KURKKU FIELDS×料理通信
6/11(日)開催「生きる力を養う学校」第1回リポート
2023.07.06
photographs by Kiyu Kobayashi
身近な食材から生命の“循環”を体感する
サステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」と「料理通信」がタッグを組んでお届けする食のプログラム「生きる力を養う学校」が2023年6月11日に開講。初回は「卵と小麦」をテーマに、身近な食材から「食べ物」を「生き物」として捉え直すワークショップを開催しました。その模様をダイジェストでリポートします。
目次
- ■10:15 【小麦の脱穀体験】国産小麦に触れる
- ■10:40 【小麦の製粉見学】玄麦から全粒粉へ
- ■11:00 【小麦の調理①】挽きたての全粒粉でパスタ生地を仕込む
- ■11:40 【鶏舎見学、採卵】鶏の生態を知る
- ■12:20 【鶏のエサ作り】地域の食品残渣で発酵飼料を作る
- ■13:10 【小麦の調理②】道具を使わずショートパスタを成形する
- ■13:40 【野菜の収穫】摘みたてをサラダに
- ■14:00 【ランチ】生みたての卵で作るエッグノッグ
- ■15:00 【コミュニケーションタイム】対話から広がる
10:15 【小麦の脱穀体験】国産小麦に触れる
降水確率90%の天気予報のもと、東京駅から高速バスで1時間半。千葉・木更津の「クルックフィールズ」に集合した参加者を待っていたのは、雨上がりの空と超晴れ男の農場長・伊藤雅史さん、そして1週間前に畑で収穫されたばかりの小麦の山。クルックフィールズがオープンした4年前、場内のベーカリーで使う小麦粉を自分たちで育てようと種をまき、栽培している「春よ恋」です。
パン屋さんで「国産小麦」の表示を見かけることも増えましたが、日本で収穫される小麦の約7割は北海道産。「関東ではうどん用の小麦は作れるけど、パン用の小麦は育てるのが難しいんです。収穫時期が梅雨に重なるから」と伊藤さん。毎年、収穫&種採りを繰り返すことで、徐々に土地に順応して育てやすくなってきたと言います。
参加者一人ひとりが小麦の束を掴んで、脱穀機へ。
一束から脱穀される実の量は意外と少ない。
残った小麦の茎は再び畑へ返します。栄養豊富で微生物の格好のすみかに。籾殻は鶏のエサや堆肥になります。
10:40 【小麦の製粉見学】玄麦から全粒粉へ
続いて向かったのはベーカリーの脇にある製粉小屋。脱穀した小麦はふるいにかけてから表面を磨き、写真のような状態に。これを石臼で挽いて小麦粉にします。
クルックフィールズ内のレストラン「ペルース」の山名新貴シェフは、「挽きたての小麦でパスタを打つようになって、パスタ(小麦)の風味に合わせてソースを考えるようになった」そう。
11:00 【小麦の調理①】挽きたての全粒粉でパスタ生地を仕込む
挽きたての全粒粉を自ら調理して味わうべく、山名シェフによる手打ちパスタ教室を開催。パスタマシーンも麺棒もいらないショートパスタの作り方を学びます。まずは山名シェフが生地作りのお手本を見せ、3~4人のグループに分かれていざ実践へ。
千葉県産の強力粉、北海道産の薄力粉、挽きたての全粒粉と塩を混ぜたところに、ぬるま湯で溶いた卵(農場産)とオリーブ油を少しずつ加えていきます。
手の腹を当てて押し出すように力を込め、生地に水分を行き渡らせます。
山名シェフがテーブルを回って生地の状態をチェック。「あと10回捏ねてください」など具体的にアドバイス。
これくらいまとまったらラップをかけて常温で生地を休ませます。
11:40 【鶏舎見学、採卵】鶏の生態を知る
パスタ生地を休ませている間に鶏舎見学へ。平飼いの鶏舎の扉を開けると、鶏たちが一斉に運動場へ飛び出してきました。雨上がりの空の下、せっせと土をついばむ鶏たち。そこに刈ったばかりの草を投げ入れると、わっと集まり無心に食べ始めます。
「鶏も人間と同じで、①水②タンパク質③緑餌(りょくじ)を必要としています」と養鶏担当の松村洸大さん。土をつついていたのはタンパク源のミミズを探して。時に網を飛び越えて脱走するのは、運動場の外に生えている草を求めて。生きる力漲る鶏たち1000羽がクルックフィールズで暮らしています。
畑で収穫された規格外の野菜や場内で刈り取った雑草が、鶏たちのご馳走に。
鶏舎の中に入ると臭いがまったくしないことに驚きます。目の前で、今まさに産卵中!
