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PEOPLE / 料理人・パン職人・菓子職人

ジョージアワインの癒しとエナジーの理由。

ジョージア「Pheasant’s Tears Winery」「Poliphonia」 高橋朋也

Aug 08, 2022

text by Sawako Kimijima / photographs by Kazuki Mori,Tomoya Takahashi

本格的なジョージア料理店を開くため、現地で経験を積む決意をして、昨年ジョージアへ渡った高橋朋也さん。ジョージアワインのリーダー的存在である「フェザンツ・ティアーズ」のジョン・ワーデマンが営むレストランでシェフを務めながら、ワインと料理を学ぶ日々を送っています。2022年6月、一時帰国して食事会を開き、シュクメルリやヒンカリなどを披露。「ジョージアワインには癒しがある」と言われますが、高橋さんの話を聞いていると、その理由が見えてきます。


「なんじゃ、こりゃ!?」から造り手の追っかけに。

高橋朋也さんとジョージアワインの出会いは、東京・恵比寿のタイ料理店で働いていた2016年。ソムリエの資格を取得し、タイ料理と合わせるワインを探している最中だった。
「ワイン好きのお客さまをナチュラルワインバーへとお連れしたら、その足で案内されたのがノンナ・アンド・シディのショップでした。そこで飲んだジョージアワインに激しく衝撃を受けて・・・」

ノンナ・アンド・シディとは、イタリアをはじめとする欧州の個性的な生産者の食材やワインを輸入・販売するインポーターである。画家としての才能を見込まれながら一本のオリーブオイルに魅せられて食を生業にしてしまった岡崎玲子さんが選ぶ生産者と食材は、どれもがアーティスティックで独特。ジョージアワインも然りだ。

ワイン発祥の地にして8000年に及ぶワインの歴史を持つジョージアには、クヴェヴリと呼ばれる素焼きの甕で仕込む製法が現存する。収穫したブドウを土に埋めたクヴェヴリに投入。20~40日間のアルコール発酵、そして乳酸発酵の後、密封して約6カ月間放置するのが基本。いたって原始的な造り方である。密封している間は甕任せ。在来品種のブドウを、果皮に付着した野生酵母で発酵させることもあって、人為の介入が極めて少ないワイン造りとして熱い視線が注がれてきた。岡崎さんは2013年から度々現地を訪れ、生産者と交流。彼らの無垢な人間性に魅了されてきたという。

岡崎さんが輸入するジョージアワインを飲んだ高橋さん、最初の印象は「なんじゃ、こりゃ!?」だったと語る。
「言葉にならない衝撃です。味わいに喜びを覚えながらも、なんと表現すればよいのかわからない戸惑いがありました。ソムリエ試験の勉強で形作られたワイン観の外にある味わいだったんですね」
翌日から毎日のようにノンナ・アンド・シディに通って、ジョージアワインの知識を増やす。2018年2月、1カ月の休暇を取り、たった一人でジョージアへ旅立った。主な目的は2つ。ジョージアワインの聖地と称されるワインバー「ヴィノ・アンダーグラウンド」を訪れること、そして、どこかミステリアスで強烈に惹かれていた造り手「フェザンツ・ティアーズ」のジョン・ワーデマンに会うこと。

「英語もできず、ましてやジョージア語もできない。でも、現地へ行って、ジョンに『畑を見せて』と言いたかった。真冬でブドウの樹は冬の眠りについていることはわかっていたけれど、クヴェヴリだけでも見たかった」
いわば、ジョン・ワーデマンの追っかけである。ジョージアワインのスポークスマン的な役割を担うジョン・ワーデマンは腰を落ち着ける間もなく世界中を飛び回り、ワイナリーを訪れても会えないと言われている。それを知りつつ高橋さんは、フェザンツ・ティアーズのレストランに通い詰める。すると、通い始めて1週間後、ラッキーなことに念願のジョンと会う。高橋さんは迷いなく申し出た、「ワイナリーを見せてもらえませんか?」
「ジョンは快諾。翌日行ってみると、ワインとチーズを用意してくれていて、マン・ツー・マンでレクチャーもしてくれた」
そのことを岡崎さんに伝えると、「ジョンに会えたなんて話を聞くの、あなたくらいよ」と言われたそうだ。

