HOME 〉

PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

78歳。「海産物屋なら、子育てしながらでも、やっていける」

生涯現役|「岡本海産物店」西村和子

2023.09.11

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


西村和子(にしむら・かずこ)
御歳78歳 1944年(昭和19年)10月19日生まれ

満州で生まれ、4歳で母と妹とともに帰国。1949年頃、母と祖母が高知市に「岡本海産物店」を創業。高校卒業後、3〜4年ほど高知新聞社に勤務。結婚後、3年ほどしてから店を手伝い始める。息子二人を育てながら、長年にわたり、母と二人で店を切り盛りしてきた(母は3年前に、自宅介護を経て他界)。折り紙好きで、折り紙の雛人形を作って商店街に飾り、行き交う人を喜ばせたことも。今も、子どもにプレゼントするために、空いた時間にせっせと折り紙を続ける。

(写真)
店先で談笑する西村和子さん。3年前に腰を痛めるまでは、毎日着物で店頭に立っていた。街を盛り上げるための労力を惜しまず、商店街のミニコミ紙を、約18年間にわたって発行した歴史も(現在は休止)。故・森繁久弥を始め、店を通じて著名人らとの交友も広がった。「店が自分の世界を広げてくれた。なかなか面白い人生を歩めたかなと思います」(西村さん)


干物は焼き過ぎんように、頃合いを見ながら

この商店街、道幅が3メートルぐらいしかなくて狭いろう? 江戸時代のままの道幅で、「日本一小さい商店街」とも言われゆう。これほど下町情緒が残っちゅう商店街も珍しいと、観光の方からもよく言われます。

高知は魚がえいき、干物がこじゃんとおいしい。「ここの干物やないといかん」と言うて、長年通ってくれる常連さんもおります。定番の干物は、ふぐみりん干、カマス、うるめなど。干物はご飯にもお酒にもよう合うし、ふぐは洋酒との相性も良い。子どもから大人まで、喜んで食べてくれます。

干物は焼き過ぎんように、頃合いを見ながら加減を見るのがコツ。昔は七輪で焼きよったけど、最近はもっぱら魚焼き器やね。少し温まったかなという程度に焼けたらOKで、魚のお腹あたりを触って、じんわり温かくなった頃が食べごろ。薄い干物は、ちょっと目を離したらすぐに焦げるき、「温める程度」というぐらいで、ちょうどやね。

創業は、南海地震が起こった1949年(昭和24年)頃。戦後と震災の混乱の中で、母と祖母が何とか始めた店です。海産物を選んだのは、当時は冷蔵設備がなく、日持ちを考えてのこと。その頃は市場も店の近くにあって、「子育てしながら、女でもやっていける」と踏んだみたい。最初のうちは自転車に乗って販売に行ったりしよったけど、周辺に少しずつ店ができて、復興の中で街になっていった。それからは高度経済成長の流れもあって、この街もよう賑わいました。私が小学生の頃は、家に帰ってきても、店に人がいっぱいで、なかなか家に入れんかったぐらい。年末年始の賑わいもすごかった。

そんな忙しい店を手伝うのは楽しかったねえ。私は20代から店を手伝い始めて、40代後半ぐらいから仕入れも任されるようになった。母の背中を見ながら仕事を覚えました。昔は今よりたくさんの商品が市場にあって、市場の人も選び方やコツを、上手に教えてくれた。例えば、うるめはお腹がひしゃげた感じで、線が入ったものを。じゃこは、触ってみて、さらっと乾燥したものを・・・。そうやって毎日商品に触れるうちに、自然と見極める目が養われていったと思います。

今は、市場に仕入れに行くのは週2回。市場に行く日は朝4時に起きて、5時半には市場に到着。仕入れを終えて、7時過ぎに家に戻って朝食を食べます。朝はパンにコーヒー、それから夫の健康を考えて7種類の野菜(湯がいたキャベツ、人参、玉ねぎ、レタス、オカワカメ、バジル、大葉)、果物が定番。食事が済んだら表の店を開けて、18時まで店にいます。お昼はうどんや素麺、炒飯など簡単にできるものを。夕食は、同居の妹が作ってくれて19時頃に食べます。

昔は座ってお昼を食べる時間なんてないぐらい忙しかったけど、今はだいぶ余裕があるね。魚の量も減りゆうと言われるけど、確かに昔と比べると、市場に並ぶ海産物も変わったと思う。食の嗜好も買い物の仕方も、時代とともに変化して、今は個人商店で生活を立てるのがなかなか難しい時代やね。それでも「おいしそう」と思って仕入れたものを、お客さんが喜んでくれたら嬉しいし、「(店を)やめんといてよ」と言うてくれる。断捨離もそろそろせないかんと思いながら、できるうちは続けようと思うてます。

店の看板メニューの一つである、ふぐみりん干。「この店のじゃないと」と長年にわたって通い続ける客も。干物加工は、母の代から、高知の漁師町・宇佐の会社に依頼している。ふっくらした身に、秘伝のタレが香ばしい絶妙な味わい。

店のある「魚の棚商店街」は、寛政年間(1661〜1673)、土佐藩三代藩主・山内忠豊より開設を許され、以来300年以上にわたって生き続けて来た小さな商店街。狭い路地に向かい合って、魚屋、総菜屋、海産物店など、庶民的な店が肩を寄せあうように立ち並ぶ。



毎日続けているもの「ふぐみりん干」

◎岡本海産物店
高知県高知市はりまや町1-9-3
☎088-882-5371
9:00〜18:00
火曜、日曜休
とさでん交通後免線デンテツターミナルビル前駅より徒歩2分

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。