看板料理「シチリア風イワシのフライ」。おいしさの秘密は〆鯖にあり。
ブルーフード・レシピ
2023.06.01
text by Izumi Shibata / photographs by Masahiro Goda
連載:ブルーフード・レシピ
海に囲まれ、豊かな漁場を有する日本には魚食文化が根付いています。魚を食べるなかで培われ、受け継がれてきた知恵や知識を継承し、上手に食べることは、多様性豊かな海の保全につながります。日本周辺でとれる水産物(ブルーフード*)の魅力を再発見するレシピを人気店のシェフに教わります。まずは、漁獲量1位、マイワシ**のレシピからスタートです。
*ブルーフードとは、淡水・海洋環境に由来する植物、動物、藻類など水生生物性食品のこと。食料危機や気候変動などの課題に対応し、健康的で持続可能な食料システム構築への貢献が期待されている。
**日本の漁獲量ランキング(農林水産省:令和3年漁業・養殖業生産統計)
1位マイワシ(21.1%)、2位サバ類(13.7%)、3位ホタテガイ(殻付き)(11.0%)、4位カツオ(7.6%)、5位スケトウダラ(5.4%)、6位カタクチイワシ(3.7%)、7位ブリ類(2.9%)、8位マアジ(2.8%)、9位マダラ(1.8%)、10位サケ類(1.8%)。
教えてくれたシェフ
神奈川・本厚木「フィーコディンディア」横井拓広さん
シチリア郷土料理店「フィーコディンディア」オーナーシェフ。1970年神奈川県生まれ。調理師学校、製菓学校を卒業後、パティシエとして7年間経験を積んだ後、27歳で料理の世界へ。伊・シチリアや「トラットリア・ダ・トンマズィーノ」などで修業後、2009年地元の厚木市に現店開店。シチリアの郷土料理と空気感を伝える店として人気を集める。
イワシを芯まで酢締めしてから揚げる
シチリアの郷土料理を揃え、店全体でも同地の雰囲気を伝える「フィーコディンディア」。連日にぎわう同店にて「ほとんどのテーブルでご注文いただきます」と横井拓広シェフが話すのが、シチリア風イワシのフライだ。
見た目は、おなじみのイワシフライ。しかし一口食べると、イワシの芯まで甘酢味が染み、それによりイワシ自体の旨味と風味がより力強く感じられることに驚く。ふっくらとやわらかい身に、薄いながら存在感のある衣が貼り付いた食感も心地よい。
元になった料理は、シチリア西部、トラーパニ周辺の郷土料理だ。「現地では酢だけで締めて揚げています」。それを日本人にもなじみ深い甘酢味にしたのが、フィーコディンディア版。砂糖、塩、酢に順に漬ける和食の〆鯖の手法を参考に、「甘」と「酢」それぞれを強く感じる仕立てとした。また、酢にはフェンネルを効かせ、より豊か、そして爽やかな風味を作り上げる。
揚げる際は「強火で手早く」が鉄則。「衣をカリッと仕上げることにフォーカスし、高温の油に投入。ただし中まで熱が入りきる前に油から上げ、あとは余熱で加熱。イワシの身がふんわりと仕上がります」
「イワシの旨味」、「甘酢味」、「香ばしい衣」が一体化したフライ。もちろんワインも進む。なるほどこれは看板メニューになるだろうと、心から納得する一品だ。
「シチリア風イワシのフライ」材料と作り方
[材料](1皿分)
イワシ・・・2尾
粉糖・・・適量
塩・・・イワシ重量の約0.5%
香り酢*・・・適量
強力粉、バッター液**、ドライパン粉***、サラダ油・・・各適量
*香り酢(作りやすい分量)・・・タマネギ1個、ニンジン1/4本、ニンジンと同量のセロリをスライスし、白ワインビネガー2L、潰したニンニク2片、フェンネルシード100g、赤唐辛子2本、白コショウ10粒と共に鍋に入れて沸かし、蓋をして弱火で30分煮る。火を止め、冷めたら漉して冷蔵庫で保管する。
**バッター液・・・全卵1 個、水100g、強力粉100gを滑らかになるまで混ぜる。
***ドライパン粉・・・同量のセモリナ粉と強力粉をブレンドして作る自家製のシチリアパンをちぎり、オーブンで乾燥させ、細挽きにしたもの。
[作り方]
[1]イワシは手早く、手開きに
