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JOURNAL / 世界の食トレンド

Spain [Cangas del Narcea]セリアック症患者にも安心な旅を。過疎化と戦う町がグルテンフリーで勝負!

2023.03.13

過疎化と戦う町がグルテンフリーで勝負!セリアック症患者も安心な旅

text by Yuki Kobayashi

スペイン人にとって好感度ナンバーワンのアストゥリアス州*。スペイン北部に位置しており、北にはカンタブリア海を有し、内陸には2500m級の山脈がそびえる山海の幸に恵まれた土地だ。

州内最大面積を誇るカンガス・デ・ナルセア市は、過疎化と戦う町でもあるが、近年グルテンフリーの町として注目を集めている。不思議なことに同市は、グルテン不耐性であるセリアック患者が全国平均の3倍を記録しているのだ。

セリアック症の人のためのプラットフォームとアプリケーションを立ち上げた、地元出身のロレナ・ペレスさんもその1人。自身の必要に迫られて作ったアプリ「セリシダ(CELICIDAD:スペイン語の“Celiaco=セリアック”と“Felicidad=幸せ”をかけた造語)」には、全国のグルテンフリーのメニューや商品を扱うレストランや小売店が登録されており、場所を入力すればグルテンフリーの店を探すことができる。利用者のレビューも付き、アプリは2015年のローンチから好調な出だしを切った。

その後ロレナさんは、市役所と共同で町のグルテンフリー化を進める「カンガス・グルテンフリー(Cangas sin gluten)」を立ち上げると、セリアック症患者の多い地元で、飲食店や小売店の多くがプロジェクトに賛同。小さい町ながらもホテル、カフェ、レストラン、ベーカリーや小売店も含めて50軒ほどが、グルテンフリー商品を扱うようになった。

(写真)飲食店は市が企画するセリアック用の調理法や対応などの講習を受けると、グルテンフリー認定証が発行される。店の入り口には認定シールが貼られ、識別しやすい。認定証は毎年更新を義務付けして意識を高く保っている。

(写真)飲食店は市が企画するセリアック用の調理法や対応などの講習を受けると、グルテンフリー認定証が発行される。店の入り口には認定シールが貼られ、識別しやすい。認定証は毎年更新を義務付けして意識を高く保っている。

2019年、カンガス・グルテンフリーを国際観光見本市で発表するや否や、観光客は54%増。町中にこれだけグルテンフリーのオプションがあれば安心して食事ができるため、多くは家族連れで、周囲の豊かな自然を楽しみながら3~4日間の滞在がスタンダードに。当然、市の経済は潤った。スーパーのチェーン店でも、通常よりも広いグルテンフリー商品売り場を設けるなど、営業形態を問わず協力体制も万全だ。

欧州ではセリアック症患者の食費負担を軽減するための補助金を出す国も少なくない。健康のためにグルテンフリー食品を求める人も増えている昨今、カンガス・デ・ナルセア市は地域ならではの団結力でいち早く時代に乗っている。

*全国紙『ラ・ラソン』(2021年12月掲載)の統計データより

(写真トップ)2018年、直談判で市役所との共同企画「カンガス・グルテンフリー」を実現させたロレナさん。地元愛ゆえの行動力。


(写真)市では年に一度、5月にグルテンフリー学会を開催し知見を高める。国内各地から参加者がやってくるようになった。

(写真)市では年に一度、5月にグルテンフリー学会を開催し知見を高める。国内各地から参加者がやってくるようになった。

グルテンフリー
(写真)市内のベーカリーはもちろんのこと、グルテンフリーは肉加工品や、ホテルの朝食、キオスクの駄菓子にまで及ぶ。

(写真)市内のベーカリーはもちろんのこと、グルテンフリーは肉加工品や、ホテルの朝食、キオスクの駄菓子にまで及ぶ。



◎Cangas sin gluten
https://cangassingluten.com/

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