サバイバルレシピ16 千葉「性学餅(せいがくもち)」
翌日までやわらかく高齢者にもやさしい!うるち米の餅
2023.08.03
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text by Kyoko Kita / photographs by Ayumi Okubo
連載:サバイバルレシピ
⾷糧難、災害時をどう乗り越える?
人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。
目次
田んぼの周りを水路が巡っていた関東一の米どころ
たがね餅(茨城)、べろべろ餅(山形)、ごんだ餅(北陸)、粥餅(秋田)、美女餅(岐阜)・・・日本各地の米どころでは、昔から地域ごとに名前や形の異なる餅が作られてきた。餅米だけ、うるち米だけ、両方混ぜてなど、一言で「餅」と言っても実に様々だ。
千葉県北東部、利根川沿いに位置する香取市佐原は、古くから水郷として知られ、かつては関東一の名を馳せるほど稲作が盛んに行われてきた。今も一面に田んぼが広がり、米の出荷量は県内トップを誇る。
「50年程前まで、この辺りの道は水路だったんですよ。人と一緒に農具や苗や、刈り取った稲もみんな船に乗せて運んでいました」と話すのは、この地で300年続く米農家の10代目となる根本孝さんと由美子さん。現在は米作りの傍ら、味噌やおかき、赤飯など米を使った加工品を作り、道の駅に出荷している。
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300年続く農家の10代目となる根本孝さんと由美子さん。米作りの傍ら、孝さんはおかきと味噌を、由美子さんは「つきぬき餅」と赤飯を作り、道の駅に出荷している。
貧しい農民たちにも餅のおいしさを!
その中の一つに、うるち米で作る「性学餅(せいがくもち)」、通称「つきぬき餅」がある。この地を拠点とした江戸末期の農業指導者・大原幽学(ゆうがく)が、当時貴重だった餅米から作る餅のおいしさを、貧しい農民たちにも味わわせたいとの思いで考案した。性学餅という名前は、大原が道徳と暮らし方について説いた「性学」に由来する。一晩水に浸したうるち米を蒸して、洗って、また蒸してからつく。「腰をしっかり抜いて作るから“つきぬき餅”と言うんでしょうね」
この餅はしかし、歴史のどこかで一度影を潜めている。根本さん夫妻も「子どもの頃に食べた記憶はない」という。由美子さんがつきぬき餅の存在を知ったのは30年程前。当時、千葉県内を回って郷土料理を指導していた農業改良普及委員の講習会で、その作り方を教わった。「口当たりはつるんと滑らかで、うるち米だけで作ったとは思えないほどやわらかい。喉に詰まりにくいから高齢者や幼児にも食べやすく、翌日も硬くならないんですよ」。その魅力にとりつかれ、以来、毎日のように作っては出荷を続けてきた。
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春に摘んで冷凍しておいたヨモギの葉をたっぷり加えた「つきぬき草餅」は、きな粉とセットで販売。
いつものお米がお餅に!「性学餅」の作り方
何も加えないシンプルなつきぬき餅もさることながら、春に摘んで冷凍したヨモギをたっぷり加えた草餅も絶品だ。鮮やかな緑色で、白い餅よりさらにやわらかく、口に含めば春の香りがぶわっと鼻に抜ける。
[材料]
うるち米(コシヒカリ)・・・1㎏
ヨモギ(冷凍して茹でたもの)・・・400g
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[作り方]
[1]米を水に浸ける
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うるち米を洗って一晩水に浸ける。
[2]水気を切る
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うるち米をざるに上げ、水気を切る。
[3]米を蒸す
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濡らしたさらしで米を包み、蒸し器で30分程蒸す。
[4]蒸した米を洗う
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蒸した米を取り出し、流水で洗ってぬめりを取る。
[5] 再び蒸す
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再び蒸し器で30分程蒸す。
POINT:米の芯が抜け、腰がなくなる。
[6]餅つき機でつく
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餅つき機に移し、通常の餅と同じ要領でつく。
POINT:途中で何度かしゃもじで押さえ、ムラが出ないようにする
[7]つき上がり
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ひとまとまりになり、表面がつるんとしたらつき上がり。
[8]取り出して成形する
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表面を叩くようにして俵型に成形する。
POINT:すぐに食べない場合はラップでぴったり包み、冷蔵庫で保存する。
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<草餅の作り方>
[1]ヨモギを温める
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茹でて冷凍しておいたヨモギを電子レンジで温める。
[2]餅にヨモギを加える
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つき上がった餅にヨモギを加え、さらに餅つき機を回してヨモギを練り込む。
[3]つき上がり
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全体がむらなく鮮やかな緑色になったら完成。
[4]成形
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白い餅と同様に、表面を叩くようにして俵型に成形する。
POINT:すぐに食べない場合はラップでぴったり包み、冷蔵庫で保存する。
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【動画をcheck!】「性学餅」の作り方
<食べ方>
[1]食べやすい大きさにちぎる
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水をつけた手で餅をぎゅっと握り、絞り出すように一口大にしてから、ちぎる。
POINT: 冷蔵庫で保存して硬くなった場合は、レンジで軽く温めるとやわらかさが戻る。
[2]好みのトッピングをする
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きな粉や、由美子さんお手製の甘さ控えめのあんこを添えて食べる。
記憶の中に生き続ける、暮らしに根付いた餅文化
「昔はよく “しんこ餅”というのを食べていました。蒸した米粉をすりこぎでついて作るんだけど、摘みたてのヨモギをこれでもかってほどたくさん入れるから、それはもうおいしかった」と、孝さんは懐かしそうに目を細める。「私は薄く切って乾かした餅を炭であぶったのを、お弁当代わりに学校に持って行きましたよ」と由美子さん。
日々の生活に根付いた様々な「餅」の味は、その姿が失われてもなお、食べてきた人の記憶の中で、その情景と共に鮮明に生き続けるのだろう。由美子さんが作るつきぬき餅も、今まさに佐原に暮らす人々の思い出の味となっていくのかもしれない。
<性学餅を購入できる場所>
◎道の駅 水郷の郷 さわら
千葉県香取市イ3981番地2
☎0478-50-1183
http://www.e-sawara.com/