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PEOPLE / 生産者・伴走者

「在来種」であることの意味を問う

在来家畜 生産者・高田 勝さん

2017.03.28




photograph by Masahiro Goda
『料理通信』2012年2月号掲載



市場に出回るアグー豚肉は、西洋種との交配によるハイブリッドがほとんどだ。
が、高田勝(たかだ・まさる)さんの扱う「今帰仁(なきじん)アグー」は正真正銘、在来種の島豚である。
島豚とは、沖縄で古くから飼育されてきた、アジアを起源とする豚のこと。黒毛で顔が長く、耳はたれ、凹背で腹が下垂。体質強健で粗放飼育に耐える能力があり、主に行事食に使われてきた。




「背骨の数が違うんですよ」と高田さん。
「島豚種がイノシシと同じ19本なのに対して西洋種は22〜23本。西洋種のほうが多いんです」

この事実が意味するところは何か?

「背骨の数が多い、イコール胴が長いということ。ロースが長く取れて、ヒレも長く、バラ肉も長く取れる」つまり、西洋種は経済効率の観点から改良された肉であることが歴然なわけだ。

「今帰仁アグー」は、背骨の数が少ない分、身体が小さい。加えて、脂肪が厚い。
食肉として見れば、歩留まりが悪い。
「と考えるのは、現代的価値観ですね。かつては脂がご馳走だったのです。その昔、沖縄では風邪をひきやすくなる頃に悪疫祓いを行いました。その際に豚をつぶして、神に供え、みんなで食べた。神人共食ですね。季節の変わり目や重労働の時期のエネルギーや予防薬として、脂肪は効率よく効果的だったのです」




在来種が生きる道





高田さんは元々研究者である。東大卒業後、進化生物学研究所へ入るが、1年ほどで退所。沖縄へ移住して、生産者になった。
植物をはじめ、在来の牛、豚、山羊、鶏の飼育を手掛けるものの、経済性を伴わなければ在来種を残せないことから、市場性が見込める牛や豚のブランド化を試みるように。
「今帰仁アグー」はその旗頭だ。

研究者として、在来種の保存自体に社会的意義があることも訴えてきた。
「ジャガイモ飢饉の話はご存じですか?19世紀のアイルランドで、食糧のジャガイモが疫病で枯死したことにより、約10年で150万人ほど亡くなったと言われています。
人間の頼る栽培品種が偏ったからですね。種の多様性があれば、そういった事態は防げる。
イギリスには種を守ってゆくシード・ガーディアンズという組織もあります。種本来の性質を残す在来種や原種を守ることには意味があるのです。しかし、彼らを養うにはお金がかかるのも事実」

食べ手の存在によって、在来種の保存ができる――高田さんが生産者であろうとするのはそのためなのだ。




根っからのいきもの好き









生まれは東京都品川区、父も祖父も姉も新聞社勤務という家に生まれながら、なぜか幼少の頃からいきものが好きだった。
「家の近くにカラタチ並木があって、アゲハの幼虫を採るのが日課でした。幼稚園の頃はいつもポケットから青虫が溢れていた。でも、本当は大きな動物がほしくて、牛や馬を飼いたいと言っては、親に呆れられていました。牛、馬はさすがに無理なので、40年ほど前、親の許可なく百貨店のペットショップで鶏を買ったんです。つがいで3千円。烏骨鶏という品種らしいがどんな鶏だろうと百科事典で調べて、こりゃ大変な鶏を手に入れてしまったと(笑)」

以来、鶏の品評会に顔を出しては、マニアな大人たちから鶏の見方の指導を受ける。
東大では育種と野生動物の研究の傍ら、鶏の鑑識眼を買われて、教授の鞄持ちとしてアジア各地へ赴いた視察が数知れない。

研究者であり生産者という豊富な知識と幅広い知見を周りが放っておかず、2009年からは、動物園とミュージアムの一体型施設「沖縄こどもの国」に呼ばれ、現在は施設長も務める。
「種子島、屋久島、宮古島、八重山諸島まで多数の島から成る琉球弧は、在来動物が残るエリア。在来種の展示ゾーンを立ち上げるプランを進めているところです」と、在来種保存に「食材」と「展示」の両面から取り組む。

力を入れようとしているのが「口之島牛」。約百年前に山へ逃げてそのまま野生化した牛で、口之島を含め百頭もいない在来種だという。この野生化した牛を元の家畜にし、種の保存を図ろうと計画中だ。
「身体が小さくて頭が大きい。歩留まりが悪くて、市場には喜ばれないですね(笑)」

芦屋の肉加工職人「メツゲライクスダ」の楠田裕彦さんに試しに食べてもらったところ、「赤身が多く、筋繊維が強いので発酵させる加工品を作ると化けるかもしれない」と言われたそうだ。
「あと、闘牛です。沖縄には闘牛の伝統が残っていて、組合もあるんです。組合に、ミニマム級という階級を作って、口之島牛が活躍できる場を設けてほしいと掛け合っているところです」。

在来種の生きる道を求めて、高田さんは今日も忙しい。

◎有限会社今帰仁アグー
☎ 0980-56-3543
































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