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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

生涯現役シリーズ #18

85歳。「一気飲みはもってのほか。それから、酒に金を使いすぎたらあかん」

三重・伊勢「一月家」森田 進

Jul 07, 2022

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Masashi Mitsui

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


森田進(もりた・すすむ)
御歳85歳 1933年(昭和8年)12月12日生まれ
「一月家」

三重県生まれ。学校卒業後、サラリーマンを経て26歳での結婚と同時に「一月家」に入る。店に入って58年間、1日も休まず皆勤。大の車好きで、ベンツやレクサスを乗りこなす。少し前まで休日には妻と二人、京都にドライブに行くのがお決まりだったが、最近は近所の焼肉屋が多い。23歳から始めた株も趣味の一つ。

(写真)「一月家」三代目の森田進さん。カウンターのお客さんと会話しながらも、店の奥までくまなく目を行き渡らせる。


酒場は、ほっと安心できる雰囲気が大事

うちのお客さんが言う「おいしかった」には二通りあるんです。「味がおいしかった」と「話がおいしかった」。一見さんも常連さんも、有名な方も、うちの暖簾をくぐってもろうたら、みーんな平等。だから遠くからいらした人も、安心してくつろいで、私ら店の者やお客さんらと何かしら会話して帰って行かれます。「やあやあ」と言い合える友ができるのがうちの店やね。こういう酒場は、ほっと安心できる雰囲気が大事やと思うてます。

酒の飲み方をまだわかってないような若い人が来ると、説教することも多いですよ。まず、一気飲みはもってのほか。それから酒に金を使いすぎたらあかん。一回お開きにした後にまた飲む二次会というのも金の無駄使いやと思う。毎日来る人にも、「1週間に1回にしとけ」と言うたりもします。ほかにも酒を飲んだお客が帰り道に事故でもあったら大変やから、「飲酒運転は絶対あかんぞ」「飲み過ぎてトラブルを起こすなよ」とか口を酸っぱくして言うてきたからか、三重県警から表彰されたこともあります。ルール違反があったら、うちは出入り禁止。そうやってうるさく説教するから、次の日に親がお礼を言いに来たりしますよ。

「息子に怒ってくれて、大将すまんなあ。ありがとう」って。そんな積み重ねで信用してもろうて、親子四代にわたって来てくれる常連もいます。

店には26歳の時、婿養子で入りました。それまではサラリーマン。会社員時代は野球部の監督もしてましたよ。店に入ってから58年経つけど、これまで無病で一日も休んだことがありません。

健康管理で気をつけているのは、野菜と魚を中心に摂ること。老人は、こけて骨折するのが命取りやから、足腰の骨を丈夫にしとかなあかん。だから魚は丸ごと、骨まで食べます。素朴で味のある粗食が健康の秘訣かもしれん。その代わり、週1日の休みには、外で焼き肉をたっぷり食べます。

酒場をやってて何やけど、人間はやっぱり、酒の節制が必要やと思う。酒は百薬の長とはよう言うたもので、あくまで適量やないとあかん。そう言う私も75歳までは毎日ようけ飲んでましたんや。でも夜に酒を飲むと、あくる日の仕事に差し支えるようになって、一切やめた。酒を飲まない分、寝つきは悪くなったけど、体はだいぶ楽になったから、やめて良かったです。

毎日、女房とカウンターに立って注文を取ったりお客さんの相手をします。四代目の息子は、厨房とカウンターを行き来しながら店を仕切ってる。営業が始まったら、ここは戦場です。カウンターの中は、その司令塔みたいなもん。だからお客さんと話をしながらも、全員にきちんと行き届いているか、広い目で店中を見渡してます。料理がちゃんと注文順にいっているかも大事なこと。先に注文した人より、後から注文した人の方に早く料理が来るのは絶対あかん。客商売は、そういうちょっとしたことがすごく大事やから。

そやけど、今はあくまで息子の代。私は一切口出ししません。家族で商売をやるにはそういう線引きが大事。家庭円満は商売円満に直結しますから。私もまだ80代です。まだまだこれから、輝く100歳までやりますよ。

伊勢名物の鮫の干物「さめたれ」も人気の品。サメの干物は、伊勢神宮の神饌(神社に供える供物)としても伝えられている。店はもともと料理旅館だった建物を23年前に5千万円近く投じて改装した。開店と同時にほぼ満席になる人気ぶりだ。



毎日続けているもの 「さめたれ( サメの干物)」

◎一月家
三重県伊勢市曽祢2-4-4
☎0596-24-3446
14:00~21:00
水曜休
近鉄山田線宮町駅より徒歩7分

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2019年2月号掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです

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