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“食×SDGs” ウェビナー開催レポート #2 「仁井田本家」 仁井田穏彦さん×「鈴木農場」 鈴木智哉さん×「catoe」 加藤智樹さん

SDGs未来都市こおりやま:これからのまちづくり -地域内連携で食の未来を豊かにする-

Mar 31, 2021

text by Saori Bada

2019年7月、内閣府より「SDGs未来都市」に選定された福島県郡山市。「SDGs体感未来都市 こおりやま」を掲げ、健康で豊かな暮らしが次世代以降に渡り続いていくまちづくりに取り組んでいます。その郡山市で地域の食文化を守る担い手の方々に、持続可能で豊かな食文化を育んでいくというテーマでお話しいただきました。



郡山市の食のリレー

郡山市の食に携わる方々は、様々な立場の人がリレーのように繋がりながら支え合っています。例えるなら、第1走者が農家などの生産者、第2走者は仲卸、第3走者はレストランや家庭の料理人、そしてアンカーは食べ手である消費者。それぞれが互いに興味を持って情報交換をし、さらに自治体が個々の取り組みや想いが伝わるよう情報を広め、リレーの中で共有できるよう働きかけています。

今回のウェビナーにご登壇いただいたのは、幾度かにわたる取材で出会えた、郡山に根差し地域の未来を見据える方々。酒蔵「仁井田本家」18代目の仁井田穏彦さん、「鈴木農場」4代目の鈴木智哉さん、レストラン「catoe」オーナーシェフの加藤智樹さん、そして、彼らの活動を支える郡山市の小林宇志さんです。
それぞれの立場から、今の取り組みや想い、今後の課題などについて語っていただきます。まずは第1走者の「仁井田本家」仁井田穏彦さんのお話しに耳を傾けてみたいと思います。



仁井田本家 
次の世代に向けて田んぼを守り、酒造りをつなぐ
「仁井田本家」第18代蔵元杜氏 仁井田穏彦さん

―「仁井田本家」は1711年創業、300年以上の長い歴史を持つ酒蔵です。

18人の蔵元が代々繋いできた300年の酒造りを私達が継ぎ、次に繋ぎたい。そのために、100年先を見据えた酒造りをしています。つまりそれは、水を守り、米が育つ田んぼを守るということ。そのためには、水を育む山はできるだけ自然なまま、人が余計なことをしない。自然の力を使わせていただきながら、酒造りを受け継いでいくべきだと先代から伝えられ、私達もそうしています。

―酒米は全て自然米ですね。

全て無肥料、無農薬のオーガニックな自然米です。自社の田んぼも、周辺の契約農家のみなさんの田んぼも同じです。もともとの田んぼの土を元気にする循環型農業で自然米を作り、酒を造っています。自然に無理をさせないことが環境を守ることになり、その結果良い米、酒造りも続けられると思います。


―無農薬栽培は米の収量が減るのでは?

田んぼの環境を自然に戻すと、土の中の微生物が活性化し、土本来の自然の力が蘇ります。うまくいくと慣行栽培の7割ほどの収量が保てる。それが自然に則した丁度良い収穫量なのだと考えます。

―永く続く酒造りで大切にしていることは何ですか?

私達の代のテーマに「自給自足の蔵」というものがあります。酒造りに関しても、米以外は何も買わないで行いたい。醸造過程においても、酒蔵に住んでいる自然の微生物たち、いわゆる蔵付き酵母に酒を醸してもらいます。蔵付き酵母は自然環境が生み出したものですから、酒も自ずとここにしかない味になる。そして体にもやさしく、ほっとする味わいになる。そう考えています。

―米や酒だけでなく、木桶も自分たちで作り始めたのはなぜでしょうか?


