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JOURNAL / 世界の食トレンド

災害時の食料配給も効率的に。寄付のロジスティックを簡易化するプラットフォーム

Spain [Madrid]

2025.01.14

災害時の食料配給も効率的に。寄付のロジスティックを簡易化するプラットフォーム

text by Yuki Kobayashi
災害時だけでなく、社会的弱者などへの寄付文化はスペインでは日常的だ。

2024年10月末に起こったバレンシア県での大洪水。200名を超える死者を出し、壊滅的被害を受けた地域では2カ月以上経つ今も、通常の生活に戻っていない所も多い。「Solidalidad (連帯)」の精神が強いスペインでは、翌日から数千人単位でボランティアが現地に入り、全国から膨大な量の食料や日常生活品が送られ続けている。

2019年にスタートアップとして起業した、食料の寄付と配給をデジタルで効率化したサービスを提供する「ナリア(NARIA)」社は、まさにこうした災害時でも活躍している。

若い才能が集まったナリア社、2024年には農林水産省の起業イニシアチブ賞を受賞。
若い才能が集まったナリア社、2024年には農林水産省の起業イニシアチブ賞を受賞。

2019年起業時に、デパート店内に「自動寄付金機」を設置し話題を呼んだ同社。店頭に設置された端末に表示されるアイテムから寄付したいものを選び、その金額を寄付する仕組みで、寄付をより身近に簡単にしたものだったが、現在はさらにブロックチェーンを用いた食料配給・寄付のプラットフォームを展開している。

登録しているのはフードバンク、食料配給をしている民間企業や慈善団体、行政機関など多岐に渡る。その一方で食品加工業や流通業、スーパーなど食料を廃棄する可能性がある会社、一定金額を食料配給用として寄付したい会社や団体などがこのシステムに登録。簡単に言えば、寄付したい側と受ける側のマッチングをしてくれるオペレーションだ。

譲渡は常に最も短い移動距離で配給できる同士が選ばれ、寄付する食料の運搬に関しては両者で取り決める。寄付金の場合は、配給する側の機関から利用者(社会保障を扱う行政機関において生活困窮者として登録されている家庭など)に“カード”が譲渡され、このカードを使ってフードバンクでの配給を受けたり、提携スーパーで買い物ができる仕組みだ。プラットフォームはブロックチェーンを利用し、すべての活動が記録され共有されるので不正が起こりづらい。

現時点では、店頭での寄付端末機設置は限られているが、画期的なアイデアは寄付に慣れていない人にも、寄付を考え実行するきっかけを作った。
現時点では、店頭での寄付端末機設置は限られているが、画期的なアイデアは寄付に慣れていない人にも、寄付を考え実行するきっかけを作った。
食料配給側がカードを登録者に渡すだけで、寄付のロジスティックスがぐっと便利に。
食料配給側がカードを登録者に渡すだけで、寄付のロジスティックスがぐっと便利に。

ナリア社が一定の条件を満たしているかどうかをチェックし、条件にかなった企業・団体がソフトウェアを提供されプラットフォームを共有する。国内ではフードバンクを始め現在40団体ほどが登録しており、先の災害でも多くのやり取りを実現した。同社はプラットフォーム内でやり取りされる量や内容、金額や団体名などをすべて使用者向けに公開し、より一層透明性を高めることで参加企業や寄付を増やしている。

従来、スペインでは企業が寄付を行う際に一定の条件を満たすと法人税の控除を受けられることもあり、大企業の寄付の習慣は珍しくない。2025年からは食料廃棄に関する法律が厳格化されることが決まり、多くの企業側がこれまでよりも真剣に食料廃棄削減に取り組んでいるが、こうしたDXによる食料寄付の簡易化が、社会の助け合いをよりスムーズに効率化することは確かだ。


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