同年10月、高橋さんは再びジョージアへ。2019年2~3月、3度目のジョージアへ。新型コロナウイルスの感染がひと段落した2021年7月、高橋さんはついに住むためにジョージアへと向かった。

フェザンツ・ティアーズのブドウ畑。ジョージア東部のワイン産地カヘティ地方にある。研究のため、400種以上のブドウ品種を植えている。手前に見えるのがクヴェヴリ。

土に埋められたクヴェヴリ。ブドウを収穫、破砕の後に投入される。「密封して放置するケースと途中で櫂入れするケースもありますね」と高橋さん。

ジョン・ワーデマンは画家で、アメリカから移住してきた。忙しすぎて描く時間が取れないのが悩み。世界にクヴェヴリの魅力を広めた功績者の1人。


周辺文化がミックスされたジョージア料理。

高橋さんには夢がある。「ジョージアのナチュラルワインとジョージア料理の店を開きたい。場所は以前働いていた恵比寿辺りで。小さな店で。一人で」

学生の頃からDJをやっていた。その時々の客層に合わせて選曲し、聴き手の反応を見ながら流れを組み立て、場の空気を醸成していく。ワインの提供も同じではないかと高橋さんは考える。ゲスト一人一人の嗜好や興味、その時々の心理状態に合わせてワインを選び、リラックスや高揚感をもたらすように流れを作りながらサーブし、個々のワインに対する理解や親しみを醸成していく。「僕はそれをジョージアのナチュラルワインとジョージア料理でやりたい」。

「『ジョージアのアンバー(オレンジ)ワインはいろんな料理に合う』とジョン・ワーデマンは言う。そうかもしれない。現に日本では、いや世界中で、ジョージアワインを料理ジャンルに関係なく合わせて楽しんでいる。でも、もし、そこにジョージア料理があって、一緒に楽しむことができたら、もっとジョージアの世界観を伝えることができるんじゃないかって思う」

首都トビリシから東へ約100km、車で3時間ほどの距離にあるワイン産地カヘティのティバアニにジョン・ワーデマンのワイナリー「フェザンツ・ティアーズ」はある。ジョージアで暮らし始めた高橋さんはまず、その隣町シグナギにあるフェザンツ・ティアーズのレストランで半年働いた。2022年の1月からはジョンと友人が首都トビリシで営むワインバー「ポリフォニア」でシェフを務めている。

「ジョージア料理は極端な言い方をすると際立った特徴が少ないかもしれない。ヨーロッパ、アジア、ロシア、中近東を結ぶ十字路に位置し、モンゴルやイスラムに侵攻された歴史があり、帝政ロシアやソビエト連邦の支配下にもあった。周囲をロシア、トルコ、イランなど文化的影響力の強い国々が取り巻いている。ジョージア料理の代表とも言えるヒンカリは小籠包や包子(パオズ)のようだし、ケバブに似た料理もあれば、ハーブ、スパイス、豆を多用するところは中東っぽい。ナスとトマトとハーブを似たラタトゥイユのような料理もあります。いろんな文化がミックスされているんですね」

「ジョージアでは、ハチャプリというチーズのパンをよく家庭で自家製します。地方や家々によって形状や包み方が異なり、中に詰める具材がいろいろ。僕は出身が東京の東村山や青梅のあたりで、武蔵野のうどん文化圏なのですが、祖母がよくうどんを打っていたのを思い出しました」

