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JOURNAL / 世界の食トレンド

Spain [Fuerteventura] 気候変動時代の栄養源となるか?スペインで進むラクダ乳商品化プロジェクト

2022.11.10

text by Yuki Kobayashi / photographs by DromeMilk Camel Bio Farm

首都マドリードから1739km離れ、北アフリカのちょうど肩の位置に8つの島からなるカナリア諸島。スペイン領とはいえその歴史も風土も本土イベリア半島とは異なっているが、フエルテベントゥーラ島ではその気候風土を利用して、ラクダの乳の商品化が進んでいる。カナリア諸島に住む固有種のラクダは、15世紀にアフリカ大陸から渡ってきた種が時代を経て、ずっと小型化したもの。現在諸島内に1200頭ほどを数える。

中近東やアフリカでは古くから利用されているラクダの乳は、成分が馬の乳と共に最も人間の母乳に近いと言われている。脂質は一般的な牛乳の約半分でオメガ3を豊富に含み、豆乳よりも消化がよい。多く含まれるアミノ酸は筋力回復に大きな効果があること、また100mlで48キロカロリーという低カロリーの性質もあり、アスリートからの期待も高いという。

(写真)ラクダの搾乳量は1日につき1頭で3リットル程度。1日35~40リットルという牛乳と比べると希少価値が高い。ラクダ乳の生産はソマリア、マリ、ケニアが世界の97%を占めており、欧州では生産も消費も今がまさにスタートライン。


2011年にEUから商品化の承認を受けて以来、国内研究所が主導してドイツ、クロアチア、イタリア、フランス、モロッコ、トルコ、アルジェリアとの共同研究開発が続いているが、欧州で最もラクダの生息数が多いのがスペイン。その中でもカナリア諸島のフエルテベントゥーラは、前世紀から固有種のラクダの保存に力を入れてきた土地だ。

観光客向けの自然公園「オアシス・ワイルドライフ」で進められている、ラクダ乳プロジェクト「ドロメミルク・キャメル・バイオファーム」では、400頭ほどが広大な敷地で放牧され生産体制を整えている。商品には生乳の他、チーズ、チョコレート、ヨーグルトなども。牛乳よりやや塩味が強いという性質を利用したレシピ開発も進む。過酷な自然環境下でも生息できるラクダゆえ、これからの気候変動に対応する新たな栄養源として、注目度が高まりそうだ。

(写真トップ)カナリア諸島のラクダ種は常に絶滅の危機にさらされているため、遺伝子保存のプログラムも組まれている。

(写真)アレルゲンを含む割合も低いラクダ乳。豆乳よりも消化が早いことが科学的に立証されている。飲料やヨーグルト、チョコレートといった加工食品を展開予定。

(写真)アレルゲンを含む割合も低いラクダ乳。豆乳よりも消化が早いことが科学的に立証されている。飲料やヨーグルト、チョコレートといった加工食品を展開予定。



◎DromeMilk Camel Bio Farm
https://www.instagram.com/dromemilk/

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