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食の人々が教えてくれたこと。
第4回 感動するということ。~「le 14e (ル キャトーズィエム)」茂野真シェフ

People / Life InnovatorMay. 9, 2016

自分が感動しなければ、人の心は動かない。


「お客さんを感動させたい!」――料理人やサービスマンなら誰しもが思うことだろう。しかし、現実は思うようにいかず悩み苦しむ場合がほとんどだ。仕事柄、私のところにも「こんなにもお客さんのことを考えているのに伝わらない」といった類の相談がよく寄せられる。そんな時に決まって言うことがある。

「感動屋さんになってください」

人を感動させるには、まずは自分が感動しなければならない。自分がドキドキワクワクしてなければ、他人の心を動かすなんてできるはずがない。お客さんはただおいしいものを食べたからといって感動するわけじゃない。そこに携わる人たちやお店に感情移入してこそ、初めて心から感動するのだと思う。

photograph by Kaori Funai


一部の芸術的なレベルのものを除けば、お客さんは料理やワインといった“もの”よりも、“ひと”に心を動かされるのだ。そこに大した技術はいらない。まずは自分が感動したことをシンプルに、でも、情熱的に伝えればいい。

世界一の感動屋さん。





「藤丸!これ、めちゃくちゃ旨いで!」
もう何百回、彼の口からこの言葉を聞いただろうか。京都・河原町丸太町のビストロ「le 14(ル キャトーズィエム)」の茂野真シェフは間違いなく「世界一の感動屋さん」である。

同郷で、同じ釜の飯を食べたこともあり、私の人生の節目に必ず現れるこの料理人は、料理やワインに限らず自分が感動したものすべてを「めちゃくちゃ~」というシンプルな表現と満面の笑みで語りかけてくる。不思議なことにその彫りの深いキラキラした眼で薦められると、何でも凄く感じてしまう。そこには技術や、ましてや打算などない。ただ、ひたすら自分が感動した「凄いもの」を伝えたいという気持ちだけなのだ。

今から15年前になるだろうか。フランスで料理修業中の茂野シェフがビザの更新のために一時帰国の際に立ち寄った古巣のワインバーで同席したのが初対面だったと思う。
彼はすでにパリでヴァン・ナチュールの最前線に身を置いていて、日本で沸々と煮え切らない日々を過ごしていた私には、彼の話す内容がほとんど理解できなかった。が、興奮気味にパリでの日々を語る彼がとても眩しく感じた。俺も負けてられない、そんなことを思い出した矢先、彼が1本のワインをカバンから取り出した。

「このワイン、めちゃくちゃ旨いで!」

このフレーズを最初に聞いた瞬間だった。

これだけでいい。他にはいらない。





彼がフランス修業の中で最も感動したというそのワインは、高価でもレアでもない、とある造り手の1Lのテーブルワインだった。「なんでわざわざこんなワインをハンドキャリーまでして持って帰ってきたのだろう?」という疑問はすぐに解けた。香りを嗅いだ瞬間、体中に電撃が走り、口に含んだ瞬間、脳内がトリップした。尼崎のひっそりとしたワインバーで薄暗い照明の下、男3人で膝を突き合わせて飲んでいたにも関わらず、写真でしか見たことのないアルザスの色鮮やかな美しいブドウ畑が眼前に広がったのだ。

ワインを一口飲んだだけで、行ったこともない産地が頭に浮かんでくるなんて、漫画の中だけだと思っていた。自分が勉強してきたワインとは違う世界がそこにあった。そして、いたく感動して、茂野シェフに「他にはどんなワインを持って帰ってきたの?」と興奮気味に聞いたら、なんとこのテーブルワインを10本、バックパックに詰めて帰ったという。普通はいろんな種類を持ち帰ってくるものだが、彼は違った。もうこの1種でよかったのだ。

その後、長い付き合いになっていくのだが、料理やワイン以外でも彼にはマイブームがあって、音楽でも一度はまるとそのミュージシャンしか聞かなくなる。家具や服もそうだった。そのブランドにはまったらしばらく他に何もいらなくなる。そして、深く深くその造り手を理解していく。それが今の茂野シェフを形成していて、結果的に多趣味に見えるが、範囲は狭く、造詣は海よりも深い。

