小方真弓さん(おがた・まゆみ)カカオハンター
第4話「カカオを身近にするために」(全5話)
2023.02.13
今、チョコレート界での大きな動きが「Bean to Bar」です。
「Bean to Bar」とは、カカオ豆(Bean)の焙煎からチョコレート(chocolate Bar)製造までを手掛ける業態のこと。2010年頃から、アメリカを中心に登場し始めました。
NYの「マスト・ブラザーズ」、サン・フランシスコの「ダンディライオン・チョコレート」、ベルギーの「ブノワ・ニアン」などが有名で、2013年2月には、アラン・デュカスが「Bean to Bar」スタイルのショコラ・ブランドを立ち上げています。
連載:カカオハンター 小方真弓
※本記事は過去に掲載した記事の再公開です。
いずれもガレージや自動車修理工場などを改造して小さな焙煎機やコンチングマシンを置き、カカオ豆の焙煎からタブレットまでを、極小ロットで手掛けます。まるで街のお煎餅屋さんのように、チョコレートを作るのです。
「Bean to Bar」は、「チョコレート=工場製」というイメージを覆しました。
「チョコレートって、自分で作れるんだ!!」という発見を与えてくれました。
(8月6日発売の雑誌『料理通信』2013年9月号で詳しくレポートします)
小方さんは今、コロンビアに拠点を置きながら、「Bean to Bar」市場の活性化にも力を入れています。前回記した小方さんの現在の仕事の中の7~9がそれに当たります。小方さんは早くから「Bean to Bar」の動きに着目していました。
2012年春、料理通信・君島宛に送られてきたメールでは、次のように書いています。
「2010年くらいから、アメリカではBEAN TO BAR市場がとても活発化しています。なかでも、2011年に工場がオープンして、私が特に注目していたブルックリンの『CACAO PRIETO』に行ってまいりました。ここは、BEAN TO BARの中でも、伝統的な機械とオリジナリティのある最新式の機械が混在しているちょっと珍しい会社で、ドミニカ共和国に自社オーガニックカカオ農園を持っているのです。偶然にもCEOにお会いできて、お話ししたら、凄いレベルの技術の結晶でした」
目指すところは同じ
小方さんは、「Bean to Bar」に可能性を感じていたのでしょう。
第1話で、カカオ圏とチョコレート圏は分断されている、と書きましたが、「Bean to Bar」は、その慣習を突き崩し、分断の壁を打ち破る動きに他なりません。
つまり、今、チョコレートの世界には、行動形態は違うけれど、目指すところは小方さんと同じ人たちが続々登場し始めたということです。
小さな自家焙煎チョコレート屋さんがたくさんできたら、カカオがもっと身近になる。
チョコレートをカカオのお菓子として感じてもらえる……。
ちょうど小方さんが活動をいっそう活発化させていくのと同時期に湧き起ったこの動きを、小方さんが応援しないわけがありません。
同時に、チョコレートが好きでチョコレートを生業としたい人にとっても福音である、と小方さんは考えています。
自分のようにカカオ豆の生産にまで関わるのは大変なこと。でも、これから、カカオ豆からチョコレート作りを手掛けることで起業も夢ではないのですから。
カカオ産地と街のチョコが結ばれる
「Bean to Bar」は、日本でも少しずつ登場し始めています。
東京・世田谷の「エミリーズチョコレート奥沢」、東京・中目黒「ハニー珈琲15351」(現在は「PARKINGCOFFEExCACAOWORKS」としてリニューアル)、金沢「キャラバンサライ」、等々。 これらの何軒かは、小方さんからカカオ豆を仕入れており、小方さんが何かれとなく相談に乗っています。
小方さんのように、コロンビアに移住したり、赤道直下の山々に希少品種を探しに行ったりは、そうそう誰でもできることではありません。でも、チョコレートが好きで、なんらかの形でチョコレートの仕事がしたいと思っている人にとって、「Bean to Bar」は、頑張れば叶わぬ夢ではないのです。
そうです、小方さんのミッションは、カカオ産地と日本を結ぶ形で、少しずつ形を取り始めているのです。
小方真弓(おがた・まゆみ)
チョコレート原料メーカーにて勤務後、個人事務所「CAFE CACAO」を設立し、カカオハンターとして活動。現在はコロンビアに移住し、カカオ豆の輸出入、チョコレート工場建設、Bean to Bar市場用機械の共同開発等を行いながら、カカオ市場の価値向上に取り組む。