ティム・ウェンデルボーともコラボして、使用後のコーヒーかすを発酵させた「Coffee Shoyu」をはじめ、新鮮なオイスターマッシュルーム(ヒラタケ)を使った「Mushroom Shoyu」、販売できなくなったビールを再生させた芳醇な「Fermented Beer Vinegar」などが並ぶ。 魚・肉・野菜を引き立て、ドレッシングやソースの仕上げにも最適な、ここにしかない味わいが楽しめる。photograph by Asaki Abumi
梅干し
趣味で梅干しや梅酒作りも楽しんでいるモファットさん。2025年にはノルウェー国立美術館の「新北欧料理」展にも参加、「自分がそのムーブメントの一部として選ばれたことに正直驚いた」と振り返る。「北欧産の食材だけで持続可能な料理を追求するなら、保存や発酵は不可欠」とし、日本の鰹節や梅干しなどを通して、北欧と日本の共通点を強調する。photograph by Asaki Abumi

b.culture
Instagramアカウント:@b__culture

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