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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

小方真弓さん(おがた・まゆみ)カカオハンター

第2話「言葉より技術で交流する」(全5話)

2023.02.13

言葉より技術で交流する
Photograph by Masahiro Goda

「独立して、やっていけるのだろうか?」
個人事務所を立ち上げた時は、きっと小方さんも不安だったに違いありません。
そもそも、彼女のような存在はいませんでしたから、はたして職業として成立するのか、本人も周囲も半信半疑だったのではないでしょうか?

ところが、私たちが取材した頃、すでにいくつかの会社とコンサルティング契約を結んでいて、「場合によっては、お断りせざるを得ない」状態でした。
その状態までたどり着いた要因が、先の3項目にあることは疑いようがありません。

連載:カカオハンター 小方真弓


※本記事は過去に掲載した記事の再公開です。

1.「カカオプランナー」という肩書きは、カカオ圏に疎いチョコレート圏の人々から頼りにされました。
2.自費で欧州6カ国のチョコレート市場のレポートを作成して、消費動向を把握していることを示しました。
3.自費でカカオ栽培国の視察を重ねて、現地に人脈を築いてました。

自分に何ができるのかを、先んじて示したということです。
「バレンタイン商戦の時期には、チョコレートを自費で20万円以上は購入し、テイスティングコメントのみならず、ネーミング、パッケージ、売り方などをまとめた資料を作成しました。どこかが使ってくれる当てなどなかったのですが」と、小方さん。
仕事が来てから取り組むのでは遅いのです。


時流が背中を押した

折しも、世界的なチョコレートブームというタイミングでした。

・シングルオリジンチョコレート(産地別カカオチョコ)がブームに
・日本における「サロン・デュ・ショコラ」がスタート
・バレンタイン市場のさらなる拡大

そうです、原材料のカカオがフィーチャーされる動きと空前のチョコレートブームが絡み合う形で訪れたのですね。

新たにチョコレート市場に参入しようというメーカーや、カカオに特化したチョコレート商品を開発しようというメーカー、カカオの独自輸入を目論むメーカーなどが、小方さんを頼ることになりました。
カカオ生産者と日本のメーカーを結ぶ役割です。小方さんの力を借りれば、カカオ豆の入手からチョコレートとしての商品化まで、一貫してアドバイスを受けることができるのですから、百人力です。
この時期、小方さんはいくつかのチョコレートブランドの立ち上げに携わっています。

さらに、小方さんは、コロンビア、ペルー、パプアニューギニア、インドネシアといったカカオ生産国でのチョコレート開発指導、カカオ品質改良指導に携わるようになりました。NGOやアジア開発銀行のチョコレートプロジェクトにも参画。

カカオ圏とチョコレート圏、両方にまたがるという彼女独自の活動スタイルが、国境を超えて必要とされていったのです。

2011年・ペルー。技術と市場のコンサルを行った。

2011年・ペルー。技術と市場のコンサルを行った。

カカオ産地で仕事をする

チョコレート圏での仕事はみなさんもなんとなく想像がつくと思いますが、カカオ圏での仕事がどのように形作られていったかは、皆目見当がつかないですよね。

そこで、小方さんに質問。
小方さん自身の言葉でお答えいただきます。

Q: カカオ産地へは、どのような伝手で訪問されてきたのでしょうか?
A: 主として4つのアプローチがあります。

1) ネットや人づてに情報を入手し、独自にコンタクトを取って訪問
2) NGOからカカオおよびチョコレート開発の依頼を受けて
3) カカオアミーゴス(カカオ栽培従事者たち)のネットワークで
4) Cacao de Colombia(コロンビアカカオの輸出企業)にコロンビア外から技術コンサルティング依頼が入った時(これはコロンビア在住の現在)

は消費市場(チョコレート圏)への情報提供を目的として訪問する場合。2~4は栽培地(カカオ圏)での開発・市場開拓を目的として訪問する場合。

Q: カカオ産地では、どのように交流されてきたのでしょうか?
A: 必要とされるのは、言葉より技術です。

独立した時から、必要とされるであろう言語(英語、フランス語、スペイン語)の勉強を始めました。でも、言葉以上に、技術が身に付いていなければ、交流はできません。
商品開発(カカオ豆およびチョコレート)であれば、現状を分析して改善するための技術。市場開拓であれば、市場のポテンシャルを見分け、その市場における商品価値を見出し、育てる技術です。
技術は、どの国に行っても「信頼の証」です。

チョコレートのテイスティング技術を磨くことも栽培者たちと交流を図る上で重要と考え、常に行っています。
なぜなら、「味覚」は「音を持たない言葉」だから。
生産者のカカオの味を言葉に託してフィードバックする――そうすることで、たくさんの扉を開くことができるようになります。

もちろん、どの国に行っても交流できる程度の英語、フランス語、スペイン語は毎日勉強しています。さらに、現地語がある場合には、できるだけその言葉を覚えます。その国の歴史・文化を学び、敬意を払うことはマナーです。

カカオの専門書

インターネットで買い求めたカカオの専門書。日本語で書かれた専門書は非常に少ない。苦手だった語学はいまでも勉強を続けていて、英語、フランス語、スペイン語、すべてアルファベットを学ぶところから始めた。


スタンスが変わった

Q: カカオ産地を訪ねる中で、どんな思いが高まってきましたか?
A: 栽培者側から市場を見るようになりました。

消費地と栽培地の格差に涙が溢れたこともあるし、消費地の欲求に底のない“わがまま”を感じたこともあります。そんな複雑な思いを心のどこかで感じていることが、「品質」を拠り所に活動する上でのある種の反発的エネルギーになっていることは否めないと思います。
作り手であり開発者として、「品質」にこだわる「エゴ」なような思いも高まります。カカオのポテンシャルを引き出し、育てる時はまさにそれです。そんないろいろな思いが年々複雑化しています。

カカオ市場にはまだまだたくさんの未知の部分があって、栽培者側からも市場をつくり出していくことができる。それこそが、これからのカカオ市場のあり方だと思っています。

ただ、「カカオ生産地」と言っても、各国によって状況はまったく異なるので、一括りにせず、情報をできるだけフラットな視点で伝える責任も以前より感じています。

Q: どこに自分の役割があると考えますか?
A: カカオの新しい価値を生み出すことです。

市場価値を生産の中(調査・マーケティング含む)で見出すことです。
私の場合は、頭の中でそのカカオ豆で作ったチョコレートの味を先にイメージしながら、カカオ豆の開発をすることもありますし、カカオ豆から、チョコレートへのアプリケーション(どんな技術やレシピで、どんな味のチョコレートに仕上げるか)を膨らませることも可能です。

「原料 ⇔ 製品」の双方を知るがゆえに、栽培地と消費地の両方を見ながら、新しい価値を生み出すことができる。
それこそが、私にできる最大の役割だと思っています。


小方真弓(おがた・まゆみ)
チョコレート原料メーカーにて勤務後、個人事務所「CAFE CACAO」を設立し、カカオハンターとして活動。現在はコロンビアに移住し、カカオ豆の輸出入、チョコレート工場建設、Bean to Bar市場用機械の共同開発等を行いながら、カカオ市場の価値向上に取り組む。

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