たとえば、自分の大好きなヴァン・ナチュールの造り手に関してはいくらでも話せるが、ワインを勉強している人なら最初に学ぶであろうボルドーの格付けワインの名前を挙げてみろと言っても、おそらく1種類も出てこない。期間の長短はあれ、一事が万事、そんな感じで、彼はいつも何かに感動している。

牛肉にはまり続けている。





そんな茂野シェフが一番長く深くのめり込んでいるものを、私は知っている。それは“牛肉”だ。偶然、彼がパリで働いていたレストランの近くに肉料理で有名なビストロ「ル・セヴェロ」があった。

その肉料理に感動した彼は、自分の休みの日を使って、「ル・セヴェロ」で働き出した。ちょうどその頃、私も海外放浪していたので茂野シェフの家に居候していたのだが、本当に朝から晩までずっと「肉」の話をしている。で、3分に1回ぐらい「セヴェロ、めちゃくちゃ凄いで」となる。枝肉の状態から肉を裁き、熟成させ、調理をする。そのポイントポイントを聞いてもないのにひたすらしゃべり続けていた。しばらくすると自分もできるんじゃないかと錯覚してしまうぐらいだった。

ほどなくして彼はセヴェロに移籍し、重要な役割を担っていくのだが、その後、帰国してから現在に至るまで彼はずっと「牛肉」にハマり続けている。霜降り肉や赤身肉と言うのではなくて元気で健康な牛でないとダメなのだ。
彼はいつだって狭く深くなのだ。

もっとセンシティブになっていい。





そして、その一点突破で彼は日本一の肉焼きシェフとして名を轟かすことになった。こう書くと「肉しか焼けないのか?」と思われるかもしれないけれど、物事の本質に近づいた人間は、他にも応用ができるものである。彼の肉焼きの精度が上がっていくと共に、他の料理も余計なものが削ぎ落とされて、ピカピカと輝いて見えるようになった。

飲食人はもっともっとセンシティブになってよいと思う。もらい泣きということがあるように、その人が感動している姿を見て、人はまた感動する。感動は伝染するのだ。

彼のお店に行くといつも心を動かされる。ただ、いつ行っても彼が言うことは一つだけ。
「藤丸!これめちゃくちゃ旨いで!」







茂野シェフが教えてくれたヴァン・ナチュール





本文に出てくるアルザスのワインがこちら、ジェラール・シュレールのエデルツヴェッカー。ただ、現在輸入されているものとは中身が違うようで、当時、私たちが飲んだのは現地でしか流通していないキュベだった。今でも一番大好きな造り手であり、私がヴァン・ナチュールの世界にのめり込むキッカケとなったワインだ。このワインを飲んで、当時の仕入れ先だったワインショップに夜中にも関わらず電話をして、こんな感じの造り手のものを送ってほしいと依頼。ダール・エ・リボ、ビアンカーラ、ラディコン、ヴォドピーヴェッチなど、後に超有名になる造り手達の初期のワインをたくさん仕入れることになった。当時から彼らのワインはとても個性的で魅力に溢れていた。10年以上も前にそんなワイン達に出会えたことは、ワイン人としてとても大きな財産になっている。

le 14e (ル キャトーズィエム)
京都府京都市上京区河原町丸太町下ル 伊勢屋町393-3 ポガンビル2F
075-231-7009
平日 12:00~13:30LO 18:00~21:30LO
土日祝 16:00~21:30LO
水曜、木曜休
カード不可、10席(うちカウンター4席)、禁煙
京阪電気鉄道神宮丸太町駅より徒歩5分

藤丸智史(ふじまる・ともふみ)
1976年兵庫県生まれ。株式会社パピーユ代表取締役。ソムリエとして勤務後、海外のワイナリーやレストランで研修。2006年、「ワインショップ FUJIMARU」を開店。大阪市内に都市型ワイナリー「島之内フジマル醸造所」、東京に「清澄白河フジマル醸造所」を開設。食の生産者と消費者を繋ぐ楔役としてワインショップやレストランを展開。 www.papilles.net







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