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SDGs

国連WFPがしていること。

2020.12.04

text by Kyoko Kita / photographs by WFP(top photo by Musa Mahadi)

今年のノーベル平和賞は世界最大の食糧支援機関である国連WFP(世界食糧計画)に授与されました。「空腹を抱える世界は、平和な世界ではない」(国連事務総長)。今日食べるものがない人たちに食糧を届け、命を繋ぐWFPは、平和を望むすべての人の思いを背負って活動を続けています。




都市部をも襲うハンガーパンデミック

6億9000万人、約11人に1人が飢えている――国連WFP(世界食糧計画)のノーベル平和賞受賞のニュースは、その活動の重要性と共に、世界が今直面している最も厳しく緊急の課題のひとつが飢餓であることを世に知らしめました。飢餓は2005年以降減少傾向にあったものの、2016年から再び増加しています。
「主な要因は紛争。近年は異常気象による自然災害も頻発しています。サバクトビバッタの大量発生も来年以降、深刻な影響が出てくるでしょう」と国連WFP日本事務所広報コンサルタントの我妻茉莉さん。加えて今年は新型コロナウイルスの感染拡大が世界の隅々まで打撃を与えています。(TOP写真:南スーダンの支援地域で、今年の夏起こった大規模な洪水災害)。

国連WFPは世界最大の食糧支援機関で、各国政府からの拠出金や民間企業、個人からの寄付を財源に、飢餓のない世界を目指し活動を続けています。昨年は88カ国、約1億人に支援を実施。紛争地帯や被災地などへの緊急支援では、食べ物がなくても生き延びられる48時間以内に食糧を届けることをミッションに掲げ、周辺各国と連携しながら食糧を調達、あらゆる輸送手段を駆使して現地に届けています。また途上国での給食支援や母子栄養支援、小規模農家の自立支援なども恒常的に行っています。



WFP/Agron Dragaj 2019年には59カ国の1730万人に学校給食を提供。65カ国3900万人の子どもたちが国連WFPの支援を受けた学校給食の提供を受けている。

WFP/Rose Ogola




コロナがもたらした“ハンガーパンデミック”の脅威は、これまでの主な支援地域である農村や紛争地帯だけでなく、都市部にも及んでいます。「国外で出稼ぎする家族からの仕送りが減り、国境封鎖や商業フライトの減少で物流が滞ったため食糧価格も高騰しました。ハウスキーパーなど都市部で働く貧困層の多くは、収入の大半を食費が占めています。職を失えば、食べ物を買えなくなる。失業と飢餓が直結しているのです。アフリカでは養わなければならない家族も多く、学校給食がなくなったことで家庭での負担はさらに増えています。今年は支援要請が相次ぎ、飢餓人口が昨年の2倍以上に増えた国や地域もあり、過去最大規模となる1億3800万人に支援を行っています」。


あらゆる支援の要、“物流のプロ”

教育格差、貧困、飢餓、紛争、環境破壊といった問題は、複雑に絡み合い連鎖しています。飢餓を単独の問題として解決することはできません。そこでWFPでもWHO(世界保健機関)、ユニセフ(国連児童基金)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)など、他の国連組織との連携を重視しています。「WFPは毎日平均5600台のトラック、30隻の海上輸送船、100機の飛行機を動かし、アクセスの困難な地域にも食糧を届けていることから“物流のプロ”と呼ばれていて、そのネットワークは各国連組織が現地で活動を行う上で欠かせないものになっています。



WFP/George Ngari 民間セクターなどと連携を図りながら、人道支援機関がより多くの人命を迅速に救えるよう、物流や情報通信に関する資源や機能を提供する。



現地への出入りは基本的にWFPの航空輸送サービスを使いますし、医療物資や教育資材の輸送も担っている。ユニセフとも給食の提供を条件に通学を促し就学率を上げる取り組みをするなど、様々な形で連携しています。また国連組織だけでなく、ラスト・ワンマイルを運ぶ現地のNGOとの協力も非常に重要です。紛争地帯なのか、被災地なのか、枯れた農村なのか、状況によって食糧の配り方や届ける内容も変わってきます。私たちは、現場ごとの必要に合わせた支援の在り方を見極めています」。



WFP/Khudr Alissa 紛争が10年目に入るシリアでは、人口の3分の1が食糧不安に陥り、医療施設の半分以上は機能していない。コロナ禍でも支援は継続された。




コーヒー1杯のお金で繋げる命

日本にいる私たちができることは何でしょうか。「現地では効率化も喫緊の課題になっていて、虹彩認証などテクノロジーの活用を積極的に進めています。日本企業からは技術面での支援をいただけると、双方にメリットがあるのではないでしょうか」。 また、日常生活で実践できる取り組みとしてWFPが提案するのは、食品ロスの削減です。「飢餓の改善に直結するわけではありません。でも、世界には全人口を賄える十分な食糧があるにも関わらず、これだけ多くの人が飢えている現実がある。日本だけでも毎年WFPが支援する1.5倍量の食品を廃棄しています。余っている食べ物があるのならば、必要としている人たちの手に届けたいと思うのです」。

WFPでは、食品ロス削減を呼びかける2カ月間の「ゼロハンガーチャレンジキャンペーン」を2018年から実施。今年は昨年の3倍以上となる約52万アクションを記録しました。この運動は、食品ロス削減に繋がるアクションをSNSに投稿すると、1投稿当たり120円が協賛企業からWFPの給食支援に寄付されるというもの。支援の現場で何より必要とされるのは、やはり寄付金だといいます。



小さなアクションも食品ロス削減につながる。『料理通信』も参加した「ゼロハンガーチャレンジ」。残ったパンを活用する「ティオダンジョウ」壇上桂太シェフのサルモレッホのレシピ。

「今日明日の命を繋ぐために本当に必要なのは、物ではなく食ベ物を買うお金なのです」。それは他の国連機関でも同じ。「まずは各機関がどんな役割を担っているか知ってもらい、共感できる活動があれば寄付をしていただきたいと思います」。 
SDGsが2030年までに掲げる「飢餓をゼロに」という目標は遠い。けれどコーヒー1杯分のお金で、繋げる命があるというのもまた事実なのです。




◎ 国連WFP(国連世界食糧計画)
https://ja.wfp.org/

◎ ゼロハンガーチャレンジキャンペーンサイト(2020年度キャンペーン結果)
https://www.jawfp.org/worldfoodday2020/





ゴールとのつながり


1

2

貧困をなくそう・飢餓をゼロに  飢餓の現状を知り、寄付を通じて支援する。


3

健康と福祉  支援を通じて、途上国の子どもたちへ、栄養バランスの取れた給食を届けるサポートをする。


12

つくる責任つかう責任   食材の買い方や食べ方、料理の工夫で、食品ロスを減らしていく。



国連が、世界各国の報道機関を対象に発足させた「SDGメディア・コンパクト」は、SDGsに対する認識を高め、さらなる行動の活性化を支援することを目的としています。
料理通信社は「SDGメディア・コンパクト」の加盟メディアとして、今後より一層、食の領域と深く関わるSDGs達成に寄与するメディア活動を続けて参ります。



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