HOME 〉

RECIPE

DIYレシピ10

気軽に小さな自家製のススメ 「自家製マスタード」

料理家 長尾智子さん

2022.08.01

cooking & text by Tomoko Nagao / photographs by Masahiro Goda

連載:DIYレシピ

塩蔵、乾燥、発酵・・・調理メソッド&テクニックを身に着けて、普段買っている食べ物を一から作ってみると、自分で味を作る喜びや安心感を得られます。天日に干したり、発酵させたり、自然の力にゆだねるレシピは、人間本位ではない生き方を学ぶ処方箋。シンプルな材料と道具で作れる自家製アイテムをシェフに教わります。

教わるテクニック:熟成
教えてくれた人:料理家 長尾智子さん

料理家、フードコーディネーター。単行本の出版や雑誌の連載などの執筆、商品開発、メニュー提案を手掛ける傍ら、オリジナルの器を中心に、食卓を提案するサイト「SOUPs」を主宰。素材に敬意を払い、料理する楽しさ、食卓を囲む喜びを伝える活動を続けている。
http://www.vegemania.com/


潰して、冷蔵庫で寝かせる。ただそれだけです。

マスタードのレシピといっても、実は目安でしかなく、細かい数字は作り手の好み次第と言っていいと思います。普通手に入るマスタードシードは、イエローとブラウンの2種類。ブラウンのほうが、辛みが強いそう。どちらを選ぶかというところで、すでに作り手の好みが反映されるわけです。

いわゆるイングリッシュマスタードは、黄色いほうをよくすり潰してあり、古いレシピを見ると、少し小麦粉が入っていたり、ビネガーの代わりに水でもいい、などと、あまりおいしそうではないような材料も登場しており、しかしそれも食文化と思えば興味深いもの。ただし、想像通りの辛み優先な味であることは確かなので、料理を盛りつけた傍らに添える美しいマスタードと考えると、フレンチマスタードと言われるものに準じた作り方が自家製には合っている気がします。

今まで繰り返し作ってみたマスタードですが、本当に作り手の自由度が高いものですから、2種類を混ぜ合わせてもいいし、片方ずつを同時に作り、酸味の種類を変えてみるのも面白い。風味のコンビネーションを変えると、合う料理の種類や幅も変化しそうです。趣味的な楽しみ方ができるのがいいところだと思います。時間の経過が調和を作るのも、やってみるととても興味深いはず。

決め手の材料のひとつはビネガーですが、これも使うのは1種類と決めつけずに、すっきりしたものと甘味のあるタイプとを組み合わせたり、ブラウンマスタードならシェリービネガーや赤ワインビネガー、少しバルサミコを加えると、こくのあるマスタードに。

スパイスは、色を加えるという意味でもターメリックが基本にはなりますが、ナッツメグやクローブなど、味を深めるのにいいスパイスもあります。他には、クルミやアーモンドを一緒に砕いて加えても。料理の幅が広がる調味料というより、より単純な料理で満足できるのがマスタードの効果です。


【材料】(作りやすい分量)

マスタードシード(ブラウン)・・・90g
白ワインビネガー・・・約70ml
リンゴ酢、千鳥酢など甘い風味のあるもの・・・約70ml
塩・・・約小さじ1/3
ハチミツ・・・大さじ2
ターメリック(パウダー)・・・小さじ1/4

【下準備】
1 水から10分煮沸したガラス瓶を用意する。
2 ビネガーは2種類を混ぜ合わせておく。

【 作り方 】
[1] 材料を合わせて回す


フードプロセッサーに、マスタードシードと塩、ハチミツ、ビネガーの半量を入れ、数秒ずつ様子を見ながら回す。

[2] 残りのビネガーを加える

残りのビネガーを加えてさらに回し、皮がむけて黄色っぽくなり、少し粒が残るくらいで止める。

[3] ターメリックを加える


ターメリックを加えて馴染むまで回す。
POINT: ターメリックは容器に色が移るので、プラスチックやアクリル製の場合は、最後に加えて、短時間で洗うのが無難。

[4]馴染んだら冷蔵庫へ

馴染んだら容器に移して冷蔵庫へ。
POINT: 2週間後、一旦開けて混ぜて味を見る。この段階では、辛さが強め。まろやかに仕上げたい場合は、さらに2週間ほど保存。

◆仕込み時間:40分 ◆食べごろ:2週間~4週間後 ◆保存方法:冷蔵庫で1カ月

【道具のポイント】

潰す道具
小型のフードプロセッサー、カップ状のブレンダーなどが便利。ない場合は、マスタードを一晩以上ビネガーに漬けてから、すり鉢ですり潰す。粗めだが、存在感のある仕上がりに。

【ワンポイントアドバイス】

<初級者編>瓶の中の変化
寝かせている間、マスタードは水分を吸って膨らんでくる。ビネガーの量で食感も変わるので、とろりとした状態に仕上げたい場合は、大さじ2~3くらいのビネガーを加えておくといい。

<上級者編>
アレンジも自在!作りなれてきたらクルミやクローブ、ナッツメグなどを加え、オリジナルのマスタードにも挑戦したい。

<自家製マスタードの展開例>

ドレッシングに:ボウルにオリーブ油とマスタード、レモン汁を搾ってよく乳化させる。


グリル野菜のマスタード風味・・・温かいグリル野菜は程よい歯応えがあって瑞々しい味わい。マスタードドレッシングがほんのり温められるので、主菜的にたっぷり食べたくなる。香ばしい焼き目は視覚だけでなく味のアクセントになる。


ソースに:湧く直前の生クリームにマスタードを落としてよく混ぜる。

茹で鶏とマスタードソース・・・マスタードと生クリームだけで完成したとは思えないほど、安定感のあるソース。冬は温かい料理として、夏は茹で鶏もマスタードソースも冷やしておいて、冷製として、2通りの愉しみ方ができる。

◎長尾智子さんの著書

『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)でも自家製調味料のページを設け、様々な目からうろこの自家製アイテムを紹介している。

(雑誌『料理通信』2015年7月号掲載)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。