魚焼きグリルで炭火焼きを再現! 頭から内臓まで旨い「イワシの塩焼き」
ブルーフード・レシピ:「柾(まさき)」真崎庸さん
2025.06.12

text by Kyoko Kita / photographs by Masahiro Goda
連載:ブルーフード・レシピ
海に囲まれ、豊かな漁場を有する日本には魚食文化が根付いています。魚を食べるなかで培われ、受け継がれてきた知恵や知識を継承し、上手に食べることは、多様性豊かな海の保全につながります。日本周辺でとれる水産物(ブルーフード*)の魅力を再発見するレシピを人気店のシェフに教わります。今回は、シンプルながら奥の深い「イワシの塩焼き」です。魚焼きグリルでお店の炭火焼きのおいしさを再現します。
*ブルーフードとは、淡水・海洋環境に由来する植物、動物、藻類など水生生物性食品のこと。食料危機や気候変動などの課題に対応し、健康的で持続可能な食料システム構築への貢献が期待されている。
**日本の海面漁業の漁獲量ランキング(漁獲量/前年比)【農林水産省:令和5年漁業・養殖業生産統計】
全体(282万3,400t/-4.3%):1位マイワシ(68万900t/+6.1%)、2位ホタテガイ(33万600t/-2.8%)、3位サバ類(26万1,100t/-18.3%)、4位カツオ(15万2,600t/-20.0%)、5位スケトウダラ(12万2,900t/-23.4%)、6位カタクチイワシ(11万4,000t/-7.3%)、7位マアジ(9万2,000t/-7.0%)、8位ブリ類(8万1,000t/-12.9%)、9位サケ類(6万t/-31.8%)、10位マダラ(5万4,000t/-6.9%)
目次
教えてくれた人:東京・新井薬師「柾(まさき)」真崎庸さん

1970年東京生まれ。大学時代に自然地理学を学ぶ。好きな酒と魚で身を立てようと都内の日本料理店で6年修業し、2003年独立。週に4回ほど東京湾、相模湾へ釣りに行き、店の仕入のほぼ全てを釣りで賄う。
頭と内臓を焼き切る
魚焼きグリルを使うのは人生初という「柾」の主人、真崎庸さん。店で焼く時はもっぱら炭火。「熱源が下だから皮も下にして焼く。すると自然に身の脂が皮に滲んでパリッと焼けるんです」。また、炭から離して魚を置くことで柔らかく均一に熱を当てることもできる。曰く塩焼きとは「皮を焼く料理」。「いかにムラなく黄金色に焼けるかが勝負です」。
一方、魚焼きグリルは、火が近いため焦げやすい。「焦げ目はついているけど、ちゃんと焼けていない塩焼きが多い」。そう、混同しがちだが、焦げ目と焼き目は違うのだ。「逆に言うと、熱の当たりを弱くして脂を上手に滲ませることがきれば、魚焼きグリルでも炭火と同じように焼けるはずです」。かくして真崎さんとグリルとの、そして魚との、がっぷり四つの真剣勝負が始まった。
下準備は主に2つ。まず酒を振る。酒に含まれる糖分がメイラード反応で美しい焼き色をつけるのだ。そして味つけの塩をする。均一に振れるよう焼き塩がおすすめ。「直前で構いません。弱火で長く焼くので、身に水分を留めておきたい。焼くことで脱水され、味が濃くなり臭みも抜けます」。
いよいよ焼きに入る。2尾くらい一度に焼けそうだが、あくまでベストボジションの中心で1尾ずつ。焦げやすい頭と尻尾にアルミホイルを被せた上で、全身もアルミホイルで覆い強火で焼いていく(下は弱火)。色づきが足りない部分は金串で刺して脂を滲ませ、全身にむらなく焼き色をつける。
かくして焼き上がった黄金の塩焼き。「イワシは内臓と頭を食べる魚」という言葉の意味は、食べて納得した。完全に焼き切った頭はサクッと軽く、肝は仄かな苦味に上品な香りで臭みとは無縁。極薄のパイ生地のような皮にしっとりした身が包まれ、ポリポリとした骨の歯触りがまた小気味よい。かぶりついた頭から尻尾の先まで味と食感の変化が楽しく、皿には骨一本残らない。「焼く意味を感じますよね」と真崎さんも目を細めた。
頂点のおいしさを目指し、「あ~焦げそう! でももう少し焼きたい!」と悶えながら細やかなアルミホイル使いを見せる真崎さん。美しい焼き目への執念。この魚のここを食べさせたいという、愛。それこそが平凡な塩焼きを店の逸品へと昇華させるのだ。
「柾」式 塩焼きの極意
1.酒を振って焼く(酒の糖分で焼き色がつきやすくなる)
2.塩を振るのは直前でいい(先に塩味を決める)
3.なるべく煙を出さずに焼く(一度にたくさん焼かない)
4.弱火で均等に焼き色をつける(お餅を焼くイメージで)
「イワシの塩焼き」材料と作り方
[材料](1人分)
イワシ・・・1尾
酒・・・適量
焼き塩・・・適量
[作り方]
[1]エラを取る
![[1]エラを取る](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_03.jpg)
頭ごと食べられるようエラを指で外す。鱗が残っている場合は取り除く。
[2]酒を振る
![[2]酒を振る](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_04.jpg)
酒を全体に振る。
[3]塩を振る
![[3]塩を振る](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_05.jpg)
焼き塩をまんべんなく振る。
[4]頭と尾をアルミホイルで覆う
![[4]頭と尾をアルミホイルで覆う](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_06.jpg)
焦げやすい頭と尾をアルミホイルで覆って、温めたグリルの中央に置く。
[5]アルミホイルを被せて焼く
![[5]アルミホイルを被せて焼く](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_07.jpg)
アルミホイルをふわっと被せて上は強火、下火は弱火で焼く。【POINT】グリルの左右で火の強さが違う場合、途中で向きを変えて均等に焼き色がつくように。
[6]頭のアルミホイルを外す
![[6]頭のアルミホイルを外す](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_08.jpg)
13分経過。頭のアルミを外して、全身をアルイミホイルで覆い、強火で焼く。【POINT】内臓が焼けて落ちた水分がジクジクいう音が聞こえる。
[8]焼きが足りない部分を金串で刺す
![[8]焼きが足りない部分を金串で刺す](https://r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/06/bluefood_recipe_13_masaki_09.jpg)
焼きが足りない部分を金串で刺して脂を滲ませる。最後はアルミを外して弱火で仕上げ焼きする。

イワシという魚の、塩焼きという料理の神髄に迫る食べ応え。焼き切ることで、全ての部位が最大限の価値を発揮する。
東京・新井薬師「柾」の店舗情報
◎柾(まさき)
東京都中野区上高田3-20-10 マンション宍戸1F
☎090-6191-3244
19:00~22:30(完全予約制)
月曜、木曜休
西武新宿線新井薬師前駅より徒歩2分
(雑誌『料理通信』2019年4月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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