頭を切り落とし、内臓を抜いたイワシを手開きにする。この後、腹骨を包丁で削いで切り取る。
[2]たっぷりの粉糖で40分〆る
ラップに粉糖をふってイワシを並べ、上にも粉糖をふる。一層ごとにラップを挟み、繰り返す。40分置く。
POINT:水分を抜いて甘味を入れる
[3] 滲み出た水分を拭く
渗み出した水気を拭く。水分が抜け、身に透明感が出る。イワシの身にはしっかり甘味が入っている。
[4] 狙う味の半量の塩をふり、40分おく
2と同様にラップを敷きながら塩をふる。揚げ上がりでも塩をふるので、ここでの塩は下味程度。
[5]イワシの芯まで酢を染み込ませる
香り酢に浸す。3時間以上かけ、身が完全に白くなるまでしっかり酢を吸わせる。一晩おいてもよい。
POINT:この工程で甘酢味になる
[6]衣を密着させる
イワシに強力粉、バッター液、パン粉の順に絡める。バッター液は余分をよく落とし、薄付けにする。
[7] 高温の油に投入
200℃強に熱した油に入れる。一気に衣を加熱し、カリッと、香ばしい状態に持っていく。
[8]表面全体を手早く、香ばしく
途中で一度、表裏を返し、浮いてくるイワシをトングで油に沈めながら揚げる。1分かからず、香ばしく揚げ上がる。
[9]身は余熱で、ふっくらと仕上げる
ザルに立てて1分ほど置き、余熱で身に火を入れる。皿に盛り、塩をふる。
◎フィーコディンディア
神奈川県厚木市旭町1-24-16
☎046-265-0297
11:30~14:00LO
17:30~21:00LO
月曜休
小田急線本厚木駅より徒歩2分
https://ficodindia.owst.jp/
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2019年11月号掲載)
海洋資源を保護し、持続的に利用する
今日からできる気候変動へのアクション
国連広報センターが「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディア有志とともに、気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーン「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を実施しています。料理通信はこのキャンペーンに参加し、食にかかわる気候変動への取り組みを国内外から紹介しています。
海洋生態系による「ブルーカーボン」が温室効果ガス排出対策として期待されています。海の資源を守り、大切に使うことは気候変動対策につながることから、6月は、海洋保全について考え、アクションを起こすきっかけになる記事をお届けします。
●ActNow! 今すぐできる『10の行動』
「ActNow」は、個人レベルでの気候アクションをグローバルに呼びかける国連のキャンペーン。どんなことが気候変動の抑制に役立つのか、身近な行動を10項目挙げています。「環境に配慮した製品を選ぶ」では地産地消が、「廃棄食品を減らす」では食品を廃棄せず使い切ることが気候変動の防止に役立つとされています。
環境に配慮した製品を選ぶ
私たちが購入するあらゆるものが地球に影響を及ぼします。あなたには、どのような商品やサービスを支持するかを選択する力があります。自身が環境に及ぼす影響を軽減するために、地元の食品や旬の食材を購入し、責任を持って資源を使ったり、温室効果ガス排出や廃棄物の削減に力を入れていたりしている企業の製品を選びましょう。
廃棄食品を減らす
食料を廃棄すると、食料の生産、加工、梱包、輸送のために使った資源やエネルギーも無駄になります。また、埋め立て地で食品が腐敗すると、強力な温室効果ガスの一種であるメタンガスが発生します。購入した食品は使い切り、食べ残しはすべて堆肥にしましょう。
(国連・ActNowキャンペーン:気候変動の抑制に対して個人でできる『10の行動』より)
イラスト:Niccolo Canova
掲載号はこちら
関連リンク