高橋さんの料理から。カヘティアン・サラダ。ヒマワリ油を使うのが特徴。

ジョン・ワーデマンのレシピによるヒンカリ。リコッタチーズ、ホウレン草、バジルをフィリングに、サワークリームのソースとパクチーとスパイスを添える。

伝統的なヒンカリのフィリングは肉。尖った部分を手でつまんで口へ運ぶのが現地の食べ方。つまんだ部分は残す。と、食べた数がわかるという。

日本でもブームになったシュクメルリ。鶏肉を炒めてサワークリームで煮た料理で、「ごはんにかけて食べるとおいしいのよ」と岡崎さん。


ホスピタリティとエナジー。

ジョージアを知る人が必ず語るのが、ジョージア人のホスピタリティだ。
「ジョージア人は客人をもてなすことが大好きな民族。手料理と自家製ワインで歓待してくれる」と語るのは、ジョージア研究の第一人者で、岡崎さんや高橋さんとも親しい東京都立大学 人文社会学部教授の前田弘毅(まえだ・ひろたけ)先生だ。
「ジョージアには歴史的に宴(スプラ)で絆を育む文化があります。様々な外的侵略に対峙する上で民と民の絆を深めることが重要だったためでしょう。タマダと称する宴会のリーダーを立てて、その指揮の下で乾杯をする。平和、祖国、友人などに杯は捧げられ、ポリフォニーと呼ばれる歌や音楽を交えながら、宴は続くのです」

「トビリシ国際空港に入るとまず “ゲストは我々の宝です”といった意味の文字が目に飛び込んでくる」と高橋さん。一瞬、それって「ようこそ、日本へ」や「Welcome to Japan」のようなものではと思ってしまうが、そうではないことを証明するエピソードを話してくれた。
「最初のジョージア来訪時、トビリシ市内を歩いていて、日本在住経験のあるジョージア人と友達になったのですが、彼はいつも『我が家に泊まればいい』と言ってくれる。僕自身が何度も世話になっているし、これまでに3人の日本人が無償で住まわせてきてもらっているんですよ」

「ジョージアは訪れる人を包み込んでくれる優しい国」と高橋さん。その優しさは、度々侵略を受けてきた歴史を持つからこそかもしれない。2022年の2月24日、ロシアがウクライナに侵攻したが、かつてロシアとソ連の統治下にあったジョージアにとってひとごとではないだろう。
「ウクライナから逃げて来る人、ロシアを脱出してくる人、両方います。侵攻の翌日には銀行や商店がウクライナ国旗を掲げて、ウクライナ支持を表明した。ロシア人の入店拒否を掲げる店もあります」

客人を自家製ワインと手料理でもてなす。ワイナリーでも家庭でもそれは変わらない。

フェザンツ・ティアーズのワインの数々。「心のきれいなジョンの人柄が表れた清浄な味わい」と岡崎さんは表現する。

「ジョージアに来て驚いたことのひとつが、誰もがワインを造るということでした。10人いたら、うち5人はワインを造っている。造り手を目指している人も多く、レベルが高い。知り合いから自家製のワインをもらうのですが、それがまたおいしい。昔の日本の家庭の梅酒、あの感覚に近いのかもしれません」と、ジョージアの人々にとってワインが日常の酒であることを実感する。

かつて「言葉で表現できない」と感じたジョージアワインを、ジョージアの人々と共に暮らす今の高橋さんなら何と表現するのだろう。
「エナジー、でしょうか。夏には連日40℃にもなる暑さの中で、日の光を存分に浴びたブドウの実には太陽のエネルギーが注入されている。それらを収穫して仕込む甕は土の中に埋め込まれていて、大地による温度管理で醸される。人間は手を添えるだけ、自然が造るワインです。ジョージアワインにはそのエネルギーが詰まっている。いたって優しい味わいなのに、エネルギーが身体の中でビリビリ浸透していくのを感じるのは、ジョージアの歴史が育んだ民族性と自然の力によるのでしょう」


高橋朋也(たかはし・ともや)
1982年生まれ、東京都出身。大学卒業後、IT企業に6年勤務後、食の世界へ。昼はタイ料理店、夜はクラブでバーテンダーとして働く。その傍らでソムリエの資格を取得。ノンナ・アンド・シディでジョージアワインに出会い、魅了される。2018年からジョージア訪問を重ねた後、東京でジョージアナチュラルワインとジョージア料理の店を開くため、2年間の修業を決意。2021年7月、ジョージアへ渡る。ジョージア東部のワイン産地カヘティの古い町シグナギにあるフェザンツ・ティアーズ・ワイナリーのレストランで半年働いた後、2022年1月からは首都トビリシにあるジョン・ワーデマンと友人のレストラン「ポリフォニア」でシェフを務めている。


◎Poliphonia
Facebook:Poliphonia Tbilisi

◎ノンナ・アンド・シディ ショップ
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☎070-1276-8522
11:00~19:00
日曜・祝日休

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