自給自足の一環です。祖父の16代目が酒造りと同時に林業の会社も経営し、植林と間伐を行いながら裏山に杉の木を育てていました。その杉がしっかりと育ってきたのでこの木で桶を作り、さらに新しい世代に、この木桶を渡していきたい。具体的には、昨年から年に1本ずつ木桶を作り、15年かけて蔵の酒造りはすべて自社の杉の木桶で醸していきたいです。自然の恵みを酒造りに活かすことで、味もよく、環境にも負荷をかけない酒造りを永く続けられるのではと考えています。

もう一人の第1走者、「鈴木農場」鈴木智哉さんにお話を伺います。


鈴木農場の鈴木智哉さん、郡山市の小林宇志さんは郡山市内の加藤智樹さんの店「catoe」に集合。3人揃ってウェビナーに登壇いただきました。左から鈴木さん、加藤さん、小林さん。



鈴木農場 
流通事情より、身近な消費者や地元で料理をする人に寄り添う農業を
鈴木農場4代目 鈴木智哉さん

photograph by Hide Urabe

―お父様の3代目鈴木光一さんが中心となって、2003年に「 郡山ブランド野菜 」を立ち上げられました。

もともと郡山は日本有数の米どころで、鈴木農場も米から始まりました。3代目の父の代から野菜作りを始め、親戚から種苗店を引き継いだことがきっかけで、作る野菜の品種に注目するようになりました。にんじんだけでも400種近くあるのに、それまで日本に流通する野菜は、サイズや品種が運搬等で扱いやすいものや、作りやすいものがほとんど。でも実は、育てるのは難しくとも味は良い品種がたくさんある。まずは地元の人たちにこそ新鮮でおいしいものを食べてもらおうと、味も良く郡山の気候風土に合うものを厳選し、2003年に「郡山ブランド野菜」をスタートしました。グリーンスウィートという枝豆から始め、品種を一つずつ増やして現在は13種になります。


Photograph by Junichi Miyazaki

―ブランド野菜の立ち上げ以降、地元の料理人との付き合いも増えたと伺っています。

郡山はもちろん、東京のファーマーズマーケットなどにも参加しています。野菜を自分で売ることで、買いに来てくれた飲食店のシェフなどと関わりが生まれました。料理人や食べる人がどんな野菜を欲しがっているのか、あるいは食べた感想などを直に聞く機会が増えたことは、野菜作りのモチベーションにもなっています。

―生産者として、料理人や消費者と積極的に関わろうと思ったきっかけは何ですか?

農業大学を卒業後、オーガニック野菜の生産と消費が盛んなアメリカのファーマーズマーケットを視察しました。特にポートランドは印象的で、お客は週末に、1週間分の野菜をマーケットでまとめて購入するという文化が定着していました。消費者と生産者が直接つながり、地域でコミュニケーションも取られている様子を見て、自分も今後のあり方の目標にしたいと感じました。


郡山市小林さんの声掛けで、青山ファーマーズマーケットに出店。ポートランド視察で得たアイデアでディスプレイを工夫。食の感度が高い客層から多くの反響があったと言う。

―この先どんな野菜作りを考えていますか?

これまでの規格(サイズ)重視の野菜から離れ、もっと自由に、もっと食べる人や料理する人が欲しいと思う、必要とされる野菜を作っていきたいです。


続いてお話を伺うのは、第1走者からバトンを受け取る料理人・加藤智樹さんです。



「catoe」
生産者や仲卸が託した素材を食べ手に届ける、料理人としての役割
「catoe」オーナーシェフ 加藤智樹さん

photograph by Hide Urabe

―東京のレストランで修行後2007年に郡山に戻り、2013年「トラットリア・バール・ラ・ギアンダ」開店、2020年12月に現店をオープンされました。地元生産者を訪ね、地域の食材勉強会にも積極的に参加されるなど、加藤さんは郡山の生産者や漁師、仲卸ともつながりが深いと聞きます。

地元にいるときは野菜が新鮮なのは当たり前だと思っていましたが、東京で料理修業後郡山に戻り、改めて地元の食材の素晴らしさに気が付きました。大きなきっかけは、2014年に郡山市で「開成マルシェ」が始まったこと。地元の和菓子店の中庭にテントを立て、農家や酒蔵など生産者から話を聞きながら直接買い物できる場ができたことを機に、繋がりが生まれました。

さらに畑や漁港を訪ねて生産者や漁師と話をするうちに、遠いヨーロッパから空輸で届くものを使うより、車で15分の畑からとってきた新鮮なものを使うほうが意味があることに気付かされました。昔から地域にある身近な食材を使って、イタリアと日本を融合させた料理を作ろうと気持ちも変わってきました。その方が自然だし健康的だと思ったのです。