生みたての卵を一人1個ランチに持ち帰ります。
鶏の体温も直接手で感じて。
12:20 【鶏のエサ作り】地域の食品残渣で発酵飼料を作る
続いて松村さんから鶏のエサ作りをレクチャー。昨今ニュースで話題になっている卵の値上がりは、日本の養鶏が輸入飼料をベースにしていることが大きな理由のひとつ。輸入穀物の値上がりが卵の価格に響いています。
クルックフィールズでは鶏のエサとして主流であるトウモロコシを使わず、国産の穀物(近隣農家から出るクズ米や米ぬか、小麦)、タンパク源(おから、魚粉)、ミネラル(牡蠣殻。これまで広島産を購入していたが、今後は富津の海苔養殖業者から使用済の牡蠣殻を譲ってもらうことに)を自分たちで配合し、エサを作っています。
鶏たちが食べているエサの配合がひと目でわかる「鶏の弁当ボックス」。右手前から時計回りに玄米、米ぬか、牡蠣殻、小麦、おから、魚粉。緑餌は場内に生えるクローバーやハコベ、イネ科植物など。
おからは農場スタッフが通勤路で見つけた大多喜町の豆腐屋さんに声をかけて、譲ってもらうことに。「産業廃棄物として捨てられていた地域の未利用資源を活用して、卵を育てる。1000羽規模の小さな養鶏だからできることかもしれませんが、常にそうした循環が作れないかアンテナを立てています」
嫌気性発酵飼料作りを体験。おからと米ぬかを交互に混ぜてドラム缶に7層ほど重ねていきます。
1カ月ほど発酵させるとヨーグルトのような香りに。発酵飼料を食べた鶏の糞は平飼い鶏舎の地面で微生物によって分解されるから嫌な臭いがしないのだそう。さらにその糞を堆肥舎で発酵させ、畑へまいて作物を育てます。「この鶏糞堆肥が小麦栽培に欠かせない。小麦は肥料っ食いだから」と農場長の伊藤さん。
米好き、麦好き、野菜好きと鶏によってエサの好みが違うから、黄身の色味も微妙に違う。
13:10 【小麦の調理②】道具を使わずショートパスタを成形する
再び手打ちパスタの仕込みに戻ります。休ませた生地は表面がつるんと滑らかに。
適当な大きさに切ってひも状に伸ばし、切り分けます。
2本指で生地を押して引く。すると弾力のある生地がクルンと丸まりこんな形に。
最初は恐る恐る、次第に黙々とパスタの成形に没頭。今朝見た植物が次第に食べ物に近づいていきます。
外の竈でパスタの茹で湯を沸かし中。
13:40 【野菜の収穫】摘みたてをサラダに
4月のワークショップで苗を植えたトマトが成長しているのを横目に、ランチのサラダの葉を摘みにハウスへ。
帰り道に咲いていたフェイジョアの花びらをつまみ食い。肉厚で芳しい香りが口中に広がります。
14:00 【ランチ】生みたての卵で作るエッグノッグ
鶏舎から持ち帰った卵を使い、ドリンク担当の小高光さんがランチに合わせて甘くないエッグノッグを考案。アルコールが入っていないのに卵の臭みは一切感じません。
皆で成形した形も大きさも不揃いなショートパスタを薪火で大量に茹で上げるのは至難の業。竈を石積みから自作したスタッフの佐藤剛さんと山名シェフが、火加減の調整に苦戦しながらベストな茹で加減を探ります。
畑で採れたジャガイモとインゲン、バジルに大原産のタコと富津産のノリを加えたジェノヴェーゼソースに絡めてランチ会場へ。
スタッフも同席してお待ちかねのランチタイム。本日のメニューは、(手前右から時計回りに)農場でその時期採れる有機野菜をたっぷり使ったベジローネ。全粒粉のカヴァテッリ ジェノヴェーゼソース。自家製酵母のパンと採れたて葉野菜のサラダ。平飼い卵のエッグノッグ。
15:00 【コミュニケーションタイム】対話から広がる
ランチタイムの後は、今日のワークを振り返って養鶏担当の松村さん、農場長の伊藤さん、山名シェフへの質問&トークタイム。バックグラウンドも様々な参加者同士の交流も自然と生まれ、「人との出会いが一番の収穫だったかも」というコメントも。
最後はランチの調理で出た生ゴミをミミズコンポストへ。プログラム進行役の吉田和哉さんからコンポストの仕組みを聞いて、この日のプログラムは終了しました。
次回は、ゲストシェフに京都・綾部の自然の中でレストランを営む「田舎の大鵬」渡辺幸樹さんを迎え、「命をいただく」をテーマにお届けします。
京都・綾部「田舎の大鵬」渡辺幸樹シェフを迎えて
「生きる力を養う学校」第2回
日時:2023年7月22日(土)
場所:KURKKU FIELDS(千葉・木更津)
料金:1名12,000円(税込)
◎KURKKU FIELDS
https://kurkkufields.jp/