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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

奥村文絵さん(おくむら・ふみえ)フードディレクター

第2話「経験が仕事を作る」(全5話)

2016.07.01

食の仕事ではあるけれど…

奥村さんは、高校時代から、1席限定のシェフズテーブルを自室に設け、友人をもてなしていたほどの料理好き。役者を目指し、劇団に所属している時も、役者仲間やスタッフのために早朝から重箱弁当を仕込んで現場に持参していたそうです。

しかし、初めから現在のような仕事を目指していたわけではありませんでした。

役者の道を諦め、大学卒業後は、デザイン関係の会社に勤めながら、フードコーディネータースクールで学んだあと、結婚を機に福岡へ引っ越し、アシスタントを経て独立します。

「当時は広告の仕事が中心でした。決められた企画に沿って、パッケージや料理をスタイリングして撮影する。いわば川下の仕事でした。この写真と全く同じ写真を撮ってくれという依頼もよくありました。





Photograph by Masahiro Goda




その時にふと、『これが本当に私のやりたい仕事なのかな』と」。

豊かさの多様性を知る





そんな中、奥村さんの食に対する向き合い方に、大きな気付きを与えたのは、福岡で出会った人々の暮らしぶりでした。

「友人の家に遊びに行くと、前日に土手で摘んだヨモギでヨモギ餅を作ってくれたり、庭で採れたトマトをさっと出してくれたりするんです。一方で自分は、フードコーディネーターという肩書きで食の仕事をしていながら、ヨモギの葉がどんなところに生えているかも、どれほど香りが強いかも知らなかった。薄っぺらいなと、恥ずかしくなりました」。

同時に、今まで知らなかった幸せの在り方、豊かさを教えられたと言います。

お金や情報に左右されず、巡る季節の恩恵を受けながら、日々を愛しむように生きていく幸せ。そんな彼らの生き方を、美しい、カッコいいと感じたそうです。

「東京も、一つの地方だと気付かされました。日本各地には、まだまだいろんな豊かさや幸せの在り方がある。もっと多様な価値観に触れてみたいと」。
Photograph by Masahiro Goda
奥村さんの事務所「Foodelco」ではお昼ごはんを自分達でつくって食べる。台所にはポットや食洗機などの電化製品がなく、土鍋でご飯を炊く。基本は玄米。仕事でお世話になっている生産者からの頂き物もみんなでいただく。




食の“根っこ”を考える





この頃から、時間を見つけては畑に出向いたり、子供たちに木の実の取り方を教えてもらったり。奥村さんの興味が、“根っこ”に向かい始めます。

02年には、イチからやり直そうと、再び東京へ。福岡の事務所は引き払い、離婚もしていました。月に一度、農家で手伝いをする傍ら、キャリアスクールの講師を務めることに。

一方で、肩書きもないままフリーランスの活動も始ました。食品メーカーのブランディングサイトの制作や、地域の特産品の企画開発など、これまでとは違うタイプの仕事を獲得。食の“根っこ”まで掘り下げて表現するその仕事ぶりが評価され、徐々に依頼内容にも広がりが見えていきました。

教わりながら、越えて行く





07年に携わった、「彦太郎糯」復活プロジェクトでは、販売先の開拓を任されました。素材はあったし、餅にする加工技術もあった。しかしどこで、どう売ればよいか、アイデアとノウハウがなかったのです。

そこで奥村さんは、バイヤー、料理研究家、マスコミなど食のプロを招き、遊佐町のお米を使ったイタリアンの会を都内で催すことにしました。ミシュラン一ツ星のシェフに依頼し、前菜からデザートまで、すべてにお米を使ったコースを用意。
「まずは、お米の可能性を知ってもらおうと」。
その会がきっかけで、都内の百貨店での取り扱いが決定。その店の客をターゲットにした、餅の大きさや個数、パッケージのデザインなどが決まっていったのです。

さらに、09年の穂坂町の地域食ブランド化事業では、ジャムの味のブラッシュアップにも着手しました。卸しだけでなく、少量でも、自分たちの育てた果物に付加価値をつけて販売したい。そんな思いで果樹農家のお母さんたちが、20年以上作り続けてきたジャムは、長時間煮込むために、せっかくの果実のおいしさが十分に生かされていませんでした。
そこで、地元のフレンチレストランのシェフにレシピ監修を依頼。摘みたてのみずみずしい色と味わいを生かしたジャムに生まれ変わりました。

「クライアントが変われば、組織の規模も、抱えている課題も違います。何をやるか、どう進めるかは、その都度、試行錯誤。クライアントに様々なことを教わりながら、越えていく、その連続のような気がします」。

先人のいない「フードディレクター」という職業は、経験を重ねる中で、奥村さん自ら肉付けし、育ててきたものなのです。


奥村文絵(おくむら・ふみえ)
フードディレクター。2008年にfoodelcoを設立し、食をテーマに企業のブランディングや展覧会の企画など多岐にわたって活動。2015年には拠点を京都に移し、ギャラリーの運営なども手掛ける。著書に『地域の「おいしい」をつくるフードディレクションという仕事』(青幻舎)。





























































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