鈴木農場を訪れる加藤智樹さん(右から2番目)photograph by Hide Urabe 

―狩猟免許を取得されているのですよね。

ヨーロッパでは、オーナーシェフが時季になると猟に出て、自分で捕らえた地元の食材を調理し提供している。これは僕の憧れであり理想の形です。また、地元の食材や生産者に詳しくなると、オリジナルのメニューが生まれます。流通に乗せにくい繊細な野菜や希少な素材、味に影響はないが見栄えの悪い規格外のもの、一般に売られない地魚などがいい例です。これらは料理人の知識や技術で美味しく活かすことができる。生産者と料理人が密に繋がることで、それを食べる地元の消費者も、豊かな食体験ができることになると思います。


ここで郡山の人々を繋ぎ、地域の食の営みを支える郡山市の小林宇志さんにお話しいただきます。



郡山の食文化を誇りに思ってもらえるよう、
地元の方にこそ働きかけていきたい。
郡山市 農林部 園芸畜産振興課 小林宇志さん

―郡山市は、官と民が近いという印象を受けます。

2014年、郡山のシティープロモーションの担当になり、郡山ってなにもないと思いがちな地元の人に、地元を知ってもらうことから始めました。そのためには、まず市役所職員自身が魅力を知るべき。ワークショップを開いて郡山の魅力の掘り起こしを始め、ファクトシートにまとめて共有するという勉強会を重ねました。

―魅力を発信するために生産者を訪ねているうちに、彼らのファンになったのですね。

郡山の魅力で際立っていたのが食でした。もう本当においしい。しかもそれらを作っている人はさらに魅力的。まずは当時郡山市内でスタートしていた「開成マルシェ」というファーマーズマーケットの活動の輪に入れてもらい、設営に参加したりしながら少しずつ信頼関係を築きました。みなさんの要望や想いを直に聞き、支えられる行政でありたいと考えています。

―最近では、仁井田本家の木桶プロジェクトを広報面でサポートされました。

仁井田本家の敷地内で、家具職人や大工、醤油や味噌などの蔵の人達が集まり、杉の木で木桶を作るプロジェクトでした。地産地消の一つの形であり、地元の人にこそ知ってほしい活動として、応援しています。このプロジェクトの様子は、活動に関わった方々のおかげで、地元メディアを中心に、多くのメディアに注目されました。



つくり手の想いを知った食は、なにより豊かである。

―10年後、郡山の食はどうあるべきか、どうありたいか、ぜひ共有ください。

仁井田:持続可能な酒造りで大事な自給自足の取り組みは、これからが本番。10年後もその先も着実に進めていきたい。便利すぎる世の中よりも、少し不便な中で生まれる工夫や知恵、努力を紐解くと、古くて新しいヒントが見つかるのではと考えています。

鈴木:10年後を見据えて、地域や地元の身近な人とのコミュニケーションをもっと大切にしたいです。自分達からも積極的に提案を続け、郡山の食文化に良い影響力を持てる農家になりたい。郡山には同世代に農家希望の人も多いですし、地元の料理人とも連携しはじめています。若手のネットワークを大事にしていきたいです。

加藤:郡山を豊かな食材のある美食の町として、さらに広く訴えていきたいです。僕の新しいレストランは厨房を広く作っていますが、それは地元の料理人や生産者と一緒にイベントや勉強会などを開き、楽しく知識や技術や想いを共有したいから。レストランをひとつの拠点に、郡山の食文化をさらに盛り上げられたらと思います。

小林:郡山が地産地消は当たり前の美食の町として、まずは地元の方に気づいてもらえるようにしたいですね。もっと地元へ働きかけて行こうと思います。造り手の想いを知った食は、なにより豊かですから。


生産者、料理人、市が普段から信頼関係を築き、仲良く連携されていることが伝わるセッションの様子はぜひアーカイブ配信でご覧ください。


こちらは、本トークセッションをご覧になりたい方のためのアーカイブ動画となります。セッションの様子の録画・録音やスクリーンショット、および登壇者によるプレゼンテーション資料の無断転用は固くお断りいたします。





◎仁井田本家
https://1711.jp/

◎鈴木農場
Instagram @suzuki_nojo

◎catoe
郡山市西ノ内1-19-7
☎0249-83-7367


◎問い合わせ先
福島県郡山市農林部園芸畜産振興課





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