ピンチョスの街サンセバスチャンの“10戒”。地元民が選ぶ次世代に残したいピンチョスガイド
Spain [San Sebastián]
2025.03.21

text by Yuki Kobayashi
コロナ禍には、カウンター上のピンチョスもラップやプラスチックケースで保護されていたが、最近では原型に戻っている。
サンセバスチャンが美食の聖地と言われ始めて久しい。SNSの興隆と共に美食を求めるオーバーツーリズムの波に、人口19万人弱のこの街はディズニーランドのようになってしまうと危惧されていた。実際、コロナ後にフランスの新聞で、サンセバスチャンのピンチョスのクオリティを疑問視する批評があったという。旧市街の最もバル密度の高い通りでは幸いまだフランチャイズの影は薄いものの、旧市街のバルのオーナーたちは2代目、3代目と世代交代が進む。1人のオーナーが5、6軒と支店を持っている場合もある。大量に押し寄せる観光客に対するオペレーションをこなすうちに、質が下がっていったとしても不思議はない。
2019年、市役所が街のベテランの飲食業者に声をかけたのがきっかけで設立された「ピンチョス研究所(Instituto del Pintxo de San Sebastian) 」は、伝統バルの店主や飲食業に深く関わる人々で構成された、伝統的なピンチョスを守るための団体だ。コロナの影響で一時中断されたものの、より高品質なピンチョスを保ち、ピンチョスの街サンセバスチャンの独自性、伝統や個性を守り、飲食店同士の健全な競争性を促そうという団体である。
彼らには10戒とも言えるピンチョスの定義がある。
1 よい大きさで、最大限の味を表現
2 自家製であること
3 前衛的であること
4 個性があること
5 カウンターに新鮮な状態で置いてあること
6 生産物へのこだわり
7 サービスのプロフェッショナル性
8 材料と価格が明確に提示されていること
9 食べるのはサンセバスチャン風に、カウンターであること
10 地元とその文化との共存
これらを指標に、同研究所の審査員がバルに1、2、3本のバランディージャス(ようじ)を授与。研究所は毎年ガイドブックを作成し、優良バルを紹介している。

代表で市内「ボカタ」のシェフ、ヘスス・サンタマリア氏は「審査員はサンセバスチャンの市民も多く、皆が飲食店やピンチョスについて深い造詣のある人々。審査員には団体の講習を受けてもらい、ピンチョスの評価の仕方を学んでもらいます。次世代によりよいサンセバスチャンを遺すこと、地元の若者がケバブではなく、ピンチョスを食べて育つ街にしたい」と話す。
地元人で構成される非営利団体が認めるピンチョスのガイドブックは、実は他のどのガイドブックより信頼度が高いのかもしれない。


◎Instituto del Pintxo de San Sebastian
https://www.institutodelpintxodess.com/instituto-del-pintxo